医療用語で、緩和ケアやターミナルケア(終末期ケア)という言葉があります。
これは、手術や抗がん剤治療で治すことが難しいと判断されたがん患者などを対象に、心身の負担を軽減するサポートのことを指します。
そのため、多くの場合、緩和ケアには痛みを和らげる薬が処方されます。
今回は緩和ケアにおけるオピオイド鎮痛薬についてご紹介いたします。
緩和ケアとターミナルケアの違い
かつてのがん医療における緩和ケアは、もうこれ以上の治療方法がないという患者が、苦痛を和らげるためのものでした。しかし現在は、がんと診断されたときから始まる緩和ケアが主流になっています。がんが進行してから始めるものではありません。
ターミナルケアは、余命宣告された方が最期まで平穏に過ごせるように、心と体の苦痛を取り除くケアのことです。
この2つは似ているようですが、緩和ケア=ターミナルケアではありません。
緩和ケアは、本人の痛みや不安を和らげるために行われます。ご家族や介護者、医療従事者の手助けによって苦痛を取り除く手段はさまざまあります。
死に対する恐怖や不安に対し、本人が安心できるように精神的に支えることや、医療費や介護費についての不安や精神的な重荷に対しサポートすること、身体的な痛みや不安に対して薬を使用することなど、すべての手段が緩和ケアの枠組みの中に含まれます。
オピオイド鎮痛薬は段階的に使用される
身体に強い痛みが生じている場合には、オピオイド鎮痛薬が用いられます。オピオイドはアヘン(オピウム)に関連する物質を指します。
ロキソプロフェンナトリウムやイブプロフェンが代表するような「NSAIDs」(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる種類の鎮痛薬は、痛みや熱を引き起こすプロスタグランジンという物質の生成を抑え、痛みや発熱を緩和します。
一方で、オピオイド鎮痛薬は脳や脊髄の神経系に作用するので、強力な鎮痛作用があり、麻酔、術後の痛み、がんの痛みなどによく使われています。
オピオイド鎮痛薬は強さの程度から、弱オピオイドと強オピオイドに分かれています。NSAIDsのような鎮痛薬では痛みが取れなくなってきたら、弱オピオイド鎮痛薬から服用を開始していきます。
オピオイド鎮痛薬の中で、習慣性や濫用の恐れがあるものは、法令により麻薬に指定されています。すべてのオピオイド鎮痛薬が麻薬ということではありません。
麻薬と聞くと、依存性や中毒を心配される方も多いですが、専門知識をもった医療従事者によって痛みの治療のために計算された量で投与されているため、麻薬中毒に陥った事例はほとんど報告されておりません。医師の指示通り正しく服用していれば、精神依存や中毒の心配は必要ありません。
オピオイド鎮痛薬の副作用を軽減する方法もある
オピオイド鎮痛薬は強い痛みに効果的ですが、副作用の発現もあるため、使用するには副作用対策をしながら痛みのコントロールを行う必要があります。
報告の多い副作用としては、便秘、悪心・嘔吐、眠気があります。便秘はほとんどの人が経験する副作用です。下剤を一緒に服用することで改善されますが、それでも難しいときには浣腸や摘便などが行われます。
悪心・嘔吐は、オピオイド鎮痛薬の服用開始初期に現れやすい副作用です。
眠気の副作用は、治療開始時や増量したタイミングで現れやすく、数日で消失することが多いです。しかし、長く続く眠気は、呼吸抑制という呼吸が浅くなってしまう副作用の可能性もあるので注意が必要です。もし眠気が強いときは、医師や薬剤師に相談しましょう。
オピオイド鎮痛薬による副作用を軽減し、鎮痛効果を効果的に得るためには、「オピオイドローテーション」と呼ばれるオピオイドの種類を変更する方法が用いられています。オピオイドローテーションは副作用の症状や痛みの程度によって調節されるため、ご自身に現れている副作用や痛みの症状について医療従事者に伝えることが大切です。
ベッドサイドにメモを置いておき、副作用の症状や痛みの程度、鎮痛薬を使用した日時を記録しておくと良いでしょう。

これらの情報を医療従事者に伝えることが、オピオイド鎮痛薬を効果的かつ副作用の少ないかたちで使用することにつながります。
オピオイド鎮痛薬は、医師の指示通り、適切に使用することが大事な薬です。わからないことや不安なことがあれば、医師や薬剤師に相談しましょう。また使用中は痛みの程度や副作用の症状について、医療従事者に報告することが大切です。
使用するにあたっていくつかの注意が必要ですが、辛い痛みや苦しさを緩和するには欠かせない治療薬ですので、上手に利用していきましょう。