年齢を重ねると、足元を確認しながら歩いていても、少しの段差でつまづきやすくなります。転倒から骨折につながる可能性もあるため、骨を強くする目的でカルシウムが豊富な食品を積極的に摂り入れている方もいるのではないでしょうか。
牛乳やチーズなどからカルシウムを補うことは大切ですが、骨を強くするためにはビタミンK2やビタミンDも必要です。
そこで今回は、骨の強化に必要なカルシウムとビタミンK2、ビタミンDの働きとおすすめの食材、メニューについてご紹介します。
骨を強くするために大切な3つの栄養素
骨を強くするために必要な栄養素は、カルシウムだけではありません。カルシウムの吸収をサポートするために、ビタミンK2とビタミンDもしっかりと摂ることが大切です。まずは、3つの栄養素の働きを解説します。
カルシウム
カルシウムは骨や歯をつくるのに欠かせない栄養素で、筋肉の収縮や血液凝固作用、神経を安定させるなどの機能に関与しています。ほとんどのカルシウムは歯や骨などに、ごく一部は血液や筋肉、神経内などに存在しているのが特徴です。
食べ物などから摂取するカルシウムが少なくなると、骨を溶かして体内のカルシウム濃度を調整するようになります。骨のカルシウムが次第に減少していき、骨密度にも影響を及ぼします。
カルシウムが不足すると骨折や骨軟化症、骨粗しょう症、くる病などを引き起こすおそれがあるため注意が必要です。特に、高齢になると体内のカルシウム濃度が減りやすくなるので、積極的にカルシウムを摂取しましょう。
ビタミンK2
ビタミンK2は、脂溶性ビタミンのひとつで血液凝固作用や骨を強くする働きがあります。なかでもビタミンK2は、骨に含まれるたんぱく質「オステオカルシン」を活性化し、カルシウムの骨への沈着を促して丈夫な骨をつくります。
ビタミンK2は腸内細菌によってもつくられるため、健康な方であれば不足することはありません。しかし、加齢や抗生物質の長期投与などにより、腸内環境が変化するとビタミンKの活性化に必要な酵素が働きにくくなってしまいます。
ビタミンK2が不足すると、血液が固まりにくくなる、骨折しやすくなるなどのリスクが高まるため注意が必要です。高齢者はビタミンK2不足になる可能性があり、腸管からの吸収量が減少しやすくなります。カルシウムと合わせてビタミンK2もしっかりと補いましょう。
ビタミンD
ビタミンDは油に溶けやすい脂溶性ビタミンのひとつです。カルシウムの吸収を促したり、骨の成長をサポートしたり、血中カルシウム濃度を調節する働きがあります。また、免疫機能の向上にも役立つ栄養素として、アレルギーや感染症などの予防に関与していることがわかってきています。
ビタミンDが不足するとカルシウムが吸収されにくくなるため、骨軟化症やくる病、骨密度低下などの原因になりかねません。加齢にともない吸収不良になりやすいため、しっかりと摂取することが大切です。
骨粗しょう症予防におすすめ! 簡単にできる食事のコツ
骨を強くするには、栄養素をバランス良く摂取する必要があります。ここでは、普段の食生活に活かせる簡単メニューやポイントをご紹介します。
カルシウム補給におすすめの食材とメニュー
加齢によってカルシウムの吸収率が低下するため、吸収されやすい乳製品を積極的に摂ることをおすすめします。ほかにも、魚介類や豆類、海藻類、野菜類にも多く含まれています。
【おすすめの食材】- 牛乳
- ヨーグルト
- チーズ
- 小松菜
- 春菊
- 切り干し大根
- ひじき
- 桜エビ
- ししゃも
- わかさぎ
- 木綿豆腐
- 高野豆腐
- 厚揚げ
- きな粉
- 納豆
など
【おすすめのメニュー】・クリーム煮野菜やきのこ、鶏肉などを牛乳で煮込んだ料理です。カルシウムが豊富な小松菜やチーズを加えても美味しく召し上がれます。咀嚼が難しい方には、食材を小さくカットしたり、コトコト煮込んで柔らかくしたりすると良いでしょう。
・きな粉ヨーグルト
カルシウムが豊富なきな粉とヨーグルトの組み合わせも、カルシウム補給に役立ちます。むせやすい方は、きな粉とヨーグルトをしっかりと混ぜてから食べましょう。味が物足りないときは、果物やはちみつを加えると食べやすくなります。
果物にはビタミン・ミネラルが豊富に含まれているので、手軽に栄養補給できるのもポイントです。はちみつに含まれるオリゴ糖には、腸内環境を整える働きもあります。
【ポイント】- 脂質が気になるときは、低脂肪や無脂肪の乳製品を活用しましょう。
- 牛乳を飲むとお腹がゴロゴロするなど、体調面に不安がある方はチーズやヨーグルトなどでカルシウムを補給するのがおすすめです。
- 牛乳を味噌汁に加えれば減塩になり、調味料が少なくても満足度が高まります。
- 普段つくる料理にスキムミルクを加えると、簡単にカルシウムが補えます。ハンバーグやポテトサラダなどに混ぜるだけなので、手軽にカルシウムを強化したいときにぜひお試しください。
ビタミンK2補給におすすめの食材とメニュー
ビタミンK2は体内でも合成できますが、加齢にともない不足しやすい栄養素なので、食事から補うことが大切です。ビタミンK2は動物性食品や発酵食品の納豆に豊富に含まれています。
- 納豆
- 青のり
- 卵
など
【おすすめメニュー】 ・納豆しらすオムレツすべての材料を混ぜて焼くだけの簡単メニューです。納豆に飽きてしまったときのアレンジメニューに加えてみてはいかがでしょうか。
・納豆パスタ麺を茹でてから納豆、めんつゆ、バターと和えるだけで相性抜群のパスタが完成します。器に盛って刻みのりや刻みねぎを散らせば、見た目もキレイに仕上がります。

- ビタミンKは脂溶性で油との相性が良いため、納豆に亜麻仁油をかけるのもおすすめです。亜麻仁油は癖がないので加えても食べやすいメリットがあります。
- ビタミンKには血液凝固作用があるため、真逆の作用をもつワーファリン(※血栓や塞栓などの治療薬として用いられる抗凝固剤)を内服している方はビタミンKを多く含む食品には注意が必要です。摂取可能な量については主治医に相談しましょう。
ビタミンD補給におすすめの食材とメニュー
カルシウムの吸収率を高めるためには、ビタミンDが必要です。しかし、98%の日本人がビタミンD不足であるという結果が、東京慈恵会医科大学の2023年の報告により明らかになりました[1]。
現代は、家で過ごす頻度の増加、魚の摂取量の減少、紫外線対策などにより、ビタミンDが不足しやすい状況です。そのため、普段からビタミンDを多く含む食べ物を積極的に摂取することをおすすめします。
【おすすめの食材】- 鮭
- さんま
- かつお
- いわし
- 黒きくらげ(乾)
- 乾しいたけ
など
【おすすめのメニュー】・鮭のちゃんちゃん焼きビタミンDが豊富な鮭ときのこを使った栄養満点のメニューです。

お好きな野菜をカットしてオイルサーディンを添えるだけの簡単なサラダです。オイルサーディンの原料はいわしなので、ビタミンD補給にもぴったりです。オイル漬けの缶詰を使用すると、吸収率もアップします。
【ポイント】- ビタミンDは脂溶性のため、油と一緒に調理すると吸収率が高まります。
- 市販の乾燥しいたけは電気乾燥のものが多いため、使用前に天日干ししてから使うことをおすすめします。
強い骨をつくるために確認すべき注意点
骨づくりにおすすめの栄養素を摂っていても、吸収を妨げてしまうものを大量に摂取していれば、カルシウムの吸収に悪影響です。ここからは、カルシウム補給時の注意点や、簡単にできる骨を丈夫にする方法をご紹介します。
カルシウムの吸収を阻害する食べ物や飲み物は控える
リンは体にとって必要な栄養素ですが、摂り過ぎるとカルシウムの吸収を妨げてしまいます。スナック菓子やインスタント食品などに多く含まれているため、食べ過ぎないように気をつけましょう。
ほかにも、以下の食材はカルシウムの吸収を低下させる作用があるので、食べ過ぎ、飲み過ぎに注意が必要です。
- カフェイン:コーヒー、紅茶など
- フィチン酸:玄米など
- シュウ酸:ほうれん草、たけのこなど
とはいえ、これらの食材にはビタミン・ミネラルなどの栄養素も豊富に含まれているため、食べる量に気をつければ食べても問題ありません。
野菜であれば茹でてから食べることでシュウ酸の摂取量を抑制できます。また、カルシウムをしっかり摂っていればシュウ酸を体外に排出しやすくなるからです。
カルシウムの吸収を低下させる食べ物や飲み物を適度に控えつつ、食材が偏らないように栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
適度な運動を取り入れる
骨を強化するには運動もおすすめです。ウォーキングなど軽めの運動でも、骨に刺激が加わるため十分効果があります。日常生活でも歩いて買い物に行ったり、階段を使ったりすれば、運動量を増やすことができます。
ただし、膝の痛みなど健康面で不安がある方は、主治医に相談してから運動を始めるようにしてください。
日光浴をする
日光浴をすると活性型ビタミンDがつくられるようになります。しかし、紫外線から肌を守るために日焼け止めを塗ったり、家の中で過ごす時間が多かったりすると、日光からビタミンDを取り込みにくくなります。
紫外線は浴びすぎると悪影響を及ぼしますが、時間を決めて日光浴をすると骨の強化に役立ちます。1日15~30分程度を目安に日光浴を行いましょう[2]。
骨を丈夫にすることは、介護予防につながります。カルシウムやビタミンK2、ビタミンDには骨を強くする働きがあるため、これらの栄養素を含む食材を普段から積極的に摂りましょう。食事以外に適度な運動や日光浴を心がけると、カルシウムの吸収が良くなります。できることから少しずつ試しながら、健康的に過ごしましょう。
【参考文献】
[1]東京慈恵会医科大学「98%の日本人が「ビタミンD不足」に該当 国内初の基準値を公表、植物由来のビタミンDはほぼ検出されず 」
[2]環境省「紫外線環境保健マニュアル2008」