運転免許証を返納したり、体が不自由になったりしたときに役立つのが電動車椅子です。車がないと生活がままならない地方に住む高齢者の移動手段としても、今後の普及が望まれます。

その一方で、近年は電動車椅子による高齢者の事故が増加傾向にあります。

そこで今回は、高齢者が電動車椅子を使用する際に注意したいポイントについて解説いたします。

電動車椅子は要介護度2以上が補助の対象

運転免許証を返納した高齢者の足として、電動車椅子は重宝する福祉用具の一つです。

ちょっとした買い物や通院、知人の家を訪問したりと、高齢者の生活を助けてくれます。特に過疎高齢者地域では、車の運転ができなくなると、これまでできていた当たり前のことができなくなります。そんなときに電動車椅子が役立ち、日常の生活が維持できるようになるのです。

そんな便利な福祉用具ですが、介護保険適用で電動車椅子を利用するためには要介護2以上の認定が必要です。

要介護2は歩行が困難な状態だと想定されていますが、本当にこの福祉用具を必要とする対象者は、元気で認知症もないものの運転免許証を返納した方や、膝関節症などで歩行にやや支障があり買い物などに出かけるのが困難な方、いわゆる軽度な介護状態にある方たちです。

そういった介護保険上では許可されていない方に対しては、ケアマネージャーが行政に軽度者申請という書類を作成し提出、許可が下りれば介護保険での電動車椅子の利用が可能となります。

 

過去最悪のペースで推移する電動車椅子の事故

高齢者が地域で生活を続けるために有益な電動車椅子ですが、近年は高齢者の電動車椅子による事故が多く発生しています。製品評価技術基盤機構(NITE)によると2023年8月末時点で、今年は過去最多のペースで推移していると注意を喚起しています。

NITEによると、2021年発生した高齢者の電動車椅子による事故は7月時点で8件。過去10年で最も多かった件数にすでに並んでおり、過去最多のペースで推移しているようです。

高齢者の電動車椅子事故が急増中…事故防止のためにチェックして...の画像はこちら >>

また8件のうち、高齢者が亡くなった事故が6件、重傷となった事故が1件と被害状況も深刻なものとなっています。

過去10年の事故の内容をみると、「側溝や川などに転落」が最多。次いで「踏切で電車と接触」や「下り坂、段差などで転倒」も多くなっています。

NITEは、「高齢者の電動車椅子による事故は、危険な場所の通行を避けたり、誤った使い方をしないよう気をつけたりすることで防げるものが少なくない」と説明しています。また「高齢者本人が気をつけるだけでなく、家族や周りの方々が気を配ることも大切」と呼びかけてもいます。

歩行者扱いとはいえ乗り物であることに注意!

以前、私がかかわったケースでは運転免許証返納後に電動車椅子を利用し、近隣の小売店に買い物に行ったり飲食店に食事に行ったりと日常生活を楽しむ高齢者がいました。「広い店舗なら電動車椅子のまま店の中に入れるし便利だよ」などと、楽し気に話してくれたものです。

しかしあるとき、外食時に飲酒をして、そのまま電動車椅子に乗車してしまいました。電動車椅子に乗っていたとしても法律上は歩行者扱いなので飲酒運転にはなりませんが、操作を誤ると危険な乗り物に乗っていることには変わりがありません。案の定、運転を誤り田んぼ道に転落してしまいました。幸い大きな怪我もありませんでしたが、歩行者扱いとは言え飲酒をした状態での運転は絶対しないようにと約束をしました。

電動車椅子を安全に利用するためにご家族としては飲酒運転などをしないように注意をしていく必要があります。

電動車椅子はおおよそ2~6kmの速度で走行することができますから、使用するためにはやはり交通法規をきちんと守れる認知機能状態が必要です。

高齢者の電動車椅子事故が急増中…事故防止のためにチェックしておきたいこと

また、電動車椅子は車と比較するとタイヤが小さめです。

乗用車とは異なり、ちょっとした段差でも運航に支障をきたしたり、車体のバランスが大きく揺らいだりします。結果、崖などへの転落や踏切内でのアクシデント、転倒につながるのです。

ですから、乗車する方には電動車椅子の性能や走行時の路面の状況などをきちんと判断できる判断力が求められます。さらに危険な状態が生じた際にブレーキを確実にかけられる、危険な場所を回避して走行するなど反射神経を含め運動機能的な能力も相応に必要となってきます。

同居、別居に限らず電動車椅子を使用するご家族は高齢者の心身能力や判断力、また視力や聴力が安全な運航をするために支障がないか適宜チェックをしていく必要があります。

日常的に通行する周辺の交通状況を把握しよう

そして、もう一つ重要なのが電動車椅子を利用する方の住んでいる地域の状況です。

電動車椅子は平均的に継続走行距離約30km、連続走行時間約5時間程度とされています。しかし、これは走行する地域の状況によって変化します。例えば、坂が多い地域ではバッテリーの消費は大きくなり、走行距離も走行時間も減少します。また、バッテリーの劣化状態によっても左右され、冬季と夏季でもバッテリーの性能に差が出ます。

こうした細かい条件を考慮に入れないと、過疎地域などでは人通りの少ない山間部で、不意に電動車椅子のバッテリーが切れ走行不能になるといった事態を生じかねません。

さらに、電動車椅子で活動する範囲の道路状況や傾斜状況についても注意が必要です。

電動車椅子は、カタログ値では10度くらいの傾斜であれば走行可能と表示されています。ちなみに傾斜10度とはスーパーやホームセンターで見かけることがある屋上へのスロープくらいの傾斜です。しかし、左右に曲がるときは、カタログ値が参考にならないケースもあります。そのため、製品によっては前後10度、左右6度以上の坂道は警告音で知らせてくれる機能が付いたものもあるようです。また、路側帯が極端に狭い箇所などは走行に危険が生じるので注意が必要です。こういった地域の状況については電動車椅子のレンタル、もしくは購入時に業者が使用に適するかある程度一緒に考えてくれます。

「電動車椅子を手配してみたものの、結局使えない…」といった事態を回避し、不慮の事故を避けるためにも、あらかじめ専門業者としっかり相談しておきましょう。

最後に、走行する地域の交通量にも注意しましょう。時間帯によって大型トラックが頻繁に走行していたり、路側帯が狭いのに交通量が極端に多いなといった道路は避けて通るべきでしょう。

踏切があるか、ガードレールのない崖があるか、段差によって転倒するリスクのある場所がないかなど、ご本人だけでなく家族も一緒に把握することが必要です。

事前に危険な場所を把握しておくと、もし電動車椅子で転倒して帰りが遅くなったとしても、発見しやすくなります。そのため、通常使用する経路をあらかじめ家族と共有しておくことが大切になります。

免許証を返納した高齢者の快適な生活のために電動車椅子はとても有益な福祉用具です。しっかりと事前に準備と対策をすれば、高齢者が地域で元気に生活するための良き相棒となるでしょう。

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