糖尿病の高齢者は増加しているとされています。令和元年版国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる者の割合(男性)は、60~69歳で25.3%、70歳以上では26.4%に上ります[1]。
今回は高齢者糖尿病の特徴と、治療薬の一つであるSGLT2阻害薬の特徴や注意点をご紹介いたします。
認知症リスクも高まる高齢者糖尿病の対策
高齢者糖尿病の人は、認知機能障害、うつ状態、ADL(日常生活動作)低下、サルコペニア(筋力低下)、フレイル(心身の衰え)、転倒・骨折、低栄養、排尿障害などの老年症候群などをきたしやすいという特徴があります。
なかでも、高齢者糖尿病の人は糖尿病でない人と比較して1.5倍認知症になりやすく、軽度認知障害(MCI)にもなりやすいとも報告されています[2]。
また、糖尿病は要介護認定のリスクが高い疾患の一つであり、高齢者糖尿病の人の総死亡率は糖尿病がない高齢者と比べて高いという報告もあります。
このような理由から、糖尿病の治療をしっかりと行い、血糖値をコントロールする必要があります。
SGLT2阻害薬使用のメリットとリスク
高齢者糖尿病の薬物療法では、認知機能やADLを維持する観点から、高血糖を穏やかに改善するように治療を行います。そして低血糖をできるだけ避けることが重要です。
糖尿病治療薬にはさまざまな種類があり、糖尿病のタイプにより医師が選択しています。単剤で治療することもあれば、複数の薬を組み合わせて治療することもあります。
今回は糖尿病治療薬の一つであるSGLT2※阻害薬と呼ばれる種類の薬を取り上げてみたいと思います。
※SGLT2:Sodium glucose cotransporter2(ナトリウムとグルコースを運ぶ蛋白)
SGLT2阻害薬は、2014年に発売された、糖尿病治療薬としては比較的新しい薬です。
SGLT2阻害薬は糖を尿中に排出することで血糖値を下げます。血糖値を下げるだけでなく、体重減少、膵臓機能や腎機能の改善、血圧の低下などの作用も併せ持つため、とくに肥満気味の糖尿病の人に効果的であるとされています。
一方で、以下のようなリスクにも留意する必要があります。
食事・運動療法も必要
治療の目標や治療方針には個人差がありますが、高齢者糖尿病の人の治療の目標は、糖尿病のない高齢者と変わらない生活の質と寿命を達成することです。
この目標を達成するためには、薬物療法だけでなく、食事・運動療法にも取り組むことになります。
まず食事ですが、高齢者糖尿病でも非高齢者と同じように、食事療法をすることが高血糖、脂質異常症、肥満の改善に有効であることがわかっています。
一般的な糖尿病の食事療法では医師より指示されたエネルギーのうち、50~60%を炭水化物から摂取し、たんぱく質は20%までとし、残りを脂質とします。バランスのとれた食事をするように心がけましょう。
次に運動療法ですが、歩行、ジョギング、サイクリング、水泳といった有酸素運動が有効です。激しすぎない運動を心掛け、規則的に継続して行うようにしましょう。
また、おもりや抵抗を使ったレジスタンス運動は、高齢者糖尿病の方の下肢筋力増強に有用です。体幹を鍛えるバランス運動は、生活機能の維持・向上、転倒予防に良いとされています。
ほかにも、筋や筋をのばすストレッチングは柔軟性を上げるので、運動時の事故予防に有用です。
今回は高齢者糖尿病に有効なSGLT2阻害薬の特徴をご紹介しました。糖尿病は治療薬の種類も豊富で、薬だけ飲んで安心してしまうような方もいらっしゃいますが、食事療法と運動療法も併せて血糖コントロールをしていくことが治療の基本であるということを忘れずに、健康的な血糖コントロールをしていきましょう。
【参考文献】
[1]厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」.(2023/7/18参照)
[2]UC SAN DIEGO TODAY More Steps, Moderate Physical Activity Cuts Dementia, Cognitive Impairment Risk.(2023/7/18参照)
[3]日本糖尿病学会「糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」(2023/7/20参照)