みなさんも「介護は突然やってくる」という話をよく耳にするかと思います。

しかし、多くの場合には家族の介護が始まる前に、入院などの前兆があり、その段階でどんな行動をとるかによって、その後の介護生活が左右されます。

そこで今回は、介護離職を避けるためにも、介護が始まる前にしておきたい3つのポイントをご紹介いたします。

①事前に職場の上司や地域包括支援センターに相談しておく

近年、よく受ける相談のケースを簡単にご紹介しましょう。

仕事で多忙の毎日を過ごす中、ある日突然「お父さんが倒れて救急搬送された!」との一報が入ります。

連絡を受けて病院に駆け付け、どうにか一命を取り留めて一安心。容体も落ち着いてきたと思ったところにいきなり退院の話が持ち上がり「どうしよう」と頭が真っ白に…。

介護と仕事の両立を目指すために…介護が始まる前からできる3つ...の画像はこちら >>

というのも、現在では急性期治療が終わって患者の症状が安定すると、一般病棟に移ってすぐに病院側は退院するように促してくるのです。

次の急性期患者の受け入れのためという理由はもちろんありますが、大きな要因は入院患者を長く置くほど病院側の経営が厳しくなる報酬制度にあります。例えば、一般病棟の入院日数による加算は14日以内では1日あたり4,500円ですが、15日以上30日以内で1,920円と大幅に下がり、31日以降は加算がつかなくなるのです。その影響もあって一般病棟の平均在院日数は16.1日となっており(厚生労働省調べ)、年々その日数は短くなってきています。「せめて歩けるようになってから」「自分でトイレに行けるようになってから」などと言っていられる時代ではなくなっているのです。

つまり、急性期を脱した時点で、早期退院による介護発生の可能性を考慮し、まずは関係する先々へ連絡・相談しておくことが大切です。まず少なくとも次の3ヵ所への連絡が急がれます。

  • 自身の職場や所属先
  • 患者がお住まいの地域包括支援センター
  • 生活を支える家族や近親者

自身の職場や所属先への連絡・相談は先の見通しが立ってからするのではなく、現時点での見通しを伝えたり、経過の報告を入れたりしておくと良いでしょう。

介護は予定通りにいかないものです。仕事では「報告・連絡・相談」の順に進められるものですが、こと介護においては、まずは「相談」を先にしておき、「相談・連絡・報告」の順で行うことが重要です。

特に、仕事と介護の両立を図るうえでは、とにかくより早い段階で相談しておきましょう。介護離職を決めてしまうケースの多くが所属先に相談することなく、退職を決めてから報告している場合が多いようです。

②活用できる法律や企業の独自制度を調べておこう

介護離職防止を図る観点から、企業側でもさまざまな独自規定を設けていることがあります。

あらかじめ相談をしておくことで、どのような制度が適用できるか企業側もある程度準備することができます。状況が変わるたびに連絡は入れておいた方が無難です。各種制度の活用を検討したい旨を伝えておきながら使わずに済んだならそれはそれで良いことなのですから。

介護で活用できる支援制度
  • 介護休暇
  • 介護休業
  • プール年休利用
  • 短縮勤務
  • 残業配慮
  • フレックス勤務
  • 在宅勤務

出産・育児や介護などのライフイベントが起こっても仕事を両立できるようにするための法律である「育児・介護休業法」に基づき、介護を行う労働者が利用できる制度が「介護休業制度」です。例えば、介護休業や介護休暇は「介護を行う期間」だけでなく「仕事と介護の両立を図る体制を整える期間」としても利用することができることになっています。もちろん、市区町村や医療機関での諸手続き、地域包括支援センターやケアマネージャーへの相談にも活用できます。

東京商工リサーチの調査によると、介護離職者が離職前に介護休業や休暇を利用しなかった企業が54.5%に上ることがわかっています。できる限り介護離職を避けるためにも会社との相談を欠かさずに行いましょう。

頼りになる地域包括支援センター

介護保険サービスを活用するかどうかにかかわらず、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談しましょう。地域包括支援センターはお住いの地域に必ず設置されていますので「地区町村名 地域包括支援センター」と検索すればすぐにわかります。

地域包括支援センターには保健師、社会福祉士、ケアマネージャーなどの専門職がいるので、保健や福祉に関するサービスや介護に関する相談に乗ってくれます。

介護保険サービスを使うことになりそうな場合、まずは要介護認定を受けることになりますが、そこまでの流れについてもかなりの部分をサポートしてくれます。

もちろん、一人でも各市町村の窓口で介護認定の申請はできますが、一人で行うとなると不慣れなうえ、大変な時間と労力がかかりますので、お願いできる部分は積極的に依頼しましょう。

ケアマネージャーなどの専門職に相談する大きなメリットとしては、「この程度の介護区分になるだろう」という見込みが立てられることです。

実は、申請してから要介護認定が下りるまで、地域にもよりますが約2ヵ月かかります。

つまり、要介護認定が下りる前に病院から退院するので、介護保険サービスを利用できないと大変な苦労を強いられます。介護保険サービスは、介護認定を申請した時点から「見込み」で利用できます。退院までの間に各種介護保険サービス事業者との契約を間に合わせるうえで、きっと力になってくれることでしょう。

注意点としては、介護保険サービスには、専門用語や難解な制度・仕組みがたくさん出てきます。ケアマネージャーなどはわかりやすい説明を心がけていますが、わからない言葉や手続きなどがあったときはその都度聞いておくと良いでしょう。

また、介護保険制度ではできることとできないことがあるため、「それは制度上難しい」「できないことになっている」と繰り返されるとだんだんとケアマネージャーに任せた通りの介護計画書(ケアプラン)に同意するだけになりがちです。

できあがった計画書に合わせるだけ、というのは計画の段階では楽かもしれません。しかし、介護が長く続いた場合、本来の希望と大きく異なったため、むしろ介護負担が重くなることがあります。制度上できることとできないことがあるとはいえ「できるできないにかかわらず本音はこうしたい」という思いをしっかりと伝えておくことが大切です。

③家族間での対話もしっかりしておこう

実際に介護が始まる前に、介護を受けることになる本人と家族や近親者全員で話し合いをしておくことも必要となります。

主に周辺のお世話をするのは誰になり、どこまでできるのか。周囲の人間はどんなサポートが可能で経済的支援はどの程度できるのか。多くの場合、介護を受けることになる本人が自身の状態を正しく理解できない状況で話し合いを進めなければならないことでしょう。

話し合いは簡単には結論が出ないものです。ついつい話し合い自体が面倒になって背伸びして見せたり、頑張ってどうにかする、といった根性論で片付けてしまいがちですが、現実に即して冷静に判断することが大切です。

ただでさえ危機的状況を乗り切ったばかりで、疲弊した状況ですので当然ストレスも大きくなります。すぐに家族全員が合意できるような結論は出ないかもしれませんが、まずは大まかな方針やそれぞれがイメージしている方向性など、できる情報の共有から話し合いを進めると良いかもしれません。

なかでも主に介護することになる「主介護者」は最低でも決めておく必要があります。主介護者とは、「ケアマネージャーの介護計画への同意や調整を行うことになる近親者」を言います。

したがって同居の必要はありませんし、長男長女が優先ということもありません。何かあった場合にケアマネージャーから一番に連絡が行く人と捉えても良いでしょう。要介護者本人の生活を支えていくうえでのキーパーソンとなる人が担うことが多いです。それゆえに要介護者本人と近い位置にいても連絡が付かないような方は不向きと言えます。

ここで「主介護者」ではない家族や近親者が陥りがちなのが「私は介護者ではない」という誤った認識です。介護は「主介護者」だけが介護者というわけではありません。要介護者のために時間や労力・経済的支援を行う以上、かかわる全員が「介護者」であることはなんら変わりません。かかわる人間が多いほどもめてしまう可能性は高くなりますが、一方でかかわる人間が多いほど一人当たりの負担は小さくなるのも事実です。

大切なことは常に面倒なものです。感情的になることなく、各々がどんなことができるのか案を出し合って大切な家族の人生を支えあっていただきたいと思います。

まとめ

今のうちからできることはいろいろと見えてきたことと思います。

仕事と介護の両立は理想ではありますが、やはりさまざまな課題があることも事実です。

何から取り組めばいいのかわからないという方は、厚生労働省が無償で提供している「仕事と介護の両立支援ガイド」を一読しておくことをおすすめします。

「親が元気なうちから把握しておくべきこと」チェックリストといった個々人でも活用できる介護と仕事を両立させるための具体的なツールが紹介されていたりしますので、今のうちから活用しておいても良いかもしれません。

そして何より、社会保障制度に関する関心を持っておくことが大切です。いざ各種制度を使うことになったときに、きっと多くの方々が「なんでこんなに使いづらいんだ」「わかりづらいんだ」「ややこしいんだ」と腹立たしく感じていらっしゃいます。

それは私たち国民が関心を持ってこなかったために起こっていることなのかもしれません。両親が高齢期にさしかかっている方は、少しずつでも情報を得ておくことをおすすめします。

【参考文献】
令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況(厚生労働省)2023/10/19

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