今回は終活カウンセラー協会認定終活講師であり、家財整理専門会社の(株)ワンズライフ代表の上野貴子さんをお招きして、いまやるべき「生前整理」についてお話いただくことにしました。

誰もが「今すぐにでもやった方がいい」と思いながらも、できないのが生前整理。

そのコツについて、上野さんに聞きます。

【終活講師対談シリーズ①】生前整理はまず気持ちの整理から 上...の画像はこちら >>

※上野貴子さん(株式会社ワンズライフ代表)

まずは感情を「片付ける」

――今回は遺品整理のプロであり、各メディアにも引っ張りだこの上野さんに、生前整理についてもお話しいただきたいのですが。

上野:その生前整理と遺品整理という2つの言葉もあやふやで、多くの方たちが、時と場合に応じ、それぞれの定義でお話しされているのをお見受けします。家財整理サービスの現場からみれば、遺品整理も生前整理も、片付けるのは日用品を含む家財全般なのです。

――その方が日常使っていた「モノ」ですね?

上野:人が亡くなったにせよ、その後ホームか施設に入るにせよ、それはつまり一つの歴史が終わるということなんです。家族という一つの団体、一つのコミュニティが変化することですね。
私たちが、この世でこの肉体をいただいて、「オギャーッ」と生まれて、親子という縁を紡いで何十年も生きるわけじゃないですか。その中で、いろんなことがあったことを支えてくれた“時空間”ですよね。家庭とかその方の住んでる部屋とか場所とかって、その“時空間”を閉じるわけですよ。そこに思い出があるなしにかかわらず、やっぱり寂しいなと思ったり、なんらかの後悔があるものです。

――1つの歴史が終わるときに、一抹の寂しさを感じるというのは、共感できます。

上野:その空間を閉じるときに、その部屋の主が幸せな状況で閉じてもらいたいと思うのは人として当たり前の感情だと思うのです。おじいちゃんおばあちゃんになった自分の父親、母親が濡れ落ち葉みたいな感じで、その場を閉じる。

しかもそれが自分の実家だった場合、それはもうかなりいろいろな感情が「片付ける」という、整理ということに関して「わーっ」て湧き上がってくるんですよね。

――その感情を持て余す方は、多いですか?

上野:感情が湧き上がってきていることを自覚しないままに、相続の話だとか、「お墓をどうする」っていう話に入っていくと、まあ、喧嘩になるわけですよ。私たちの思考回路が、そういう仕組みになっているということ。
現実世界で私たちの日常生活を支えてくれているベッドとか机とか。今ね、小川さんが360度見回してそこにある、それらのモノが私たちの生活を支えてくれ、私が私であるというアイデンティティを支えてくれているわけですよ。そういうものを、私はお客様の希望を聞きながら「片を付ける」わけです。

――片を付ける、「片付ける」ですね。

上野:片を付けるという労力の部分を、実際この肉体を使って、会社を通してやらせてもらっているという立場でお話をすると、ものを片付ける前にこれだけはやっておかなければいけないというのも決まってきます。まずは自分の中で片をつけるんです。それは気持ちの片をつけることかもしれないし、誰かとの人間関係の片をつけることかもしれないし、それから自分の体とのかかわり合い方の片をつけることかもしれない。

―――難しいですね。それができない人が、多いんですよね。

片付けられない人。よくテレビのワイドショーなどでも取り上げられていますが。

上野:よくお嫁さんの立場の人からお電話をいただくケースで多いんですが、夫の実家が近くにあって、お母さんが一人暮らしで元気で、5LDKの庭付きのお家を一人で守っている。うちら(お嫁さん)はスープの冷めない距離だからよく行っているんだけど、年々ゴミ屋敷になっている、と。
でもお母さんは元気で動いてるから片付けようなんて、これっぽっちも思わない。全部お父さんの思い出だから、捨てられない。この時点で、もうすでに気持ちの片がつけられないまま、何年も月日が経っているんですよね。
それはグリーフケアが少しうまくいかなかったからだと思うんですが、そういう方はとても多いんです。連れ合いの方が亡くなった後、グリーフケアがうまくいかないとゴミ屋敷になる確率は高いですね。

【終活講師対談シリーズ①】生前整理はまず気持ちの整理から 上野貴子講師(遺品整理専門会社社長)

※遺品整理の現場(写真提供:ワンズライフ)

死別後のグリーフケア

――グリーフケア。家族と死別して喪失感を感じている人に対する、心のケアですね。それがうまくいかなかった、と。どうしたら良かったのでしょう。

上野:死別した後や離婚した後、やっぱりそこから立ち直るっていう過程を丁寧にやるというか…。それは自分と向き合う時間かもしれないし、「もうダメだ」って言って、何ヵ月か、何年か引きこもることかもしれないですけど、そこは自然と回復はしていくんです。

――そういうケースではない。

上野:そこから、なんかこう変な圧力とか、早く元気にならなきゃみたいな変な義務感があったりとかすると、少しねじれちゃって長引き、長患いになる方たちが多いんじゃないかなと思いますね。その方たちの部屋は、やっぱり手がつけられない状況になります。

――立ち直りの段階に問題があって、グリーフケアがうまくいかないと、片付けられなくなっていくわけですね?

上野:この記事を読んでいる中にも、そういう方はいるかもしれません。たぶん声は上げられないでしょうが、私が言いたいのは「それは人間として当たり前の心の作用なので、安心してください」ということ。
家の中を清浄な形にキープできず、ゴミ屋敷にしてしまったということに対して、罪悪感がすごく大きいようです。

――清浄な場所、ですか。

上野:クリーンで、そこにいると風がフワ~ッと通って、そこで寝たり起きたり、ご飯を食べたり、誰かと話したりすることによってますます自分が元気になるような、自分のお気に入りの場所ということができるかもしれません。

―――それができていないことに対する罪悪感ということですか。

上野:それは本人にもあるし、家族の方にもあるんですよ。

お客さんと一緒に現場に入ったり、お電話でそういう相談を受けたりすると、皆さんが異口同音におっしゃる言葉があります。それは「もっと話を聞いておけばよかった」とか「もっと時間を割いてそっちの方にエネルギーを向けてあげればよかったと」と。ご遺族の方からも必ず出て来るんです。

―――「そっちの方にエネルギーを向けておけば」とは例えばどんなことですか?

上野:私たち現役世代というのは、すごく忙しくて、それこそスケジュールがピッチリで、朝起きてから夜寝るまで優先順位をつけて片付けていきますよね。親も自分がまだ現役世代の時は自分のライフイベントも待っています。
ただライフイベントの中に家族というものができてきたときに(従来の)自分の家族とどちらが優先順位が高いかどうかというのは、これはもう皆さん一度や二度ならず、迷ったことがあると思うんですよ。結局この幸せな状態が親にとっても幸せだから、ということでそこをバッサリ切ってしまう。

――子世代にとっても、忙しい時期ですからね。

上野:親が現役のうちはまだいいですけど、身体も衰えてきて「もう無理だわ、子どもに頼りたい」と声をかけられたときに、子どもがどうやって対応したらいいかわからない。

――子どもとしても、困ってしまうわけですね?

上野:それで結局どうやって片付けるか、いくらかかった、お金はあるのか、という即物的なほうにばかり話が行ってしまう。でも本当に片づけたいのは気持ちなんですよ。

―――順序が逆になっているということですね?

上野:実家の家屋そのものに対して「長年平和な状態で私たちを守ってくれてありがとう」と言えるくらいまで気持ちが整理されれば、次はいつまでに片付けるのか、普通に問題を解決していけるんです。

実際、私たちの家族を何年も雨風からしのがせてくれて、喧嘩したときも、親子関係が崩れても、壁は崩れず、そこで眠ることができましたよね。朝起きて、命の心配をすることもなかったわけですから。

――気持ちを片付けてから、物事を進めていくことが大事なんですね。

上野:そこまで気持ちが整理されれば、じゃあ、次はいつまでに片付けるのか、あとは普通の問題解決になります。いつまでに片付けるのか、時期を決める。それから予算はいくら取れるのか。お金の話になります。よく皆さん、1LDKで一人暮らしの高齢者だったらいくらぐらいですかと言います。これ本当にピンキリなんですよ。つまりその方の、それぞれの人生が違うから、そこに集まってくるものも違う。その、ものをどう片付けたいかでも違うんですよ。

生前整理の優先順位

――まさに人生いろいろ、ですね。それだけニーズも多様化していて、需要も増えているのではないですか?

上野:私たちのような家財整理を専門にする会社はまだ始まって15年ぐらいですが、今後は二極化していきます。

ひとつは「1LDKのパッケージでいくら」みたいな、合い見積もりで「他の会社の価格を教えてください、それより安くしますから」という、今までの社会のありようをそのまま踏襲していくような、そういう家財整理のサービスですね。

その結果、残念ながら私のところに届いてくる話は「もっと丁寧に話を聞いてほしかった」とか「業者さんに押し切られちゃって、こういう風になった」とか「もっとこういう風にしてほしかった」っていう声がすごく多いんです。一方で、お客様の話を聞いて、気持ちとか心の動きっていうのをちゃんと理解したうえで「これはこうしたい」ということに対してそれをかなえて差し上げる。10年、20年後にこの社会に当たり前に根付いてほしいサービスをお客様と共に創っていくのが私のお仕事と言いますか、完全に接客重視のサービス業はこちらの方だと思っています。

そのサービスが定着すれば、お客様のほうで気持ちの整理だけしてくれれば、いつまでに片付けをしなければいけないかを決められる。これにはいろんな条件があると思います。
相続してもあと3年くらいは空き家にしておいて、自分が固定資産税を払ってもいいよ、という人もいるでしょう。相続してお金をみんなで分けようということになれば、その方針に沿って片付ける解体屋さんに全部任せてしまう人もいますが、解体費の中に家財の分も全部入りますから、「廃材が増えるということで金額が上がると言われた」などというお客様の声もたくさんあります。

――そうした中で、片を付けなければいけない日はやってくる。

上野:現役世代は本当に忙しい。自分のキャリアも積んでいかなきゃいけないし、娘や息子の不測の事態で奔走しなければいけないこともあるかもしれない。自分の体がガクッとくるかもしれない。ペットがいたらもっと大変。そんなときに親が自分を頼ってきたら、どこにスケジュールを入れたらいいのかと、逡巡(しゅんじゅん)する方は多いと思います。

――でも逡巡してばかりはいられませんよね。

上野:逡巡するっていうことは、そのときに起こったことではなくて、その前に親から独り立ちしたときが見えるときかもしれませんね。
親が亡くなったときとか親がここを去るときに、自分はどんな風にかかわっていくのか。その心構えとか覚悟というか、それを受け入れる気持ちがなかったとは言いませんけれども、どちらかというと避けたいこととか、今は考えたくないこととして、優先順位をずっと下の方にしてきたわけですよ。

――優先順位を下にして、先送りにしてきたわけですね。

上野:それが起きたら対応すればいいや、と。でもその日がやってきたときに、対応しなければいけないのは家財の量とか、ゴミの量が増えたということではなくて、ずっと親子のコミュニケーションが取れていなかった。大事なことを話していなかった。Xデーが来たときに親はどんな風にしてほしいか、というのを聞いておかなかったし、親の方もどう話したらいいかわからなかった。そのままずっと来ちゃっているってことだと、私はお客さんとお話ししていて見えているんですね。

子世代が終活ノートを書く

【終活講師対談シリーズ①】生前整理はまず気持ちの整理から 上野貴子講師(遺品整理専門会社社長)

※遺品の供養も、僧侶を招いて行われる(写真提供:ワンズライフ)


―――親子でコミュニケーションを取るためには、終活ノートの出番ですね。

上野:エンディングノートを書くことだけが終活ではないけれど、結果としてそういうものが出てくる。自分が書こうと思う気持ちになるまで自分自身の人生を見つめたり、自分の死生観を見つめたり、自分の死生観と人生を見つめられて初めて親の人生と死生観を一緒に見つめられるんじゃないかな、というのが正直なところなんです。
終活講師になったときに、たくさん友達からメッセージをもらったんです。「親に書かせたいけど、どうしたらいいの?」って、みんな聞いてくるんですよ。そういうときに「親に書かせるんじゃなくて、まずあなたから書こうよ」と伝えています。そうすることによって、こちら側にも覚悟ができるんですよね。親のXデーに。

――なるほど。子世代にも覚悟ができる。

上野:だから、本当に即物的に生前整理に必要なのはなんですか?と言われれば、「あれしなさい、これしなさい」とたくさんあるんですけど、それを言ったところで今まさに生前整理が必要な人には難しいかもしれない。

――難しい?

上野:70代、80代の方がおやりになるのは素晴らしいことだと思うんですけど、子の世代がリードして一緒に片付け、伴走するとなるとこれはつらいんです。母親が一回食べたものをなんで私が片付けなきゃなんないの、とかね。休みの日ぐらい、だらだらしたいじゃないですか。人間だもの。でも休みって言ったら、土日休みだとしても月に8日しかない。ライフイベントなどにも使いながら、そのうちの何回かを親の方に行くとなると、何ヵ月も続くと辛いんです。

――現役世代は何かと忙しいですからね。

上野:ちょっと話を戻しますけど、ものを片付ける前に、まず自分を整理する。それは精神的な整理と、具体的な行動に向かうための整理。この2本立てで整理してほしいんです。
精神的な整理は、例えば子どもとの関係、親との関係、これは話す時間を重ねていくことでしか解決できませんから、これはやってくださいと。ただね。みんなここがやりたくないからずっと後回しにしてるんですよ。

―――そうですね。

上野:でも、もう逃げられませんよっていったときになって。例えば介護とか親の病床の枕元についていて、いろんな話ができていい時間が取れたわって。それは美しい話だけども、それ、元気なときからやっておけばいいじゃないですか。なぜやれないのかっていうことは、やっぱり死とか老いるということに対する忌み嫌うという気持ちがあるからなんですよ。

―――難しいところですね。

上野:誰だって、やっぱり自分の両親が老いていくというのは悲しいですし、自分が50代になったとしても、「ああやっぱり私はまだこの人の娘なんだ」と思わされる瞬間もありますよね。そして、逆の立場も私たちは感じられるわけですね。50代、60代になっていけば、いつまで経っても10代になってもね。息子は息子、娘は娘ですよね。
そういうパワーバランスが崩れていくのを見るのは、やっぱり不安だし、怖いんです。ただね、自然界の巡りって、芽が出て茎が大きくなって花が咲いて、実がついて、種ができて、次の世代にそれを渡したら、自分は枯れていく。枯れて土の養分になって次の世代に渡っていく生と死の再生のサイクルっていうのは、私たちの自然なサイクルなんですよ。
それに逆らおうとするので、やっぱり死が怖かったり、老いが怖かったりするんだなって思います。

―――重いテーマですね。

上野:そのサイクルすべては完全に崩壊する。崩壊するから次の再生が起こる。この巡りの中にいる中で何度かエンディングノートに向き合ったりね。
それから親が書いたエンディングノートのことをちょっと話したときに「それって何?」って興味を持ってくれることで少しずつそうか、やっぱり、と。
この感覚は自分だけのことじゃなくて、親にもこういう感覚があったんだっていうところに気づいていったりするようなところなので、「これ本当に3ヵ月でやれます?」とか「これやったらこうなります」って話ではなくて、やっぱり私たち「終活を伝えていく人」が終活をやったら、自分はこんな風に人生が豊かになりましたとか、そういうのをずっとずっと話し続けるしかないと思いますね。

―――最終的には親とのコミュニケーション?

上野:その精神的な部分の気持ちの片付けっていうのは、私がもっとざっくり話すときには、親子のコミュニケーションを避けずにやるチャンスだから、親として子に何ができるか。この片付けに関して、それから、子として親に何ができるか、この目の前の、山と積まれた荷物に対してそういうところをざっくばらんに話すということが必要だと思います。

―――親に対して持つ感情というのは、尊敬ばかりじゃないですよね。

上野:親は自分にこれしてくれなかった。あれしてくれなかったっていう思いはたくさんあるから、感謝と同時に恨みもたくさんあるんですよ。
でも感謝のエネルギーの方が最終的には恨みを包んで溶かしてしまうので、それは本当にエンディングノートと向き合った人に感じてもらえる豊かで温かくほっとする感覚だと思いますね。

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