超高齢化社会の時代にまもなく突入するといわれている日本ですが、いまだ介護・認知症予防に対しての意識はそう高まっていない傾向にあります。

今後は不景気や要介護者増加の影響で、受けられる介護保険サービスの範囲は狭まってくる可能性も…。

今までのように介護保険サービスを受けるのが難しくなるとしたら、困ってしまうのは高齢者本人とその家族です。

そうなったときに困らないためにも、介護・認知症予防は大切なことであると今一度、認識し直す必要があるかもしれません。

そこで、この記事では7月9日に浜松市で行われたフォーラム「“もの忘れ”を感じたら~認知症予防と健康寿命~」での内容を引用し、認知症予防に対する地域の取り組み例を紹介しながら高齢になっても健康でいられる方法を解説していきます。

認知症予防には地域一体の取り組みがポイント 健康寿命の長い浜...の画像はこちら >>

地域で取り組む高齢者の介護予防

静岡県浜松市は、2019年調査の「健康寿命の長い政令指定都市」で男性4位・女性1位という結果が出た健康寿命の長い市です。

なぜ浜松市の高齢者は、健康寿命が長いのかと分析したところ、以下のような理由が挙げられました。

  • 旬な食材が多い
  • 気候が穏やか
  • 地域間交流が盛ん
  • 医療機関が多い
  • 高齢者の就業率№1

上記のなかでも特に大きなポイントは「地域交流」です。

地域間の繋がりが薄れてきている昨今。浜松市では現在でも自治会加入率95%と住民の高い加入率をキープしています。

多くの住民が地域の行事に関心を持っていることもあり、お祭りやサロンなど老若男女問わず参加できる場所が確保されています。それにより、高齢者が社会参加しやすい状況ができているというわけです。

また、浜松市には高齢者が参加できるサロンが約800件もあります。高齢者の誰もが気軽に社会参加できる場所が常にあるのも、健康寿命を伸ばす秘訣といえるでしょう。

高齢者の心身の健康を守る上で人との繋がりは大切です。

会話をすることで自己表現ができることはもちろんですが、常に誰かと繋がっていることで、少しの異変にも気づいてもらえる可能性があります。

筆者も浜松市に住んでいますが、近所の高齢者と会話をしていて異変に気付いた方が、その家族に病院受診を勧めて、認知症の早期発見に繋がったという事例を知っています。

そのほか、高齢者が一緒に公民館に向かったり、散歩したり、住民同士が交流する姿をよく目にします。

高齢者が社会と繋がることが当たり前にできる環境は、今後続く高齢化社会において、認知症予防や介護予防の意味でも大切であることを再認識しました。

地域一丸となって取り組むウエルネス・ラボ

浜松市では「浜松ウエルネス・ラボ」という、市民の健康づくりを自治体だけでなく企業や大学などが手を取り合って進めていく取り組みを行っています。

例えば、大学が自治体や企業と手を取り合うことで、今まで大学だけでは実施が難しかった高齢者を対象としたさまざまな研究ができるようになります。

市民・自治体・企業・大学が一丸となって介護予防に取り組むことで、市民の健康だけでなく結果的に自治体などにも大きなメリットが生まれる画期的なシステムです。

超高齢化社会をみんなで生き抜くためには、個人だけでなく、地域と企業、そして住民が手を取り合って住みやすい環境をつくっていく必要があるのだと思います。

高齢化社会は決して他人事ではなく、全世代でしっかりと認識して生きていかなければなりません。

“高齢化社会を共に生きる”

そんな意識を日本人一人ひとりが持つことこそが大切なのではないかと感じました。

認知症予防に繋がる趣味

浜松市の地域の繋がりが健康寿命を伸ばしている可能性があると上記でお伝えしてきました。それでは、地域の繋がりがそこまでない場所ではどのように介護・認知症予防をしたら良いのでしょうか?

京都大学の積山薫教授の研究によると、認知症リスクを抑える趣味の第一位はダンスであることがわかりました。

続いて二位がボードゲーム、三位が楽器でした。

これは、認知症でない75歳460人にそれぞれ指定の活動をしてもらい、5年後に追跡調査した結果によるものです。

他にも家事や歩行などを行ってもらいましたが、ダンスを続けた方が最も認知症の症状が出ていないことが明らかになりました。

ダンス・ボードゲーム・楽器演奏に共通することは大きく2つです。

  • 知的活動である
  • 他者と行う必要がある

ダンスや楽器演奏は、音に合わせたり体で覚えたりして頭を使いながら行います。また、他者と踊りや音を合わせることで交流が生まれたり、一体感を楽しめたりもするのです。

さまざまな面で体と脳を使う活動こそが認知症予防に繋がるのではないかと積山薫教授は言います。

また、知的であり、他者と関わるような活動が良いとはいいますが、一番大切なのは「好き」であること。上記で紹介した趣味には当てはまらなくても、好きなことがあればそれを続けられる環境を確保してあげることが大切です。

日常のほんの少しの変化で良い

認知症の症状が見られた後や要介護状態になった後には、さまざまなことを調べたくなるものですが、予防のために調べる人は少ないのではないでしょうか?

実際に筆者もそうでした。認知症予防なんて所詮他人事と心のどこかでは、つい最近まで思っていたのです。

それは、認知症予防のためにこなすタスクを毎日続けるのが大変であることも原因の一つでした。

例えば、認知症予防に効果的と言われている運動や食事を続けることは容易なことではありません。一時的に「予防のためにやろう」と思っても、食材の用意や運動・活動は手間に感じて続かない人も少なくないでしょう。

ダイエットでもそうですが、「この食材が良い」とメディアで騒ぎだすと、みんなこぞってその食材を買いたがります。

しかし、数年すればそれをすっかり忘れ、違うブームにまた踊らされるのです。

そうやって一時的なブームに乗り続けるような予防意識では意味がありません。食材を急に全て変えたり、苦手な活動を急に始めたりするのではなく、まずは日常で無理なくできることから少しずつ始めるのが「認知症予防」を続けるコツです。

認知症予防のために「きっちりこなす」のではなく、いままでの生活にほんの少しプラスした予防に取り組んでいきましょう。

最後に…

筆者も浜松市に住んでいて、地域の仕事や行事、回覧などに対して面倒に感じることがあり、「もっとデジタル化してくれたらよいのに…」と思うことがよくありました。

しかしフォーラムに参加して、地域の繋がりが高齢者を元気にしている事実を再認識し、今では、地域の繋がりや伝統を守ることも高齢者の社会参加を守る大切なことの一つなのだなと感じています。

また、認知症予防や介護予防は、高齢者本人だけでなく、地域や住民が一丸となって行っていけたら理想的であるといえます。

高齢者と「共に生きる」という意識で、みんなが思いやりを持って生活することで、高齢者だけでなく、いつか「高齢者」になる私達も暮らしやすい環境となる気がしています。

「高齢者が」「若者が」とハナから関わりを断つのではなく、いまこそ手を取り合い、共に生きていく意識が必要なのではないでしょうか。

そして高齢者とそれ以外の人同士が、程よい距離感でお互いを思いやりながら生きることこそ、今後の日本に必要な意識だと感じています。

決して他人事ではなく、より多くの人が高齢化社会の課題と向き合って暮らしていくことが大切であると思います。

出典:“もの忘れ”を感じたら~認知症予防と健康寿命~

 
編集部おすすめ