毎日、在宅で介護をしていると介護者である家族にも身体的負担がかかることがあります。

場合によっては、腰痛になってしまうことも…。

家族の体の健康は、在宅介護をする上でとても大切なことです。

そこで、この記事では、在宅介護で腰痛を予防する簡単な方法や体の疲れを感じたときの対処法などを解説していきます。

介護が続き、心身共に限界…

在宅介護の最中は、体が疲れると心まで疲れてネガティブになりやすいです。

なるべく体の負担を抑えながらとは思いながらも、体を痛めてしまうことも…。

以下では、介護に疲れてしまったUさんの事例を紹介していきます。

【事例】Uさんの場合

Uさんは、要介護度5の義母と夫の3人暮らしです。

義母は、寝たきりの生活を送っていて、日中はデイサービスに通っています。

デイサービスに行っているとき以外は、Uさんが義母のお世話をしていますが、意思疎通がうまく取れないこともあり、ほぼ全介助の状態です。

オムツ交換や食事介助、デイサービスに行くときのリクライニングタイプの車椅子への移乗など、夫に手伝ってもらいながらUさんが担当しています。

そんな毎日の介護の疲れがとれず、さらに腰痛も気になり、介助のときに上手く力が入らなくなってしまいました。

これからも介護が続くのにどうしたら良いのかと悩むUさんなのでした。

在宅介護での腰痛予防で意識したいポイントとは?在宅介護で大切...の画像はこちら >>

Uさんのように、在宅介護で体に支障が出てしまう方は珍しくありません。

介護は毎日続くため、自分の体を上手く使うことができないと疲れがとれないどころか慢性的な腰痛になってしまう恐れもあります。

まずは、腰痛を予防しながらできる介助の方法を把握しておくことが大切です。

在宅介護で腰痛を予防する方法

では、どうすれば腰痛を予防しながら介護を行うことができるのでしょうか?

筆者も祖父を在宅で介護した経験があります。祖父は当時寝たきりで全介助が必要な状態であり、大柄な祖父の介護には、大きな力が必要でした。

しかし、あることを意識したことで、腰痛には悩むことなく介護を続けることができました。

そこで、以下では、筆者が実践した腰痛予防の簡単な方法を紹介していきます。

方法1:道具を近くに用意しておく

単純なようで意外と効果が高かったのが「常に道具を近くに置くようにする」ということでした。

例えば、オムツ交換の際には、オムツとパット、おしりふきだけではなく、洗浄用ボトルや洗浄用せっけんなども用意しておくようにします。

洗浄用ボトルやせっけんは使わない可能性があっても、常に用意しておくことで、便失禁していた際にもすぐに対応できます。

必要ないかもしれないものも、先に用意しておくとあたふたせずに済み、効率的にオムツ交換を済ませることができるのです。

これは、トイレ介助の際にも同じことがいえるため、予めトイレに必要物品を揃えておくようにしましょう。

また、道具を予め用意すればその場を離れずに済むため、目を離した隙に、本人が動いて汚れが広がるなどのリスクも防ぐことができます。

方法2:ボディメカニクスを活用する

ボディメカニクスとは、介護者である家族と被介護者である高齢者、双方の体の負担を軽減できるテクニックのことです。

人間の関節や筋肉、骨が動作する際の力学的関係を利用し、最小限の力で介護できる技術として、介護業界でも多く活用されています。

ボディメカニクスを理解し実践することで、腰痛を予防しながら、在宅介護を行うことが可能です。

ボディメカニクスは、8原則が定められており、それを実践することで腰痛予防の効果が期待できるといわれています。

ボディメカニクスの8原則を以下に紹介していきます。

1:介護者が両足を開く

介護する側が両足を大きく開くことで支持基底面積を広くとる方法です。

足を大きく開くことで、介護者の体が安定します。

2:重心を低く保つ

腰を低く落とし、介護者の重心を低く保つことで骨盤が安定します。

足を広げ、腰を低く、どっしり構えるようなイメージです。

3:高齢者と体を密着させる

被介護者である高齢者との重心を近づけることで、安定感を確保することができます。

特に、移乗介助などの場合は、体を密着させ安定感を出すことで、双方の体の負担を大幅に軽減することが可能です。

4:高齢者の体をコンパクトにまとめる

移乗の際などに高齢者の体を小さくまとめてもらうことで、力が分散しにくくなり、摩擦が少なくなるため、運びやすくなります。

特に全介助の移乗の際には、小さな箱に入るときに身体をまとめるようなイメージで、腕や膝を曲げてもらうようにしましょう。

5:介護者は体全体の筋肉を使う

移乗やオムツ交換などの介護の際には、どうしても腕や肩など、一部の力に便りがちになってしまいます。

しかし、それでは、腕や肩を痛めてしまうだけでなく、小さな筋肉だけでは支えきれずに転倒などの事故に繋がってしまう可能性もあります。

そこで大切なのが、体の大きな筋肉を使うイメージを持つこと。一見、手や腕だけの力だけでできそうなオムツ交換の際にも、体全体を使って介助をしてみてください。

体全体を使う意識を持つだけで、自然と大腿部や背中などの大きな筋肉を使うことができるようになります。

6:水平移動を行う

ベッド上で体を移動させたい場合などには、持ち上げるのではなく水平に移動させてあげた方が、介護者はより小さな力で行うことができます。

水平移動の際には、前述のように腕や膝を曲げてもらうとやりやすいです。

ただし、水平移動の際にはベッドシーツなどとの摩擦に気を付ける必要があります。心配な場合は、高齢者の体の下にバスタオルなどを敷いて移動させると良いでしょう。

7:高齢者の体を手前に引く

ベッド上で高齢者の体を左右に寄せたい場合、基本的に手前に引くようにしましょう。

移動させたい側の位置に介護者が立ち、そこから高齢者の体を引き寄せるイメージです。押すよりも引き寄せるほうが、体の負担なく安全に移動させることができます。

8:てこの原理を活用する

理科の授業で習った「てこの原理」を覚えてらっしゃるでしょうか?てこの原理とは、力のモーメントになり、重いものを小さな力で動かすことができる法則のことです。

力が働く場所である「力点」と、力が作用する場所である「作用点」の間に、支えとなる「支点」を置きます。

例えば、高齢者を寝た状態からベッドサイドに座らせる場合に、高齢者の臀部を支点とすると、少ない負担で介助を行うことができます。

てこの原理を使って、体の負担を最小限にしながら、安全に移乗などの介助を行うようにしましょう。

以上が、ボディメカニクスの8原則 です。

これらを活用することで、介護する際に安定するため、体の負担や腰痛を軽減しながら介助することが可能です。

在宅介護でも、ぜひ実践してみてください。

方法3:福祉用具で介助用品をレンタルする

介護保険を使ってレンタルできる福祉用具といえば、介護ベッドや車椅子などを想像する方も多いと思いますが、体位交換などが簡単にできる道具もレンタルできることがあります。

レンタル商品の例としては、ナイロン素材でできた移動・体位交換用シートなどです。

高齢者の体の下に入れ、シートを動かせば、より小さな力で移動や体位交換を行うことができるものになります。「体の負担を感じている」「手伝ってくれる人がいない」という方には、特におすすめです。

介護保険を使って介助に使える道具をレンタルしたい場合は、まずケアマネージャーに相談してみましょう。

腰痛予防は在宅介護を続けていく上で大切なこと

一度腰を痛めてしまうと、慢性的な痛みが続きやすくなるため、そうならないためにも事前の対策が大切です。

また、腰痛予防にはストレッチなどもおすすめですが、それより大切なのは体や心の休息です。

在宅介護は、いつまで続くかわからないものであるからこそ、しっかりと体を休ませる時間をつくるようにしましょう。

体が休まる暇がないと悩んだ際には、ケアマネージャーに相談してみると適切な介護サービスを提案してくれる可能性もあります。

在宅介護を行う上で、家族の負担を最小限に抑えながら続けていくことが重要であるといえます。

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