2022年7月に開催された厚労省の「薬剤師の養成および資質向上等に関する検討会」では、病院薬剤師をめぐる話題に関心が集まったようです。
薬剤師が従事している医療機関は、病院と保険薬局に分けられます。
この記事では、薬局薬剤師と病院薬剤師の違いについて解説し、病院薬剤師をとりまく現状や、地域医療に対する影響について解説します。
薬局薬剤師と病院薬剤師は何が違う?
薬剤師の仕事は、医師の処方箋に基づいて薬をそろえ、患者さんに交付する調剤業務だけでなく、薬の有効性や安全性に関する情報提供(服薬説明)や、薬を処方した医師や他の医療専門職との連携など、多岐にわたります。
ただし、薬局薬剤師と病院薬剤師では、扱う薬の種類や業務内容などに違いがあります。
飲み薬や塗り薬などを調剤することが多い薬局薬剤師と比較して、病院薬剤師は注射剤を扱うことも少なくありません。特に点滴用の輸液や注射用の抗菌薬(抗生物質)などの調剤は、病院薬剤師が扱うことの多い薬の一つです。
また、病院薬剤師は看護師や医師など、複数の医療専門職と共同で患者さんの健康管理を行うこともあります。
そのため、薬の安全性や有効性に関する情報を、患者さんのケアにかかわる全ての医療専門職に提供することも病院薬剤師の仕事です(医薬品情報提供業務)。
一方、薬局に勤務する薬剤師は、病院から処方された薬の調剤のほか、処方箋なしで購入できる市販薬を多く扱います。
調剤薬局を併設したドラックストアに勤務している薬剤師は、市販薬の相談や販売に加え、健康食品、サプリメント、衛生用品と取り扱う品目は多様です。
また、薬局薬剤師は、患者さんのご自宅まで訪問し、薬の説明や健康管理などを行うこともあり、訪問看護師や訪問介護員と並ぶ、地域医療の担い手でもあります。
地域医療の担い手という意味では、主に入院している期間だけ患者さんのケアに関わる病院薬剤師に対して、薬局薬剤師は長い期間にわたって、薬局に来局する患者さんのケアにかかわることになります。
医療機関における薬剤師の勤務状況
「薬剤師の養成および資質向上等に関する検討会」の参考資料として公開されている「薬剤師確保のための調査・検討事業の報告書」には、薬剤師の勤務先に関する統計データがまとめられています。
この資料によれば、医療機関(薬局もしくは病院)に勤務している薬剤師のうち、病院に勤務する薬剤師は男女ともに25~29歳が最も多く、男性では34.4%、女性では39.8%でした。
ただし、年齢が高くなるに従い、男女ともに病院に勤務する薬剤師の割合が減少していました。薬学部を卒業後、まずは病院に就職し、ある程度の経験を積んだ後に薬局へ転職する薬剤師が多いのかもしれません。
さらに、新たに薬剤師となった人の勤務先を分析したところ、2013年から2018年にかけて、薬局に就職した薬剤師の割合は47.7%から55.2%に増加した一方で、病院に就職した薬剤師の割合は35.0%から29.0%に減少していました。
病院を就職先に選ぶ薬剤師、病院勤務を継続する薬剤師が減少している原因として、待遇面が挙げられます。
就労環境という観点でいえば、病院薬剤師は祝日や休日でも出勤しなければならないことが多く、加えて夜勤があるなど、勤務シフト中心の生活リズムになりがちといえるかもしれません。
また、収入面でも違いがあります。厚生労働省が2021年6月に公開した「薬剤師の需給動向把握事業における調査結果概要」によれば、平均年収は薬局薬剤師が488万円であるのに対し、病院薬剤師で512万円と、病院薬剤師の方が高いです。
しかし、薬局薬剤師では500~600万円未満の人が最も多い一方で、病院薬剤師では400~500万円未満の人が最も多いという結果でした。つまり、病院薬剤師では一部の上長クラスの年収が高い一方で、一般勤務薬剤師の年収は薬局薬剤師と比べると100万円ほど低い可能性が示されているのです。
病院薬剤師不足の認識
「薬剤師確保のための調査・検討事業の報告書」では、薬剤師不足に対する認識調査の結果も公開されています。
各都道府県(薬剤師を所管している薬務主管部もしくは医務主管部)を対象とした調査では、病院薬剤師の不足についての認識を尋ねています。その回答は以下の通りです。
- 「把握していない」38.3%
- 「都道府県内の一部の地域で生じている」25.5%
- 「都道府県内の多くの地域で生じている」23.4%
つまり、約半数の都道府県で病院薬剤師の不足が認識されていました。
また、日本病院薬剤師会(病院や診療所に勤務する薬剤師の職能団体)を対象とした調査では、病院薬剤師の不足について、「都道府県内の多くの地域で生じている」という回答が7割を占め、「都道府県の一部の地域で生じている」の23.3%を合わせると、約90%の都道府県で病院薬剤師の不足が認識されていました。
さらに、薬剤師不足の認識と人口密度の関係性を調査したところ、人口密度が低い都道府県ほど薬剤師が不足している地域が多く、地域間で薬剤師の充足に小さくない偏りが生じています。
病院薬剤師の役割と地域医療への影響
高齢化が進む状況を見据え、厚生労働省は2025年を目途に、高齢者の支援を目的とした総合的なサービスを、地域で提供する仕組みの構築に取り組んでいます。
このような仕組みを地域包括ケアシステムと呼びますが、同システムの実現には病院薬剤師と薬局薬剤師の連携が欠かせません。
入院や退院をする際に、患者さんが服用している薬の情報がない場合や情報が誤っている場合、あるいは最新の情報ではない場合、薬に関連した思わぬトラブルが発生することもあります。
薬局薬剤師と病院薬剤師で患者さんの薬の情報が共有されていないと、患者さんにとって大切な薬が入院中や退院後に継続して処方されないといった事態が起こりかねません。
また、患者さんが経験した副作用の情報が共有されないと、入院中や退院後に副作用を起こしたことのある薬が処方されてしまう危険性もあります。

しかし、病院薬剤師が不足している状況では、薬局薬剤師との連携業務まで手が回らず、情報の共有が不十分になってしまうこともあるでしょう。その中で期待されているのが、情報通信技術を用いた薬局薬剤師と病院薬剤師の効率的な連携です。
患者さんの病状や服用している薬、副作用の記録などの情報を、インターネットを介して共有するシステムの導入が少しずつ進められています。
今後、薬剤師には多様な役割が期待されています。皆さんが安心して薬を服用できる環境づくりのため、病院薬剤師の確保は重要な課題といえるでしょう。