「同居している親の歩行が不安定になってきた」
「廊下に手すりがあるといいけど、工事にはお金がかかるし」
介護を必要とする方と同居する家族の中には、このような悩みを持っている人も多いのではないでしょうか。
高齢者の方も住みやすいよう家を工事するにはお金がかかりますが、それを助けてくれるのが介護保険制度です。
原則1人1回の利用になりますが、最大で工事費用の9割を支給してくれます。
この記事では、介護保険住宅改修制度の対象になる工事や利用できる人、利用するための手続きをお伝えします。
介護保険の住宅改修でできること
介護保険の住宅改修は、利用できる人・対象となる工事内容・介護保険での利用限度額が決まっています。
1.利用できる人
要支援・要介護認定を受けていて、自宅で生活している方が対象です。住宅改修の場合、
要介護度は問いません。
ただし、入院中及び施設入所中の方は対象外です。(退院・退所が決まっている方は除く)
2.対象となる工事内容
1.手すりの設置廊下やトイレ、浴室、玄関などに手すりを設置する工事です。
手すりを付けることで、歩行や立ち上がりのサポート及び転倒リスクの低下といったことが期待できます。
2.段差の解消例として挙げられるのは、玄関にスロープや固定式の踏み台を設置する工事です。
段差が解消されることで、転倒を予防できたり、車いす移動がスムーズになったりするなどのメリットがあります。
3.床材の変更居間や寝室の床をクッションフロアにする・浴室の床を滑りにくい材質のものにするといった工事です。
床材を変更することで、転倒時の怪我や骨折リスクの低下につながります。怪我や骨折をすると寝たきりの状態になってしまったり、そのことによって認知症を引き起こすケースもあるので、自宅の中でのリスクを下げるのは重要です。
例としては、トイレのドアをドアノブ式から引き戸にすることが挙げられます。
引き戸にすると、手の力が弱くても自分でドアを開け閉めできるので、便利です。
5.洋式便器への取り替えなどの小規模な住宅改修和式便器から洋式便器に取り変える工事や、便器の位置を変える工事が対象です。
足腰が弱くなりがちな高齢者にとっては、腰がかけられる洋式便器の方が負担は少ないでしょう。それだけでなく、排泄時の介助量が軽減されることによって、自立にもつながります。
6.その他これらに住宅改修に関する附帯工事手すり取り付けに伴う壁の補強や、浴室の床材変更に伴う給排水設備などです。
3.介護保険での利用限度額
要介護度に関わらず、20万円まで利用できます。
原則自己負担は1割ですが、利用者の所得によっては2割、3割負担となります。
自己負担割合別の支給額は以下のとおりです。
- 1割負担:最大18万円支給
- 2割負担:最大16万円支給
- 3割負担:最大14万円支給
なお、住宅改修制度を利用できるのは、原則として1人1回ですが、転居した場合と要介護度が3段階以上あがった場合は、例外的に再度利用できます。
要介護度が3段階以上あがるとは、以下のような状態です。
- 要介護1から要介護4に変更
- 要介護2から要介護5に変更
介護保険を利用するための6ステップ
介護保険の住宅改修制度を利用する手続きは以下の6ステップです。
なお、改修する住宅が賃貸物件の場合は、所有者による承諾書が必要であることを覚えておきましょう。
住宅改修に関する承諾書は、住宅改修の事後申請時に役所に提出する必要があります。
1.ケアマネージャーに相談
まずは改修する箇所、改修内容をケアマネージャーに相談しましょう。
ここで1つ事例を紹介します。
入院中に要介護2の認定を受けた方が、退院後の在宅生活に向けて住宅改修を希望されました。
そこで担当ケアマネージャーは、その方の自宅で住宅改修の打ち合わせを行い、以下の集まったメンバーが集まりました。
- 一時帰宅中の本人
- 家族
- 担当ケアマネージャー
- 病院の理学療法士
- 病院の医療相談員
- 工事を依頼された業者
これは退院後の在宅生活に向けたサービス担当者会議も兼ねており、この会議により、住宅改修及び退院後の生活がスムーズに進んだとのことです。
住宅改修を行う場合、可能であれば、本人の身体状況を理解している医療専門職にも相談すると、身体状況・生活状況に合った住宅改修を行えるでしょう。
2.工事業者選定・見積もり
「介護保険最新情報Vol.664」によると、ケアマネージャーは、改修内容・材料費・施工費・諸経費などを明記した見積もりを複数の業者から取るよう利用者に説明することとされています。
これは、事業所によって価格や施工水準のバランスが大きいことを是正するためです。
工事業者とのやりとりはケアマネージャーが行うことが多いのですが、ご家族もこのことを知っておくとよいでしょう。
3.事前申請
以下の書類を住宅改修前に市区町村役場の介護保険窓口に提出します。
- 支給申請書
- 工事費見積書
- 住宅改修が必要な理由書
- 住宅改修箇所の工事前写真(日付入り)
申請書の提出については、多くの場合ケアマネージャーが行ってくれます。
なお、「住宅改修が必要な理由書」については作成できる人が限られています。作成可能な人は以下のとおりです。
- ケアマネージャー
- 地域包括支援センター職員
- 理学療法士
- 作業療法士
- 福祉住環境コーディネーター2級有資格者
4.工事開始
事前申請を終えてから、業者による工事開始です。
5.費用支払い
工事終了後、利用者(家族)が業者に工事費用を支払います。
工事費用は、先に全額支払い、事後申請してから9割支給される「償還払い」が基本です。
しかし業者によっては、最初から1割だけの支払いでよい「受領委任払い」もあるので、事前に確認しておきましょう。
受領委任払いとは、事後申請後に業者に対して残りの9割が支給される仕組みです。
6.事後申請
以下の書類を市区町村役場の介護保険窓口に提出します。
- 工事費領収書
- 工事費用内訳書
- 住宅改修箇所の工事後写真(日付入り)
- 住宅所有者による住宅改修承諾書(賃貸住宅の場合)
事前申請同様、書類提出はケアマネージャーが行うことが多い状況です。
意外に見落とされがちなのが、事前申請・事後申請時の写真です。
- 撮影場所が工事前工事後で異なっていたので、どこを工事したのか分かりにくい
- 写真に日付が入っていない
こういった理由で、ケアマネージャーが介護保険担当者から指摘を受けた話もあります。
写真は工事業者に依頼することが多いのですが、ケアマネージャーに日付入りの写真を撮ってもらっておくと安心でしょう。
まとめ
この記事では、介護保険制度による住宅改修について解説しました。介護保険制度での住宅改修は基本的には1度きりなので、有効活用したいものです。そこで大事なのが、改修箇所を決定する前の段階。
その人に合った住環境になるように、どこをどのように改修するかを充分話し合って決めることが大切です。
介護保険制度を使うことで金銭的負担は軽減されるものの、工事にはお金がかかります。
- 手すりの高さや太さがその人に合わなかった
- 車いす用のスロープの幅が狭く、操作に支障をきたした
業者を選ぶ際はケアマネージャーに相談することに加えて、介護保険制度での住宅改修の実績数や、福祉住環境コーディネーター有資格者の有無をチェックして選ぶと安心です。
要介護者が安心安全に暮らせて、少しでも自立した生活が可能になる環境つくりのため、介護保険制度の住宅改修を上手に利用しましょう。