高齢者が地域で安心して生活をし続けるために必要なことはたくさんありますが、とりわけ重要な社会資源が医療です。
地域で生活を続けるために一番重要なのは健康です。
これは健康でなければ地域で生活することができないという意味ではありません。
年齢を重ねれば、誰でも心身に不調が目立ち始めます。
重要なのはその不調を早期に発見し、重症化しないよう手立てをしていくことです。
そこで、今回はこれからの医療のあり方について、地域という視点から解説していきたいと思います。
なかなか気づけない身体状況の変化
私がセンター長を務める富津市天羽地区地域包括支援センターが担当する地域では、過疎高齢化が進み高齢化率は50%に迫ろうとしています。また、一人暮らし高齢者や高齢者世帯も増える一方です。
山間部では、家と家の間が数kmにわたることも珍しくなく、車の運転ができなくなることで人との交流が希薄となり、買い物・通院など基本的な社会参画も厳しくなってきています。
このように人とのかかわりが減ってしまうと、心身状況の低下への気づきを遅らせ、気がついたときには重症化しているといったことも珍しくありません。
それでも親族のいる方であれば、異常に気がついてもらえるチャンスはあります。例年のことですが、年末年始やゴールデンウィーク明けに家族からの相談の件数が増える傾向にあります。
「年末に帰省をして数日間実家で過ごしたところ母の様子がおかしい…認知症では?」「足腰の痛みから風呂に入れていないようだ」などの連絡が入るのです。帰省時に数日一緒に過ごすことで、電話などによるコミュニケーションでは把握できない高齢者の心身状態がわかることもあるのです。
人と接する機会が減ることで、大きな不利益を被る可能性が高いので注意が必要です。
このような事態になる前に対応するのが地域包括支援センターの役割のひとつ。しかし、地域包括支援センターは高齢者介護の専門家であり、医療についての知識はそれほど深くはありません。
人口が減少傾向にある地方では、地域包括支援センターが入口となって、適切な医療とつなげていくためにも、医療機関との連携強化が求められているのです。
医療機関から地域包括支援センターを紹介
介護・医療・保健・福祉など、さまざまな側面から高齢者を支える「総合相談窓口」である地域包括支援センターは、地域の医療機関と日常的に連携をしています。
例えば、往診で地域をくまなく対応してくださっている医師からは「気がついたときには重症化している高齢者が目立つ。通院ができないような状況であれば往診をするので情報を共有していきましょう」とのご提案をいただいています。
地域の医師は、地域包括支援センターにさまざまな形で支援をしてくれます。医療機関と地域包括支援センターは、対応する対象者が重なっていることも多く、医療機関との連携は合理的な支援活動に必須なのです。
高齢者の心身状況を共有するといった具体的な連携ばかりではありません。まだまだ世間一般にはその存在が知られていない、高齢者の相談機関としての地域包括支援センターを医師が患者に伝え、つなげてくれるのです。
例えば、歩行状態が悪化してきたり認知症状が顕著で対応に苦慮している家族に対して「包括支援センターに連絡をしておくからこの足で相談に行きなさい」とご提案くださいます。
主治医への信頼感は抜群ですから、患者は「先生が勧めるなら…」と足を運んでくれます。もちろん自ら相談に来ることが難しい対象者に関しては医師からの情報をもとに訪問して支援を行います。
なお、多忙な医師との情報共有には電話やFAX、SNSなどさまざまな手段を活用するなど、なるべく負担をおかけしないようにしています。
さらに最近、私たちの地域の医師会主導でICTを活用した連絡システムも導入されました。多忙な医師に負担がかからないようICTを活用してスムーズに情報共有や指示の伝達ができるようになると期待しているところです。
緊急時の対応にも医療・介護の連携が有効
- 認知症が急激に進行した
- 精神疾病が悪化して暴れている
- ひとり暮らしなのに腰を痛めて起きあがることができない
ご家族がこのような状態になったとき、皆さんはどう考えるでしょうか?
おそらく、認知症が進行したのなら老人ホームなどの施設に入所すれば良いとか、困ったら入院してもらおうなどと考えるのではないでしょうか。
しかし実際には、認知症状の急激な悪化や精神疾病により暴力をふるうなどの症状がみられる場合、介護施設での対応は困難な可能性もあります。
介護施設はあくまでも生活の場なので、他の入所者や職員に暴力を振るってしまう場合は対応が難しいことも多いのです。
一方で精神科の入院を希望したとしても、自殺のリスクが高いケースや他者を傷つけてしまう可能性が高いケースなどの緊急性の高い患者さん以外は、即時の入院は難しいことが多いです。
こういった場合に、ケアマネージャーや地域包括支援センターの職員だけの力では受け入れ先の施設や病院が見つからないことも多いですが、医師と連携していれば、一時的に受け入れ先になってくれたり、病院を紹介してくれるなど、大きな力を発揮します。
しかし、もっと大切なのは、心身状況が悪化する前に医師や介護事業所、ケアマネージャーと連携し対応をしていくことです。そうすることでいざ心身状況が悪化した際の動きが格段にスムーズになります。
精神的に不安定な対象者は早い段階から専門医の診察を受けておくことで、いざ症状が悪化した際に入院できる可能性も広がります。
患者を受け入れる病院としても、状況がまったくわからない患者を受け入れるよりも、定期的に診察をしてある程度状況が把握できている患者のほうが受け入れへのハードルが下がるからです。
地域包括支援センターが医師と日常的に情報共有し、連携を取ることで高齢者の重症化を防ぎ地域で生活を継続できるようになるばかりでなく、突発的に症状が悪化した際のスムーズな支援につながるのです。
地域包括支援センターは、このような連携体制を築いていますが、課題となるのは、やはり知名度です。医師やケアマネージャーと連携し、平時でも緊急時でも対応できるようにしていても、結局住民の方々にその存在を知られていないと意味がありません。
地域包括支援センターでは、高齢者に関することなら何でもご相談を受け付けています。「こんなことで…」と片付けてしまわずに、病院に行くまでもないようなささいな変化などに気づかれたら、ぜひお近くの地域包括支援センターにご相談ください。