介護食は食べる方の嚥下状態に合わせて、きざみ食やペースト食などさまざまな食形態に分類されます。一般的な食事であれば、魚や野菜の形が見た目でわかりますが、きざみ食やミキサー食などの段階になると、食材の形を把握することが難しくなってしまいます。
そのため、「介護食はまずそう…」「見た目が悪くて、食欲がわかない…」と感じてしまう方もいるのではないでしょうか?
そこで今回は、介護食をおいしく食べるための盛り付け方についてご紹介します。食事は目で見て楽しむといわれるように、おいしそうに見えるだけでも食事量はアップします。食事量の低下などにお困りの方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
介護食にはさまざまな食事形態がある!
介護食とは、噛む力や飲み込む力が低下した方を対象に、食べやすさと飲み込みやすさに配慮した食事のことです。できあがった食事を刻んだり、ミキサーにかけてペースト状にしたりするなど、食べやすくなるように工夫します。基本的には、以下のように分類されます。
軟菜食 食材をやわらかく調理した食事。味や見た目は常食とほぼ変わらない。固い食べ物が噛めない、胃腸が弱い、箸が上手く使えない方などに適している きざみ食 常食を細かく刻んで食べやすくした食事。入れ歯が合わないなど、噛む力が弱い方に適している。ただし、誤嚥につながるおそれがあるため注意が必要 ミキサー食 食材をミキサーにかけて食べやすくした食事。とろみ剤を使用して適度にとろみをつけることもある。噛む力と飲み込む力が弱い方に適している ソフト食 やわらかく煮込んだり、ミキサーにかけた食材をゼラチンやゲル化剤などで固めたりしたもの。食事形態の種類は、施設によって異なります。噛む力や飲み込む力の有無により、対象者に合った食事形態が決められています。以前私が勤めていた施設では、ソフト食に挑戦し、見た目から楽しんでもらえるよう工夫していました。
介護食の見た目を良くするメリット3つ
噛む力や飲み込む力によって食材を刻んだり、ミキサーにかけたりすると、見た目が悪くなる場合が多く、食欲低下が懸念されます。
しかし、介護食の見た目を良くすることで、さまざまなメリットがもたらされます。どのような良い影響があるのか、詳しく見ていきましょう。
食欲がわきやすくなる
視覚からの情報は、食欲にも影響を与えます。食材を刻むと見栄えが悪くなってしまい、食事量低下につながりかねません。
しかし、形を整えるなどして見た目を良くする工夫をすると、食欲を高められる可能性があります。見た目を整えることで、食事を残さず食べてもらいやすくなります。
低栄養が予防できる
介護食の見た目を良くすることで、栄養状態にも良い影響をおよぼします。高齢者にとって食事摂取量の低下は、低栄養につながる恐れがあるため注意が必要です。
私も実際に、きざみ食やミキサー食を試食してみたことがありますが、そのままでは全部食べきることが難しかった経験があります。
とはいえ、見栄えを良くしたり、ソフト食を取り入れたりするなどの取り組みにより、喫食率が上がったことで栄養状態の改善につながったケースもあります。見た目を良くすることで、必要な栄養をしっかりと摂れるようになれば栄養状態の改善が期待できるでしょう。
食事の満足度が高まる
精神的な満足度が高まるのも、介護食の見た目を良くするメリットといえます。施設に入居されている利用者は、食事が唯一の楽しみとおっしゃる方も少なくありません。
噛む力や飲み込む力が弱くなると、食べられるものも少なくなってしまいますが、盛り付けや調理法を工夫するとおいしく食べてもらうことができます。食事を目で見て楽しめるようになると、生活の質の向上も目指せます。
食事量アップが期待できる!介護食をおいしそうに盛り付けるヒント
おいしく食べてもらうためには、盛り付けを工夫することが大切です。きざみ食やミキサー食はまずそうというイメージがありますが、できることから始めてみてはいかがでしょうか?
食べてもらう機会が多くなると、栄養状態も改善しやすくなります。ここからは、介護食をおいしそうに盛り付けるヒントをご紹介します。
型抜きなどで見た目に変化をもたせる
きざみ食やミキサー食は、形状がほぼ同じようになってしまうため、ソフト食などを取り入れるのもおすすめです。ソフト食は調理した食べ物をミキサーにかけてから、型に入れてゼラチンやゲル化剤などで固めたものです。
例えば、煮魚をミキサーにかけてから、魚の形に成型すると見た目が良くなります。ミキサー食では形がなかったハンバーグも、ソフト食にすることでハンバーグの形が再現できます。
同じ料理でも見た目が変わると、食事摂取量の増加につながることもあるので、ぜひ試してみてくださいね。調理するのが難しい方は、市販品のソフト食を活用するのもひとつの手です。
ミキサーをかけるときは食材ごとがおすすめ
調理した食べ物をミキサーにかけるときは、色彩がキレイになるように工夫することをおすすめします。常食では色彩豊かなおかずでも、ミキサーにかけると色味が変わってしまうものもあるので注意しましょう。
例えば、筑前煮を一度にミキサーにかけると、絹さやや人参の色は消されてしまい茶色になってしまいます。バナナもミキサーにかけると、時間とともに酸化して茶色くなってしまいます。
このようにミキサーにかけた際、使用している食材の割合や酸化の影響などにより、どの色味が強調されるか決まるのです。
常食では色彩豊かだったとしても、ミキサーにかけるとおかずがほぼ茶色になってしまったという場合も考えられるため、可能であれば食材ごとにミキサーにかけると良いでしょう。
オムライスの献立であれば、チキンライスとスクランブルエッグを別々にミキサーにかけてから盛り付けると、オムライス風の見た目になります。筑前煮であれば、人参や絹さやだけそれぞれミキサーにかけることで、料理のアクセントになります。
季節感のある食事を提供する
お正月にはおせち料理、節分には恵方巻き、ひなまつりにはちらし寿司など、季節の行事を楽しめるような食事を提供するのもおすすめです。
盛り付けも華やかになり、おいしそうな見た目に仕上がります。四季を感じることもできるため、高齢者にも喜んでもらえます。盛り付けるときは、なるべく食材ごとにまとめたり、ミキサーにかけたりするなど工夫しましょう。
食器とのバランスを考える
おいしそうに見えるために、食器選びにもこだわってみましょう。お粥には黒い食器を使い、カラフルなおかずには白い食器を使うなど、料理と食器のバランスを考えるとおいしそうに見えます。
また、黄色は食欲を増進させる色ともいわれているため、小鉢用に揃えておくのもおすすめです。
ただし、ガラスなどの重い食器は、握力がないと持ちにくい場合があります。手で持って食べやすい重さの食器を選んだり、一口で食べられる量にしておいたりするなど、工夫しておきましょう。
テーブルコーディネイトを意識してみる
雰囲気を変えて食事を楽しんでもらいたいときは、テーブルクロスを敷いたり、お花を飾ってみたりするなど食空間を演出することも大切です。
以前勤めていた施設では、行事食のときはテーブルクロスを敷いて、いつもと違う食器を使うなど、非日常が味わえる工夫をしていたことがあります。
きざみ食やミキサー食の方でも器や雰囲気を変えることで、普段より食が進みやすくなります。準備するのが難しい場合は一輪の花を飾って、ランチョンマットを敷くなどでも問題ありません。少しの工夫でおいしそうに見えることもあるため、試してみてはいかがでしょうか?
盛り付け以外で食事を楽しむための工夫とは
盛り付けのほかにも、介護食をおいしく食べるための工夫があります。簡単にできるものと検討が必要なものをそれぞれご紹介します。
【今すぐできること】食べる前に説明する
きざみ食やミキサー食を目の前に提供されても、何の料理なのか想像するのは難しいものです。そのため、近くにいる方が料理の説明をしてあげることで、イメージしやすくなり食事の満足度アップにもつながります。
さらに、味のイメージができると安心感にもつながります。また、好きなメニューがあった場合、説明することで食欲を刺激することもできるでしょう。
【検討が必要なこと】選択食を取り入れる
選ぶ楽しみがあると、食事に対する満足度が高まります。福祉施設のなかには、選択食を取り入れているところもあります。
肉料理や魚料理など、気分に合わせて選ぶことができるため、楽しみにしている方も多いようです。選ぶ自由があると、食事摂取量にも良い影響を与えることがあります。
在宅介護においては、あらかじめ「何を食べたいのか」聞いておくなどの工夫をすると良いでしょう。
まとめ
介護食は見栄えが悪くおいしくなさそうなイメージがありますが、工夫次第で改善することができます。
例えば、色彩豊かに見えるように食材ごとにミキサーにかけたり、季節感のある食事を作ってみたり、食器とのバランスを考えてみるなど、少しの工夫でおいしそうに見せることが可能です。
きざみ食やミキサー食は元の料理がわかりにくいため、食べる前に説明してあげるとイメージしやすくなります。食べる意欲をもってもらえるように、ぜひ試してみてくださいね。