「お風呂に入るとリラックスできる」

「お風呂に入ったあとは、身体が温まってよく眠れる」

入浴にはさまざまな効果がある反面、入浴は危険も多く潜んでいます。特に高齢者が冬に入浴する際には注意が必要です。

実は、11月から4月にかけての寒い季節は、高齢者が入浴中の事故で亡くなることが多く、交通事故の約2倍といわれています。

この記事では、高齢者の入浴で危険なことや注意点などを解説します。

入浴の効果

入浴の注意事項の前に、効果について説明します。入浴の効果としてあげられるものは、主に以下のとおりです。

  • 身体をあたためる
  • 身体の清潔を保つ
  • 感染症の予防につながる
  • 心身をリラックスできる
  • 眠りの質が向上する

また、高齢者の場合、入浴により要介護リスクの軽減も期待できます。千葉大学の研究によると、週7回以上の入浴をしている高齢者は、週2回以下しか入浴しない高齢者に比べて、介護認定される割合が3割ほど低いというデータがあります。

このように入浴は、高齢者の心身に良い影響をもたらしているといえるでしょう。

高齢者の入浴で危険なこと

高齢者にとって、さまざまな効果がある入浴ですが、実は危険も潜んでいます。ここでは3つの危険について解説しますので、チェックしておきましょう。

1.ヒートショック

ヒートショックとは、急激な温度変化による身体へのダメージのことです。具体的な症状としては、血圧の変動や不整脈、失神などが挙げられます。

冬は気温が下がり、浴室内や脱衣室も室温が低くなりがちです。この時血管は収縮しており、血圧は上がります。その状態で、お湯に浸かり体をあたためると、逆に血管が拡張して、血圧が下がるのです。

このような血圧の変化が起こると、脳の血流が低下してしまい意識を失う危険性も。

お風呂場で意識を失うと溺れる危険もあり、死に至る恐れもあります。

特に高齢者は血圧を正常に保つ働きが低下している場合があるので、一層注意が必要です。

2.浴室内熱中症

浴室内熱中症とは、入浴により体があたたまることで血管が広がり、血圧が低下して起きる体調不良です。

入浴中に体温が40度を超えてしまうと熱中症の症状が出始め、意識障害が起き、事故につながる可能性が高くなります。

体温37度の人が41度のお湯に33分つかると体温は40度に上がり、湯が42度なら26分で40度に達するという研究結果があります。

それぐらいの長い時間お湯につかっていれば、のぼせて汗が大量に出そうですが、高齢者は「熱さを感じにくく、頭痛や動悸(どうき)といった熱中症の症状も出にくい」ということも考えられます。

そのため熱中症に気付かぬままお湯につかり続けて、急に意識を失ったり心臓が動かなくなったりして溺れる恐れがあるのです。

3.転倒

浴室は床が濡れていて滑りやすく、転倒のリスクが高い場所です。せっけんの泡が残っていると、さらに滑りやすくなるので気を付けなければなりません。

それだけでなく、高齢者の場合は身体機能の低下により浴室内での移動動作が不安定になりがちです。

入浴時の転倒は衣服を着ていない中で起こるため、衝撃が体に直接伝わり、大けがになりやすいともいわれます。時には死亡事故につながる危険もあるので、注意が必要です。

高齢者が入浴するにあたっての注意事項

ここからは、高齢者が入浴するにあたっての注意事項を、入浴前・入浴中・入浴後の3つに分けて解説します。

1.入浴前

入浴前には、血圧や体温、脈を測って体調を確認しましょう。いつもより血圧が高い、熱がある、脈が速いなど体調に変化があれば入浴を見合わせます。頭痛などの自覚症状がある場合も、入浴は控えた方がよいでしょう。

また、食事の直前直後の入浴も控える方が良いでしょう。空腹時の入浴は、血糖値の低下による体調不良の原因になり、食事直後の入浴は消化不良の原因になります。食後1時間程度経ってから入るようにしましょう。

ヒートショック予防のため、湯船のふたを開けたり、浴室にシャワーをかけたりして、浴室や脱衣室をあたためておくことも必要です。

同居家族がいる場合は、入浴前に家族にひと声かけましょう。

2.入浴中

浴槽に入る前にはかけ湯をしてください。急に浴槽に入るよりも血圧の変動をゆるやかにできます。心臓から遠い、手や足から先にお湯をかけましょう。

お湯につかると血管が拡張して血圧が下がります。長湯をすると血圧が下がりすぎるうえ、心臓にも負担がかかります。また、脱水症状や浴室内熱中症の可能性がありますので、お湯につかるのは5分程度が望ましいでしょう。

気温が低い方といってお湯の温度を高くしすぎることも避けてください。適温は38~40度といわれます。心臓病や高血圧の人は40度以下にすることが望ましいです。

移動に不安がある場合は、浴槽への出入りや立ち上がり、姿勢保持、浴室内などの移動を補助するため、手すりがあると良いでしょう。そのほか、入浴用の補助用具を使うこともおすすめします。下記の入浴補助用具は、介護保険制度により1割負担で購入可能です。

  • シャワーチェアー(浴室用いす、一般の椅子より高さがある)
  • 入浴台(座ったまま湯船に入るための台)
  • 浴槽台(浴槽内で座るための椅子、足継ぎの役割もある)
  • 浴槽用手すり(浴槽のふちに取り付けるタイプ)

介護保険適用ではありませんが、浴室や浴槽に滑り止めマットを敷くのも良いでしょう。

なお、家族は高齢者の入浴中、入浴状況に注意を向けることが大切です。「入り始めてからかなり時間が経っている」、「音がしなくなった」、「急に大きな音がした」など異変があった場合は、迷わず声をかけましょう。

3.入浴後

入浴を終えて身体を拭くときは、足の裏までしっかり拭きましょう。足の裏が濡れていると滑りやすく、転倒のリスクが高くなります。

服を着るときは、椅子に座って行いましょう。立った状態で着替えると、バランスを崩して転倒する危険性があります。

入浴後は水分摂取も忘れずに。入浴により失われた水分を補給して、脱水症状を予防しましょう。そして充分に休憩してください。特に高齢者は、自分で思っている以上に入浴により体に負担がかかっています。

まとめ

11月26日は、日本浴用剤工業会が日本記念日協会に登録して認定された、いいふろの日です。「1126=いいふろ」と読む、語呂合わせが由来となっています。

寒くなるこれからの季節も安全に、かつ気持ちよくお風呂に入るためにも、この記事で紹介したポイントに注意してください。

1人暮らしで入浴が不安な方、入浴の見守りや介助が大変と感じているご家族の方は、デイサービスや訪問介護(ヘルパー)などの介護保険サービスを利用して、無理なく入浴する選択肢も考えてみてはいかがでしょうか。

参考文献
日本の高齢者における入浴頻度と機能障害の発症: JAGES による前向き 3 年間コホート研究 
政府広報オンライン|交通事故死の約2倍?!冬の入浴中の事故に要注意!
公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット|高齢者の入浴事故 ヒートショック対策と予防
消費者庁|冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!-自宅の浴槽内での不慮の溺水事故が増えています-
バスリエ公式サイト|入浴時の熱中症に関わる意識調査と頭痛などの症状別対策法と予防法
厚生労働科学科学研究成果データベース|温浴による体温上昇、高体温が意識障害の原因と考えられた

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