介護は突然はじまります。すぐにどこかの施設で預かってもらえるわけではないので、仕事をしながらの在宅介護が始まる場合、とてもハードです。

休息をとるはずの家が休まらない場所になります。場合によっては、夜のトイレ介助で睡眠時間が削られて、体力も精神力も消耗するばかり…なんてことも。通院や役所への手続きなどで休みをとることになってしまい、会社に迷惑をかけている罪悪感から「ラクになりたい」「仕事を辞めよう」と考える人もいます。

しかし、仕事を辞めるのは“最後の最後”の手段。その前にできることはないか考えることが大切です。

そこで、本記事では介護のために仕事を休むことができる介護休暇・介護休業などの制度を解説したうえで、介護で一定期間以上休んだ際に活用できる介護休業給付金制度についてもご紹介します。

介護休暇と介護休業

介護のために仕事を休むことになったときにはどうしたらよいのでしょうか。

会社で働いていれば労働基準法で定められた年次有給休暇があるでしょう。また、会社独自の積立休暇の制度があるかもしれません。まずはお勤めの会社の就業規則や、育児介護休業規程の「介護休暇」「介護のための短時間勤務」「介護休業」などの制度を確認してください。

会社は、従業員が介護と仕事を両立するために育児介護休業法に定められた以下の支援をすることになっています。また、制度を利用した従業員に不利益な対応をすることは禁止されています。

育児介護休業法に定められた制度介護のための短時間勤務の措置 短時間勤務ができる制度 介護休暇介護が必要な日に休める制度介護休業介護のために仕事を休める制度残業時間を制限残業時間に一定の制限を与える制度深夜業の制限深夜(22時ー5時)の就労を制限転勤の配慮 家族を介護する従業員の転勤に一定の配慮を求める制度

※転勤の配慮以外は、「入社1年未満」「週に2日以下しか働かない」人を労使協定で対象外にしている場合あり

なお、原則として育児介護休業法に定められている制度は、従業員側から会社へ申し出るスタイルになっています。

もしも活用できる制度があるにもかかわらず「知らなかった」ために利用できなかったとしたら、もったいないことです。

もし、会社の担当者が制度を知らなかった場合は、ぜひ自ら申し出てみましょう。会社が導入を検討するきっかけになり、他の従業員の方へも介護と仕事の両立の道をつくることになるかもしれません。

ノーワーク・ノーペイと介護休業時の社会保険料

ほとんどの会社では、仕事を休んだ場合には給料は出ません。育児介護休業法による制度を定めた「育児介護休業規程」には「この時間(日)に対する給料は支払わない」と規定されていることが多いです。

これは「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。

従業員が「働いていない時間」に対し、会社は給料を支払う義務はありません。たとえば、遅刻や欠勤に対して、会社は「働いていない時間」の給料を減額できますし、従業員は「働いていない時間」の給料を請求はできません。

会社を休んでお給料が減った場合には、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料と住民税について、給与額によっては天引きできないかもしれません。いったん会社が立て替えてくれますので、会社の指示で会社に支払うことになります。

なお、雇用保険料は支払われた給料にかかりますので、給料が出ない場合は発生しません。

介護休業給付金の申請と給付金額

介護で一定期間以上休んだ際に、雇用保険(ハローワーク)から介護休業給付金を受け取れる可能性があります。同一家族の介護に対して「93日まで」を上限に、給料の約67%が支給される制度ですので、調べて申請をしましょう。会社が手続きをしてくれる場合もあるので、まずは相談してみてください。

また「介護休業を○○日までに取る」などの情報をケアマネージャーに伝えることにより、施設入所等の検討中の場合は、期限に添って動いてくれる可能性があります。仕事を辞めたくないこととあわせて相談をされると良いでしょう。

介護休業給付金を申請できるかどうかを調べる

なお、介護休業給付金を受け取れるかどうかには、以下のような要件があります。

①次の2点を満たす「介護」を目的とした休業である

(1)要介護者の続柄
被保険者の

  • 配偶者(事実婚もOK)
  • 父母
  • 子ども
  • 配偶者の父母
  • 祖父母
  • 兄弟姉妹
にあたる家族を介護する

(2)要介護者の状態
負傷、疾病又は身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態にある

②雇用保険の被保険者期間が12カ月以上ある

ご自身が雇用保険の被保険者であるかどうかは、給与明細書の「雇用保険料」控除の有無で確認することができます。

そのうえで、介護休業を始める前の2年に、「賃金を支払われた日数が11日以上ある月」(雇用保険の被保険者期間)が12ヵ月ある必要があります。

ただし、転職したてのタイミングなど、賃金が支払われた月が12ヵ月以上ないケースもあるでしょう。その場合、特に規定がなければ前職における被保険者期間を通算できる可能性もあります。あきらめずにハローワークへ確認してみてください。

介護休業給付金の支給申請について

原則的に会社が作成し、手続きをしてくれます。その際に作成するのは以下のような書類です。

  • 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
  • 介護休業給付金支給申請書

これらの手続きにおいて、個人がそろえる必要がある書類は以下の通りです。

  • 勤務している人のマイナンバー
  • 介護される対象家族のマイナンバー
  • 振込先金融機関の口座証明か通帳コピー(マイナンバーで公金受取口座に指定されている場合は不要)
  • 介護される方との関係がわかる住民票記載事項証明書(マイナンバーで省略の可能性あり)
  • 介護休業申出書(社内様式)

介護休業給付金はいくら受け取れるか

受け取れる額は自身でも計算することができます。以下の用語と計算式を参考にしてください。

賃金日額×支給日数×67%(給付率)

※賃金日額:介護休業を開始する前の6ヵ月間の給料を180で割った額

たとえば、月給が30万円だった場合、賃金日額は以下のようになります。

賃金日額:30万円×6ヵ月÷180日=10,000円

これを上記の式に当てはめて給付金額を計算してみましょう。

10,000×30日×67%=201,000円

つまり、20万1,000円が支給されることになります。疑問に思う点があったらハローワークで確認してみてください。

事例別Q&A

Q1.父親の次に母親の介護が必要になり、連続して介護休業を取得する場合、介護休業給付金は申請できますか?

A.要件を満たせば、93日分+93日分受給できます。それぞれ同じように申請して、事前にハローワークに確認しましょう。

Q2.介護うつになってしまい、傷病手当金を申請し受給しています。そのうえで介護休業給付金も受給できますか?

A.傷病手当金と介護休業給付金は制度が違うので、どちらも受給できます。

Q3.会社が「介護と仕事の両立」に理解がなく、会社を辞めてほしいことをにおわせるような言葉をかけられました。どうしたらいいですか?

A.中小企業が対象ですが、介護離職回避の両立支援助成金「介護離職防止支援コース」があるので、それを提案してみてください。あまりにひどい対応をされる場合は、都道府県労働局の雇用均等・両立支援担当という部署に相談することをおすすめします。

まとめ

介護は突然始まり、いつ終わるかわかりません。それでも生活していかなければなりませんし、介護を理由に会社を辞めると経済的に厳しくなります。

国は介護離職を回避するべく、介護休業制度の利用状況の改善に向けて、さまざまな支援を充実させています。今回ご紹介した制度を理解し、利用したい制度を調べて会社に相談してみてください。

【参考文献】
Q&A~介護休業給付~(厚生労働省)2023/10/30

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