病院から処方された薬を保険薬局で受け取る際に、服用するタイミングごとに薬をまとめて包装し直すことができます。薬剤師が、錠剤やカプセルを包装シートから取り出し、処方内容に合わせて1回分ずつパックする調剤方法で、「一包化」と呼ばれます。
錠剤やカプセル剤などが数多く処方されている場合、どのタイミングでどの薬を服用すれば良いか、わからなくなってしまうことも多いでしょう。数多くの薬を飲まなければいけない場合、飲み忘れや飲み間違いが起こってしまうかもしれません。
服用するタイミングが異なる薬が多く処方されている場合でも、一包化をすることで、飲み忘れや飲み間違いを防ぐことができます。
この記事では、処方薬を一包化する場合のメリットとデメリットについて解説します。
服薬アドヒアランスと一包化のメリット
医師が処方した用法用量(薬の飲み方や1回分の服用量)の通りに、患者さんが積極的に薬を服用している度合いを「服薬アドヒアランス」と呼びます。当然ながら、処方されている薬の種類が多く、また用法用量が複雑になるほど、薬の飲み忘れや飲み間違いが発生しやすくなり、服薬アドヒアランスは低下します[1][2]。
服薬アドヒアランスの低下は、適切な用法や用量で薬が投与されなくなることを意味しており、場合によっては病状の悪化を招いてしまうことがあります。また、飲み忘れた薬(これを残薬と呼びます)が自宅にたまってしまい、最終的に捨てることになれば、医療費が無駄に使われてしまったことになります。
ですが、保険薬局で薬を調剤する際に、処方薬を一包化することで、服薬アドヒアランスの改善を期待することができます。長野県上田市の薬剤師会が協力した調査[3]によれば、調剤を担当する薬剤師が一包化を検討する理由として、「患者の要望」が最も多く、次いで「服用回数が多い」、「飲み間違いの防止」、「服薬アドヒアランスの向上」が続きました。
また、この調査では一包化をすることで患者の服薬アドヒアランスが改善し、不必要な薬の処方を減らすことができた、という薬剤師の意見も得られています。
高齢者の処方薬を調剤する際に、一包化を行うことは決して珍しくありません。北海道の病院で行った調査によれば、外来を受診した高齢者の約2割で、一包化による調剤が行われていたと報告されています[4]。
一包化を行うことのデメリット
服薬アドヒアランスの改善が期待できる一包化ですが、いくつかのデメリットもあります。特に次のような3点が挙げられます。
一包化ができない薬
一包化の包装には、セロハンポリエチレンラミネート紙(セロポリ)やグラシン紙と呼ばれる素材が使用されます。これらの素材は、医薬品の包装シート(製薬会社による包装)とは異なり、水分の透過性が高く、遮光処理が施されていません。
そのため、湿気や光に弱い薬では一包化によって品質が低下することもあります。特に、処方日数が長い場合は、湿気や光による影響を受けやすくなり、一包化ができないこともあります。
参考までに、一包化に適さないと考えられる薬を下表にまとめます。なお、実際に一包化が可能かどうかの判断は、調剤を担当する薬剤師によって異なる場合があります。また、一包化が可能と判断された場合でも、乾燥剤と一緒に保管することを指示される場合もあります[5]。
薬の名前 適用される病状 一包化が適さない理由 アスパラカリウム錠 低カリウム血症 湿気に弱い エビリファイOD錠 統合失調症 湿気に弱い キプレス錠 気管支喘息/アレルギー性鼻炎 湿気や光に弱い グルコバイ錠 糖尿病 湿気に弱い セレニカR錠 てんかん 湿気に弱い デパケン錠 てんかん 湿気に弱い バファリン配合錠A81 心臓病 湿気に弱い ベルソムラ錠 睡眠障害 湿気や光に弱い ラシックス錠 心不全、高血圧 光で着色一包化を行うための調剤時間
一包化を行うためには、錠剤やカプセルを包装シートから取り出し、分包機と呼ばれる特殊な機械にバラした薬を投入します。医師からの処方指示に合わせて分包機の設定を調整し、一包ずつ薬をパックしていくのです。処方された薬の種類や服用日数によって、調剤にかかる作業時間は大きく変化します。
処方日数が短く、薬の種類も少なければ10分前後の作業で一包化が完了します。しかし、処方日数が長く、薬の種類も多い場合は、一包化が完了するまでに30分~1時間かかることも少なくありません。

一包化を行うための費用
保険薬局で一包化を行うと、場合によっては調剤コストが発生し、患者さんの自己負担額が増えることもあります。処方医の了解を得たうえで、治療上の必要性が認められた場合等に一包化を行うと、処方薬の日数に応じて、340円~2,400円の費用が追加で発生し、保険の負担割合に応じた金額を支払うことになります。
例えば、1割負担で28日分(4週間分)の薬を調剤する場合、一包化調剤のコスト算定条件を満たすと140円の費用が薬代に上乗せされます。
このほか、一包化のデメリットとして、一包化のための包装紙がかさばり、薬の保管場所に一定のスペースが必要になることや、ゴミが増えるといった問題があるかもしれません。また、錠剤やカプセル剤は包装シートからばらして調剤するために、場合によっては医薬品の名前がわかりにくくなることもあります。
まとめ
一包化は患者さんのみならず、患者さんのご家族にとっても薬の管理がしやすくなるメリットがあります。手や目が不自由で、薬の扱いが難しい方でも、一包化をすることで薬が飲みやすくなるかもしれません。
一包化を希望される方は、医療機関から処方箋を受け取ったら、FAXなどを使って薬局に処方内容を知らせしておくと、待ち時間の短縮につながるように思います。
一包化を行うための費用や待ち時間は、処方内容によっても異なりますので、かかりつけの薬局に相談すると良いでしょう。
【参考文献】
[1] Medicine (Baltimore). 2019 Dec;98(49):e17825. PMID: 31804305
[2]Eur J Clin Pharmacol. 2017 Nov;73(11):1475-1489PMID: 28779460
[3]Pharm Pract (Granada). 2009 Jan;7(1):59-62. PMID: 25147594
[4]社会薬学2017 年 36 巻 1 号 p. 14-20 DOI; 10.14925/jjsp.36.1_14
[5]Yakugaku Zasshi. 2018;138(11):1435-1441.PMID: 30381651
[6]Biol Pharm Bull. 2018;41(3):409-418. PMID: 29491218