高齢者の口腔は、加齢による生理的変化や病気や薬、ライフスタイルなどの影響を受けて、問題が複雑化していくことがあります。今回は、特徴的な歯の問題を持つ方への、歯のケアを介護者が行ううえでのポイントなどをお伝えします。

高齢者の歯の特徴

加齢によって、歯の数は少なくなっていきますが、昔に比べると歯が残っていると言われています。

しかし、歯周病などの影響もあり、すべての歯が残っているということは少なく、歯科治療による被せ物や詰め物が多くみられるとともに、孤立歯や動揺歯、残根歯なども多くなります。

口腔ケアを介助する場合は、これらの孤立歯、動揺歯、残痕歯の特徴を知って、効果的に清掃を行うことが大切です。
 

孤立歯は“4面”を意識してケアしよう

歯列の中でその両隣に歯がない状態で、1本だけある歯を孤立歯と呼びます。

歯周病やむし歯などが原因となって周りの歯を喪失してしまったことにより、歯が1本孤立してしまっている状態です。

たとえ1本であっても、孤立歯は入れ歯を入れるときにバネを引っ掛ける歯になることもでき、大事な働きをする歯です。

一方で孤立歯は清掃がしにくく、汚れがたまりやすいという特徴があります。

歯列に歯がそろっている場合は、歯と歯の間に歯ブラシの毛先が入り込みやすいため、歯みがきでの清掃が容易です。

しかし、孤立歯では、歯に歯ブラシをあてた際に、歯ブラシの毛先が広がってしまうため、歯の根元に毛先が十分届かずに汚れの除去が難しくなります。

そこで、大切なのは歯の周囲を意識してブラッシングすることです。歯の唇側の表面、舌側の裏面、左右の4面のうちそれぞれ1面ずつ意識して行うと良いでしょう。

孤立歯、動揺歯、残根歯…高齢者の特徴的な歯をケアするときのポ...の画像はこちら >>

また、通常の歯ブラシでは効果的な清掃が難しい場合もあります。

そのようなときは、毛束が1つのヘッドの小さな歯ブラシ「ポイントブラシ(タフト型ブラシ)」を使用すると清掃しやすくなります。ポイントブラシは、先端が円錐状になっているもののほうが使用しやすくなります。

そのほか、歯間ブラシを使って清掃することも可能です。歯間ブラシは歯と歯の間を清掃するブラシですが、孤立歯の清掃に用いることもできます。

歯の4面を意識して、歯間ブラシを使用し、歯と歯肉の境目に毛先が入るようにブラシをあて、前後に動かして清掃ができます。また、毛先はゴムのタイプではなくナイロン毛のほうがおすすめです。
 

動揺歯は指で押さえて汚れを取り除く

孤立歯は隣り合う歯がないため、移動や傾斜がしやすくなっています。そのため、ぐらぐらと動揺している場合があります。

歯の動揺は、強い力がかかることで、歯槽骨が支えられなくなっていたり、歯槽骨から抜けかかっていたりすることなどさまざまなことが原因となって生じます。

歯に動揺があると、ブラシでの圧がかけにくく、十分に汚れを取ることが難しくなります。

しかし、汚れが残っていると、抜けかかっている歯の周囲の組織が感染しやすくなり、歯周病が進行したり、痛みが出てきたりして、さらに動揺しやすくなることもあります。

そのため、動揺している歯こそ、汚れを取り除くことが重要になります。

介助をする際は動揺している歯を指でしっかりと固定しながら清掃を行うと良いでしょう。

口を十分に開けられない場合などでは、歯の真横から力をかけてしまうと動揺している歯に力がかかりすぎてしまうので、縦軸に沿うようにやさしくブラッシングするようにしましょう。

しかし、動揺がある歯は、義歯を取り外す際や、食べている途中、または、ブラッシング時に抜け落ちてしまう危険性があります。

そのため、間違って飲み込んでしまったり、のどに引っかかったりすることもあります。

これらにより、動揺歯がある場合は、歯科医師の診察を受けることが大切になります。

動揺歯はすべて抜かないといけないということもありませんし、ほかの歯と一緒に固定するなどの対処方法もあります。動揺した歯がある場合には、早めに歯科に相談するようにしましょう。

また、もし動揺歯がなくなっていることに気づいたら、すぐにベッド周囲などを探しましょう。見つからない場合は、誤嚥(ごえん)や誤飲の可能性があるので、かかりつけ医などにすぐに相談することが大切です。

残根歯は周囲の歯肉を痛めないよう要注意

残根歯とは、歯として機能するための歯の頭部分が、むし歯などで溶けたりして、歯茎に歯の根だけ残っているような歯のことです。

残根歯は残っている歯がすくないため、汚れを見落しやすくなっています。特に、義歯の下に歯根だけ残っているような場合は、歯の形として見えていないので、汚れていても気づきにくくなります。そのため、義歯の下の歯の根元までしっかり観察することが大切です。

また、残根歯は歯が見えにくいため、普通の歯ブラシで磨いてしまうと、歯だけでなく周囲の歯肉を傷つけてしまい、炎症や痛みの原因となってしまうこともあります。

よりデリケートな歯であると意識して、露出している部分の清掃を行いましょう。

毛のやわらかいポイントブラシを使用したり、歯間ブラシの毛の部分を使用し、痛みに注意しながら、やさしいケアを心がけましょう。

このように高齢者の歯のケアを介助で行う場合には、孤立歯や残根歯の観察をしっかり行い、より愛護的に痛みのないケアを行うことが大切です。

孤立歯や動揺歯、残痕歯は、日常的なケアだけでは十分に清掃ができないことも多いため、定期的な歯科での専門的ケアを受けるようにしましょう。

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