原則65歳から受給できる老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)は、雑所得として所得税や住民税の課税対象です。
ただし、受給金額によっては非課税になることも。
今回は、年金収入による211万円の壁と、年金の他に給与収入がある場合、住民税非課税世帯になるためにはどのくらいまで働けるのかについてわかりやすく解説していきます。
住民税非課税世帯とは?
住民税とは、住所地の都道府県(都民税、県民税など)と、市区町村(市民税、町民税など)に支払う税金です。住民税には均等割と所得割の2種類があり、課税額は両方の合計額になります。
均等割とは、所得にかかわらず一律に固定の金額。一方、所得割とは、課税所得に税率をかけた金額のため、それぞれ納税額が異なります。
ただし、住民税には非課税措置があるため、一定の所得以下の方であれば課税されません。非課税となる場合は、世帯全員が非課税措置の対象であり、均等割・所得割のいずれも住民税が課税されない世帯のことを住民税非課税世帯といいます。
住民税非課税世帯は、住民税を支払わないだけでなく国、自治体、公的機関などで実施されているさまざまな優遇措置を受けることができるのです。
住民税非課税世帯になる基準
住民税非課税世帯の基準になる所得額は、自治体によって若干異なります。
この基準となる自治体ごとの所得額は、生活保護法に基づく地域ごとの立地特性や生活様式等に応じた級地制度によって決められています。
級地制度は1級地から3級地まであり、大都市圏である1級地の方が2級地よりも住民税非課税世帯になる基準額が高く、2級地の方が3級地よりも基準額が高くなっています。
例えば、東京23区(1級地)の場合は、以下のいずれかの条件を満たしている方です。
- ①同一生計配偶者または扶養親族がいるケース
- ②同一生計配偶者及び扶養親族がいないケース
35万円×(本人、同一生計配偶者、扶養親族の合計人数)+31万円以下であること
45万円以下であること
住民税非課税世帯が受けられる優遇措置
住民税非課税世帯は住民税が免除されるほかにも、さまざまな優遇措置が受けられます。自治体ごとに優遇措置は異なる場合もありますが、住民税非課税世帯が優遇措置の条件になっていることが多いです。
例えば、以下のような優遇措置があります。
- 国民健康保険料や国民年金保険料の減免措置
- 介護保険料の減免措置
- 高額療養費の基準額が低く設定される
- 後期高齢者(75歳以上)の医療費の減免
- 0歳から2歳までの保育料の無償化
- 大学の入学金や授業料の減免、給付型奨学金の支給
- 修学支援新制度による授業料などの減免
- 介護サービスの利用料が減額される
- 障害者福祉サービスの利用
- 国が支給する臨時給付金など
このように、住民税非課税世帯かどうかで、受けられる優遇措置が大幅に違ってくるのです。
年金収入による211万円の壁
年金収入による211万円の壁とは、年金収入だけで1級地に暮らしている65歳以上の夫婦2人だけの世帯が、住民税非課税世帯になるかの境目の年金収入額のことです。
例えば、東京23区(1級地)に住んでいる住民税非課税世帯の計算式は、以下になります。
35万円×2(本人と配偶者の2人)+31万円=101万円(住民税が非課税になる所得額)
年金収入は公的年金等控除(110万円)が受けられます。
101万円+110万円=211万円
この場合の住民税非課税世帯になる年金収入額は、211万円以下になります。
また、住民税非課税世帯とは世帯全員が住民税非課税である必要があるため、世帯主が上記の場合に年金収入が211万円以下であったとしても、配偶者が住民税非課税でなければ住民税非課税世帯にはなりません。
東京23区(1級地)に住んでいる配偶者の場合の住民税非課税世帯の計算式は、以下になります。
45万円(住民税が非課税になる所得額)+110万円(公的年金等控除)=155万円
この場合、配偶者の年金収入額が155万円以下であれば、住民税非課税世帯です。
年金収入以外に給与収入がある場合
年金収入額が211万円までが住民税非課税世帯になるケースは、あくまでも年金収入だけで1級地に暮らしている65歳以上の夫婦2人だけの世帯の場合です。
年金収入だけでなく給与収入もある65歳以上の夫婦2人だけの世帯の場合、住民税非課税世帯になるケースをシミュレーションしてみます。
例えば、東京23区(1級地)に住んでいる共働きの夫婦の夫は年金収入120万、妻は年金収入110万だったとします。このケースで妻が住民税非課税になるには、どのくらいまで働けるのかを算出します。
110万円(年金収入)-110万円(公的年金等控除)=0円(年金の所得額)
45万円(住民税が非課税になる所得額)-0円(年金の所得額)+55万円(給与所得控除)=100万円
このケースでは、妻の給与収入が年間100万円以下であれば、住民税非課税になります。妻が住民税非課税のため、この夫婦が住民税非課税世帯になるためには、夫はどのくらいまで働けるのかを算出します。
120万円(年金収入)-110万円(公的年金等控除)=10万円(年金の所得額)
101万円(住民税が非課税になる所得額)-10万円(年金の所得額)+55万円(給与所得控除)=146万円
このケースでは、夫の給与収入が年間146万円以下であれば、住民税非課税世帯になります。
まとめ
住民税の非課税世帯になった場合、住民税が非課税となるだけでなく、さまざまな優遇措置を受けることができます。一方、住民税非課税世帯でない場合には、住民税のほか介護保険料や医療費などの負担が大きくなります。
そのため、まずはどのくらいの収入があると課税されるのか、非課税になるのかを知っておくことが大切なのです。