「食事の時間はいつもひとり。もう何日も誰とも話していない…」
一人だけの生活は気楽な反面、寂しさを感じている方もいるのではないでしょうか?
近年、多様性が尊重される時代へと変化し、一人暮らしの高齢者が増加傾向にあります。
そこで今回は、孤食の問題点といつまでも元気で過ごすための対策をご紹介します。
広がる高齢者の孤食の背景
孤食とは「孤独な食事」を示す言葉であり、一人で食事を摂ることです。一人暮らしの方はもちろん、家族がいても一人で食事を摂る場合は孤食に該当します。
孤食が増えた背景には、核家族の増加や働き方の変化などが関係しているといわれています。農林水産省の報告によると、ひとりで食べる頻度が「ほとんど毎日」と回答した方の割合は13.7%でした。
特に、女性の70歳以上で2割台と高い傾向にあります。まずは、高齢者の孤食が増加傾向にある理由についてみていきましょう[1]。
一人暮らしの高齢者の増加
望まない孤食になる原因のひとつに、高齢者世帯の増加が挙げられます。特に、65歳以上の高齢者では、一人暮らしの方の割合が増えています。
総務省の調査によると、2020年で男性が15.0%、女性が22.1%が一人暮らしであることがわかりました。65歳以上の約5人に1人が単独世帯といえます。さらに、2040年には男性高齢者の20.8%、女性高齢者の24.5%が一人暮らしになると予想されています[2]。
生活様式の変化
昔は、子どもや孫と一緒に3世代で暮らす家庭が多くありましたが、現在では核家族化が進んだことも要因の一つ。同居の場合でも、家族が共働きだと帰宅時間が遅くなるなどで、食事時間がバラバラになってしまうケースもあるようです。
自由に食事を選択できる環境
家族がいたとしても、孤食になってしまう場合もあります。食の好みに合わせて家族が別々に食事を摂ることも珍しくありません。帰宅時間が遅くなるなどして、食事の時間帯が異なると一緒に食事をする機会も自然と減少してしまいます。
高齢者の孤食の問題点
一人での食事は好きな物を自由に食べられるメリットがある反面、低栄養のリスクやコミュニケーションの機会が失われるなどのデメリットもあります。ここでは、孤食の問題点について解説します。
栄養バランスが偏りやすくなる
一人暮らしの高齢者は、お茶漬けやパンなど簡単に食べられるものを好みがちです。偏った食事を続けていると、栄養バランスも崩れやすくなるため注意が必要です。
家族など一緒に食べる人がいれば、栄養や見た目を考えて食事をつくる方も多いでしょう。しかし、一人だけであれば食事づくりがおっくうに感じる方もいるのではないでしょうか。
食事を簡単に済ませるために、好きな物や楽に準備できるものを優先しがちな方もいるでしょう。食事の準備をしても一度に食べきれず、何日も同じものを食べ続けることもあるかもしれません。
食事量が低下しやすい
孤食は、食事量の低下につながる可能性があります。家族で食卓を囲んで食べると食事がおいしく感じられるものですが、一人の食事では味気なく感じることもあります。
年齢とともに体の機能が衰えやすくなることも、食事量が低下する原因の一つです。味覚の衰えや咀嚼・嚥下機能、消化機能の低下などにより、食事が楽しめなくなることもあります。食欲がわきにくくなると、次第に食事量も減少してしまいます。
食事量が低下すると必要な栄養素が不足して、低栄養を引き起こしやすくなるため注意が必要です。低栄養になると、体重減少や体力・免疫力の低下、筋肉量の低下などの変化が起こります。疲れやすくなったり活動量が減ったりするため、食事量の低下につながって悪循環に陥りやすくなります。
コミュニケーションの機会が減る
他者とのコミュニケーションを図ることで、認知機能の低下を防ぐ効果が期待できます。しかし、孤食によりコミュニケーションの機会が減ると、うつ病などの精神疾患や生活の質の低下につながりやすくなります。
また、孤食になると会話をしながら食事をしなくなるため、知らず知らずのうちに早食いになる方もいます。良く噛まずに食べると、消化に時間がかかるようになります。胃腸に負担がかかるため、ゆっくりと良く噛んで食べることが大切です。
介護予防になる!高齢者の孤食対策3選
高齢者の孤食を防ぐポイントは、共食の場をつくることです。参加することで栄養バランスが整いやすくなり、会話する機会が増えるので消化にも良い影響を与えます。また、他者とのかかわりが増えて良い刺激になり、介護予防にもつながります。
最後に高齢者の孤食対策を3つご紹介します。
共食の機会をつくる
共食の機会が増えると心身の健康に良い影響を及ぼし、生活の質の向上につながります。共食の場をつくるために、料理教室やシニア食堂などを活用することをおすすめします。
料理教室やシニア食堂に通うことで、コミュニケーションが取りやすくなり孤独感が和らぎます。また、食を通じてゆるやかな関係性が築けると心の安定にもつながりやすくなり、食事面でも栄養バランスの改善や食欲アップも期待できるでしょう。
介護予防の体操に通うのはハードルが高いという方でも、毎日欠かすことができない食事であれば共食の場へ行きやすくなります。そのため、気軽に始められて継続しやすいメリットがあります。
以前勤務していたデイサービスの利用者さんのなかにも、一人暮らしの方がいました。「ここへ来るのが楽しみなんだよ。今日のご飯は何だい?」と、毎回食事を楽しみにされている方や、デイサービスに通うようになってから栄養状態が良くなった方もいます。
ほかにも、定期的に家族と共食の機会をもつのも孤食対策に有効です。
家族が遠方にいる場合はオンラインを活用する
オンラインを活用して、離れている家族と共食の場を設けることも可能です。遠方に住む家族との共食は、高齢者がオンラインを始めるきっかけにもなるでしょう。映像がなくても通話機能を活用すれば、会話をしながら食事を楽しむこともできます。
ただし、食事の時間がお互いに異なる場合、オンラインでの共食は難しい場合もあります。上手に活用するには、ビデオメッセージを使ってみるのもおすすめです。
例えば、離れて暮らす子や孫が撮影したビデオメッセージを受け取り、ビデオを見ながら食事を摂ることで共食に近づけることができます。食べ終えたらコメントを残し、家族に送信するなどすれば、都合の良いタイミングで無理せず共食の雰囲気を楽しめます。
家族と予定が合わないときは、テレビやラジオを活用するのも良いでしょう。食事中に人の声が聞こえているだけでも、食事が美味しく感じられるともいわれています。
食に興味をもってもらう
食への関心を高めるために、離れて暮らす家族と情報交換をするのもおすすめです。食事内容やレシピの共有など、楽しみながら行うと食に興味をもちやすくなります。食への関心が高まればバランスの良い食事を心がけるようになるでしょう。
特に、孤食だと茶色ばかり、白ばかりの偏った食事になりがちです。
とはいえ、時間に縛られずに食べたいものを食べられるのが食の楽しみ、という方もいるかもしれません。もし共食が難しくても食事がマンネリにならないように心がけていきましょう。
孤食対策のもうひとつのメリット
孤食対策は、低栄養予防やコミュニケーションの活性化を図るだけではありません。共食の場に定期的に参加すると顔なじみの方が増えていくため、生活に張りがでるようになります。
しかし、体調が優れない、気乗りしないなどで共食の場へ行くことが難しい場合もあるでしょう。外出する気になれないときは、宅食サービスを活用するのもおすすめです。
場所によっては定期的に栄養バランスの良い食事を手渡しで届けてもらえるので、安否確認としての役割や気軽にコミュニケーションが図れるメリットがあります。
まとめ
近年、核家族の増加や働き方の変化などで一人暮らしの高齢者が増加傾向にあります。高齢者の孤食は、「栄養バランスが偏りやすくなる」「食事量が低下しやすい」「コミュニケーションの機会が減る」などの問題が考えられます。
孤食が続くと低栄養のリスクが高まるため、共食の機会をつくるのがおすすめです。料理教室やシニア食堂を活用したり、家族と定期的に共食の場を設けたりすると良いでしょう。遠方の家族と直接会えない場合は、オンラインでコミュニケーションを図る方法もあります。
また、共食の場を設けることは介護予防になるだけでなく、安否確認にもつながります。離れて暮らす家族にとってもメリットが大きいので、孤食対策に共食の機会を設けてみてはいかがでしょうか?
【参考文献】
[1]「食育に関する意識調査報告書(令和2年3月)」農林水産省 [2]「一人暮らしの高齢者に対する見守り活動に関する調査」総務省