栄養状態が改善された現代では、高齢者の肥満は増加傾向にあるとされています。
肥満を測る数値としてBMI(体格指数)が一般的ですが、高齢者の場合はむくみなどを生じている方が多いため、自身での判断が難しくなります。
今回は高齢者の肥満と肥満症について、治療薬も含めてご紹介いたします。
高齢者の肥満はBMIだけでは計測しづらい
肥満とは、脂肪が脂肪組織に過剰に蓄積した状態のことをいいます。
日本肥満学会では、体重(kg)÷身長(m)²で示されるBMIが25以上になると、肥満だとしています。
また、肥満にともない健康障がいを合併するか、合併症が予測されるため医学的に減量を必要とする病態が肥満症と呼ばれます。
2019年に厚生労働省が実施した国民健康・栄養調査によると、肥満者割合がもっとも大きい年齢階級は、男性では40歳代(39.7%)と50歳代(39.2%)、女性では60歳代(28.1%)です。特に40~50歳代男性の約4割はBMIが25以上であり、食生活と身体活動の改善が必要な方が多く存在します。
日本では高齢者においても肥満・肥満症の診断は成人と同様に行われています。しかし高齢者では低栄養、心不全、腎不全などにより、むくみ(浮腫)を合併するためにBMIが実際よりも高値となり体脂肪量を正確に反映しない場合があるため、肥満・肥満症の診断には注意が必要です。
1973年~2016年に実施された国民栄養調査の65歳以上を対象にした研究によると、高齢者の肥満の頻度は増加傾向です。
変形性膝関節症は加齢と肥満が関係しており、高齢者の肥満症の方は特に注意が必要です。
ほかにもフレイルや転倒とも関連すると言われており、60歳以上の肥満症の人は転倒しやすいことが報告されています。
肥満症治療に用いられる薬の特徴
肥満症治療の目的は、他の疾患の治療と同様で、寿命、健康寿命、生活の質(QOL)の維持・向上を目的としています。
治療は食事療法、運動療法、薬物療法、外科療法などが挙げられます。
2019年に欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)で発表された、高齢者における臨床栄養や水分補給に関するガイドラインによると、過体重の高齢者が減量のために食事療法をすることは、かえって骨格筋の減少に伴う身体機能の低下のおそれがあるため推奨されていません。
一方、健康障がいを有する肥満症高齢者は必要に応じて減量のための食事療法が推奨されています。
また、食事療法と運動療法を組み合わせて行うことで、身体機能とQOLの改善効果が大きいという報告もあります。
日本で肥満症に適応のある医療用医薬品には、以下のようなものがあります。
防己黄耆湯(ボウイオウギトウ) 水分代謝を活性化させるため、いわゆる水太りタイプに用いられる漢方薬です。 防風通聖散(ボウフウツウショウサン) 腹部に皮下脂肪の多い肥満症に用いられることの多い漢方薬です。脂肪燃焼を促進させることで体重が減少します。 大柴胡湯(ダイサイコトウ) 脂質代謝に働きかけることで肥満症を改善します。 セマグルチド2023年に承認された肥満症治療薬で、糖尿病治療薬として使用されてきた成分が配合されています。週1回皮下注射をします。セマグルチドを使用できる人は、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、BMI値にも使用条件があります。
食欲減退、満腹感亢進、胃内容物の排泄抑制による体重増加抑制作用が期待されています。
マジンドール 高度肥満症の人に用いる食欲抑制剤です。2022年11月28日、厚生労働省で承認された新しい肥満症治療薬で、今後発売される予定です。すでにアメリカをはじめ、欧州を中心に70ヵ国以上で承認されています。
こちらは市販薬として販売されるため処方箋は不要です。市販薬ですが、要指導医薬品に分類されるため、薬剤師の対面による情報提供と指導が必要となるので、ネット販売では購入することができません。
以前、同様の作用機序のセチリスタットという成分の薬が2013年に医療用医薬品として製造販売承認を取得しましたが、有効性や保険医療上の必要性が問われ発売が見送りになった経緯がありました。
食事から摂取した脂質は、消化管でリパーゼと呼ばれる酵素によって分解されて体内に吸収されます。
オルリスタットはリパーゼの働きを阻害することにより脂質の分解を防ぎ、吸収を抑制します。オルリスタットの服用とあわせて食事・運動の改善を行うことで、内臓脂肪が減少することが望まれます。
18歳以上の成人で、1日3回食事中または食後1時間以内に服用するカプセル剤です。 腹囲(へその高さ)が男性85cm以上、女性90cm以上の太めの方の内臓脂肪と腹囲の減少を目的とした薬です。
まとめ
今回は肥満に用いる薬を中心にご紹介しましたが、基本治療は運動と食事の改善から始めることです。
「やせ薬」という響きは夢の薬のように感じますが、いずれも副作用報告のある薬です。薬を服用する必要のない人が軽い気持ちで服用することは危険です。
また、既往症の有無や年齢によっても服用できる人とできない人がいるので、使用する前に必ず医師、薬剤師に相談しましょう。
【参考文献】
肥満症診療ガイドライン2022 日本肥満学会
厚生労働省 令和元年国民健康・栄養調査結果の概要