家族内で介護をする場合であっても、「介護を誰が引き受けるか」や「介護に関わる経済的なこと」などが絡むと、より複雑な問題へと発展する場合があります。

介護に関する問題が根深いといわれる理由は、家族間だけでなく時として親戚やきょうだいなど、親族同士でのトラブルへと発展することがあるからです。

私もこれまで、さまざまなご家庭の方と会話をしてきて、介護におけるトラブルを多く耳にしてきました。

全員で協力し合って高齢者をサポートするのが介護であるのに、意図しないトラブルに発展してしまうのは辛いものです。

身内に気が強い人がいたりすると、余計に委縮して自分ばかりが我慢する感覚になってしまうかもしれません。

介護のことを話し合うときに、コツを掴んでおけば、自分ばかりが我慢する状況は避けられる可能性もあります。

そこでこの記事では、事例をもとに、身内同士での話し合いの際に押さえておきたいポイントを解説していきます。

介護をめぐる理不尽な要求でトラブルに発展…

高齢者介護に関する身内間トラブルは意外と多いものです。そのほとんどが「誰が介護をするか」や「誰がお金を払うか」といったことで、私の周りでも最近、本当によく聞く話です。

実際にあった身内間トラブルの事例を以下で紹介していきます。

事例:Yさん(50代・女性)の場合

Yさんは夫と娘2人の4人暮らしです。いわゆる核家族であり、夫側の親類は全員同じ市内に住んでいます。

ある日、義姉のMさんから一本の電話がかかってきました。

「Yさんと弟夫婦と私達の3世帯で義母の介護について話し合いたいの。悪いけど、明日うちに来てくれない?」というので、次の日弟夫婦とYさん夫婦は、Mさんの家に行くことになりました。

Mさんは、長男夫婦だったこともあり、98歳の義母と同居をしていました。

しかし、Mさんの家に行って話を聞いてみると、どうやらMさんは義母の介護が思った以上に長引いたことで経済的・精神的に限界を感じているというのです。

Yさん夫婦と弟夫婦に向かってMさんは、「私達は介護を頑張ってきた。これからは他のきょうだいたちが全て引き受けるべきでしょ!」とすごい剣幕で言い放ちました。

あまりの威圧感にYさん夫婦も弟夫婦も断ることができず、納得がいかないまま、その後の介護や経済的サポートを引き受けることを承諾しました。

なぜ納得がいかなかったかというと、実はMさん夫婦は、数年前、義母から介護資金として数百万を受け取っていたのです。

義母から聞かされた話であったため、Mさんにそれを言ってもはぐらかされる可能性が高いとYさんも弟夫婦も黙っていました。

しかし、頭の中にはその話があるので、どうしても引っかかってしまいます。

「自分達は介護資金を受け取って、しばらくその中でやりくりしていたはずなのに、その貯金が尽きたら他のきょうだいに全て任せるのか…」と心の中では不満が溜まっていくのも事実でしたが、Yさん夫婦も弟夫婦もこれまで義母にお世話になった恩はありました。

結局、介護サービスを使いながら、Yさん夫婦と弟夫婦で力を合わせて義母の看取りまで行うことにしました。

そして、義母がご逝去した直後、その状況を聞き、かけつけたMさんが「おばあちゃんの葬儀はうちでやるから」と言い始めたのです。

これまで、義母の介護中一切姿を見せず、介護から一切手を引いていたのにいきなりやってきて勝手なことを言うMさんに怒りが爆発。

葬儀前に3組の大喧嘩となり、葬儀後は、MさんとYさん・弟夫婦は一切関わることなく不仲のまま距離をとるようになってしまいました。

Yさんの事例は、数年前に放送していたドラマ「渡る世間は鬼ばかり」に出てきそうな、極端なストーリーにも思えますが、こういったトラブルは実際珍しくなく、私も似たようなトラブルを本当によく耳にします。

介護に関することでの親族間トラブルは、介護そのものの問題よりも根深いかもしれません。このようなトラブルに巻き込まれそうな場合、どのように対策するのが適切なのでしょうか?

在宅介護における親族間のトラブルに要注意!全員が納得する協力...の画像はこちら >>

次の章で、その対処法を提案していきたいと思います。

両者が冷静な話し合いをしよう

事例のように、「話し合いをしよう」と言った側の人が感情的になってしまうケースはよくあると思います。

なぜ感情的になることが多いのかというと、「話し合いをしよう」と場を設けるという時点で、これまで介護をしてきた本人達は「もう限界!」と思っている可能性が高いからです。

Mさんは、自分から話し合いの場を設けましたが、本当ならその前に誰かに助けてもらいたかったのかもしれません。

「何か手伝う?」の一言が欲しいと思っていたかもしれないのです。

それなのに、誰も手伝ってくれない状況に不満を抱き、話し合いの場で爆発した可能性もあります。Mさん側からしてみれば、自分達が可哀想な人であり、他のきょうだい達にこれくらいのことは言っても良いと思っていたかもしれません。

こういった場合、意識すべきは感情的になっている人に話し合いの主導権を握らせないということです。

「自分達は可哀想!」と感情のままに発言するMさんとは、この先何時間話してもお互いに納得できる答えが出ない可能性が高いからです。

そのため、この場合の対処法としては一旦、時間を置くというのが良いでしょう。

ただし、介護の問題は緊急性のある場合も多いため、あまり時間を置きすぎるのも望ましくないです。

可能であれば、次の週くらいに話し合いの場をもう一度設けるよう提案してみるのも良いかもしれません。

「私達も今日この場で結論が出せないので、一旦持ち帰ってもう一度考えたいです。次週くらいにまた話し合いの場を設けても良いでしょうか?」などと提案してみましょう。

納得いかない提案を一方的にされ、その場で頷いてしまうよりも、一旦持ち帰ることを提案することで、次に会ったときに冷静に話し合えるかもしれません。

関係者全員が納得する結論が出るまで、何度も話し合いを重ねましょう。

また、全員で協力して介護をしていくよう提案するのならば、介護に関する経済的な情報はできるだけ開示してもらうようにしましょう。

例えば、現在の年金額や、貯金残高など、具体的な金額を把握しておくことで後々の揉め事を避けられるかもしれません。資金を事前に共有しておくことで、介護サービスを受ける際にも話がスムーズになる可能性もあります。

お金のことは聞きにくいことかもしれませんが、はっきりと聞いておく方が自分自身も納得して介護に参加できるでしょう。

トラブルになる前に話し合いを

一番理想的なのは、高齢者が元気なうちにきょうだい間で介護について話し合っておくことです。

高齢者が元気なうちであれば、時間をかけてゆっくり話し合うこともできるため、それぞれの想いを伝え合えるかもしれません。

しかし、いくら事前に話し合っていても実際介護が始まってみると、想像していた状況とは違うこともあります。

一人では抱えきれないときほど、きょうだいの協力が必要になるかもしれません。

状況が変わるたびに、話し合いができれば理想的ですが、その話し合いも自分の思った方向に向かわない時もあるでしょう。そんな時には、冷静になることが何よりも大切です。

介護の問題に直面したときは、自分達だけでなく、高齢者本人や身内のことまで考える必要がありますが、冷静でないと適切な答えが出ないことが多いです。

まずは、関係者全員が冷静になれる環境を作り、介護をするために本来必要な話し合いはどういったものであるかを今一度考えてみましょう。

本来あるべきは、協力できる人全員で高齢者の生活をサポートする環境です。それを頭の片隅に置きながら、協力できる環境をつくりあげていくことが大切です。

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