高齢者と一緒に暮らす中でほっこりするようなエピソードや良いこともある反面、「なぜこんなことを言うのだろう?」と理解に苦しむような言動に振り回されてしまうということはありませんか?

よく高齢者との関わりで「寄り添うことが大切」といわれていますが、丁寧に本人の話を聞いたからといって、大きく状況は改善されなかったという経験がある方もいると思います。

実は、巷でよく言われている「歳を重ねると感情のコントロールがしにくくなる」は私達の思い込みであり、困ったような行動をする実際の原因は違う場合もあります。

そこで、この記事では、「高齢者との関わりで困った」という2つの事例に対して、筆者の経験に基づき、考えられる原因とその解決策を紹介していきますので、ぜひご覧ください。

【ケース1】急に怒り出す高齢者に困っているときの対処法

急に怒り出す高齢者との関わり方に悩むという話は、聞いたことがありませんか?

筆者も介護施設勤務時代、急に怒り出す高齢者の方がいて、その関わり方に悩んだものです。怒ってしまう理由はさまざまですが、筆者の経験事例に沿って解説していきたいと思います。

事例:介護施設に入居されていたBさん(80歳・男性)の場合

Bさんは、筆者の介護職員時代に出会った入居者で、無口であまり人との関わりが好きそうではない方でした。

そんなBさんの排泄介助をする際、「Bさん、トイレに座って頂くのでズボンをおろしますね」と声をかけズボンを下げようとすると「なんだ!やめろ!」と急に怒って手を振り払ったのです。

Bさんは、他の女性スタッフに対しても急に怒ることが多く、いつしか気難しい人として認識されていました。

さらに、雑談をしようと話しかけると嫌そうな顔をされることも多く、どうやって接したら良いか困っていたのです。

他のスタッフも同じように感じていたようで、Bさんは少し孤立気味になってしまっているようでした。

そんなBさんの孤立を回避しようと思い、Bさんになんとか心を開いてもらおうと話かけ続けた私ですが、返事をしてもらえないことが続きました。

上記の事例は、介護施設での出来事ですが、在宅介護においても似たようなやり取りを経験されたことがある人も多いのではないでしょうか?

この件には、まだ続きがあります。

「なぜBさんはスタッフ側が丁寧に説明しても介助などの際、怒ってしまうのだろう」と疑問に思った私は、Bさんの行動を観察してみることにしました。

すると、あることに気付いたのです。それは、私達が説明したつもりでも、Bさんにはスタッフの声が聞き取れていないのかもしれないということでした。

当時、Bさんのフロアにいたスタッフは、若い女性3人と声の低い男性2人でした。

よく観察してみるとBさんは、男性スタッフがかける声には比較的よく反応し、若い女性スタッフの声には反応することが少なかったのです。

高齢になると高い音が聞き取りづらくなるといわれているため、若い女性のような高い声が聞き取りづらいこともあるのです。

そしてトイレでBさんが怒った理由は、私の声が聞きとれず、一方的にズボンをおろされたと思ったためだということがわかりました。

何の説明もなく突然ズボンをおろされたら、Bさんが怒るのも当たり前です。それから私は、Bさんに対して何かケアをする前は、目線が合う高さでゆっくりと低い声で話すように心掛けました。

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その後、Bさんが声を荒げて怒ることもなくなりました。怒ることはなくなったのですが、相変わらず孤立しているBさん。本当にこれで良いのだろうかとBさんとの関わりについてスタッフ同士で話しあうことにしました。

「Bさんは誰とも話さず、孤立しがちですが、それは本人が望んでのことでしょうか?」と私が普段から思っていた疑問を投げかけてみると、年配の男性スタッフがこんなことを言いました。

「Bさんは疲れやすいのかもしれない。歳をとるとね、自分が望まないタイミングでたわいもない話をするのも、疲れるのだよ。だから無理に話しかけるとかえって本人には負担かもしれないよ」

確かに、Bさんは疲れやすく、最近はベッドで横になる時間が増えていました。

私が今まで話しかけていたのは、Bさんがそのときにしたいわけではない、こちら側都合の一方的な雑談です。

「Bさんは疲れていたからなのか…悪いことをしてしまったな」と反省した私は、Bさんから話したいときだけコミュニケーションを取り、あとはそっと見守ることを心がけました。

すると、Bさんから話しかけてくれることが増えたり、話の流れで昔話をしてくれたりと少しずつBさんの心地よい距離づくりができるようになったのです。

高齢者と関わるとき、急に怒り出したり、話を嫌がったりすると、周囲は「頑固な人」と認識し、積極的に関わることをしなくなる場合があります。

その結果、高齢者が孤立してしまうと、寂しい思いをして過ごさなければなりません。

高齢者とのコミュニケーションに悩んだら、まず原因を考えることが大切です。

高齢者になると、身体が疲れやすくなるだけでなく、声帯や声を出すための筋肉の機能が低下する影響で話をすること自体に疲れを感じやすくなるともいわれています。

今回の事例の場合であれば、普段はさりげなく見守りながら相手が望む距離感を保ち、、助けが必要なときにはすぐに対応してあげられる環境が理想的であるといえます。

また、相手が理解できるような伝え方を意識するようにしましょう。

【ケース2】気難しい高齢者に困ったときの対処法

高齢者と暮らしていて、食事に文句を言われたり、自分勝手なこと言われるとイライラしてしまうものですよね。

しかし、それは、本人のわがままだけが原因でない場合もあります。

以下では、義母に振り回されていると感じたという筆者の知人のCさんの事例を紹介していきます。

事例:Cさん(女性・60代)とお義母さんの場合

Cさんは、義母(90歳)と夫との3人暮らしをしています。

ある日、Cさんは私に「最近義母がわがままで困っている」と悩みを打ち明けてきたことがありました。

Cさんの話を聞くと、どうやら義母は、もともとは大人しいタイプの女性でしたが、最近、食事に対して文句を言ったり、突然「淋しいから一人にしないでほしい」と言い出したりと、とにかくワガママばかり言うのだそうです。

義母は、身体が悪くなってから、引きこもり気味だと話していました。

私がCさんに「お義母さんは何か趣味とかないんですか?」と聞くと「園芸とか掃除とか好きだったけど、体に負担がかかるかなって私が全て今は引き受けているの」と。

Cさんは、自分が家事も庭の手入れも引き受けているにも関わらず、文句ばかりの義母に対して「もともとはこんな性格ではなかったと思うのにどうして?」と関わり方に困ってしまっていたようです。

「食事を出せば、こんな味の薄いものばっかりでうちのご飯はまずい!って、文句を言うの。私の料理の味付けはこれまでと変わらないのになぜそんなことを言うのだろう?と悲しくなってしまって…」とCさんは俯いて話していました。

更に話を聞くと、Cさんは、義母のネガティブ発言が多くなってきたのも気になっているようでした。

「このまま、辛い思いしていくのかね…」「私なんておらんほうが良いやろ?」など、返事に困るような発言が多くなってきたとのこと。

気難しい高齢者とはどう関わる?毎日の生活をストレスなく過ごす方法とは
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そして一番困るのが、「寂しいから一人にしないで」とCさんに執着してくることでした。

Cさんは、本人の気持ちを頷きながら聞き、最後に「でも、家族みんなでこうやって暮らせているんだから幸せよ」と言うのですが、「そんなことはない!」と怒る始末だそうです。

そんな毎日に疲れ切ってしまったCさんは、私に悲しそうに愚痴を吐いていました。

「状況を変えられないものか」と私達2人は、Cさんの話を整理して考えてみることにしました。

  • いつもと変わらない味付けが薄いと言い出した
  • ネガティブな発言がここ最近増えた
  • 家事や庭の手入れはCさんが全て引き受けている
  • ネガティブ発言を傾聴しながらも結局は状況が変わらない

私が着目したポイントは上記4つです。

まず、食事に対しての「味が薄い」に関しては、ただの八つ当たりではなく本当にそう感じている可能性があります。

高齢になると味覚が落ちたり、薬の副作用により味が感じにくくなるといわれており、今までの味とは、違う感じ方をしていることもあるからです。

事例のようにCさんの味付けは変わっていないのに急に文句を言ってきたのだとしたら、その可能性は高いでしょう。

ただ、「うまみ」と「甘味」は感じやすいともいわれています。今までと同じ料理を出しているのに、急に食べなくなった場合は出汁をしっかりとったり、甘味をつけたりといった工夫もしてみてください。

また、事例にあったネガティブ発言に対しては、活動量が減ったことが影響している可能性もあります。

Cさんがよかれと思って全て家事を引き受けてしまっていることで、自分の好きだったことをする時間が減り、ネガティブなことを考える時間が増えてしまうのです。

人間がマイナス思考に陥ったときに、「趣味をつくると良い」というのはよく聞いたことがあると思います。

本人の好きなことを続けてもらうことで、マイナス思考が改善する可能性があります。

傾聴の姿勢やどこも出掛けず付きっきりで尽くすよりも、本人の好きなことをしてもらえる環境を整えるほうが、結果的にはCさんにとっても負担が軽くなるでしょう。

気落ちしてしまう高齢者への対処法としては、本人が好きなことをする時間を増やすことがおすすめです。

上記のことをCさんに伝えると、早速食事を工夫してみたり、好きだった園芸を本人に任せたりしたようです。

その結果、以前よりも関係が改善して、お義母さんの笑顔も少しずつ増えました。Cさんに「寂しいからどこも行かないで」と訴えることも減ったとおっしゃっていました。

このように、こちら側の工夫次第で状況が改善される場合もあります。

関わりに悩んだらまず高齢者を理解しよう

記事内で説明した通り、高齢者が困らせるような言動をしていると感じたときに、見方を変えると解決策が見つかることがあります。

  • 高齢者に伝えるときには目線を合わせ低い声にする
  • 自分のタイミングでする長話以外は疲れやすいため、高齢者のタイミングを考える
  • 高齢になると味覚を感じにくくなるため、味付けに工夫を
  • ネガティブ思考には傾聴も大切だけど好きなことをする時間もつくろう

上記の対処法が全てのケースに当てはまるわけではありませんが、悩んだときは参考にしてみてほしいと思います。

そして、両者がストレスなく付き合える環境を整えましょう。

 
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