高齢者が体調を崩したときや入院時には、せん妄と呼ばれる症状が現れることがあります。
せん妄は認知機能障がいを伴うため、認知症の方が発症すると症状が進行したと勘違いされてしまうこともありますが、通常は回復可能です。
今回は高齢者に多い、せん妄についてご紹介いたします。
せん妄とは
せん妄は、認知症で生じる注意障がいや見当識障がい※などに症状がよく似ています。
※見当識障がいとは、時間や季節がわからなくなったり、今いる場所や人がわからなくなる症状のこと。
また、認知症はせん妄のリスク因子の一つでもあり、せん妄と認知症は併存しやすいことも知られています。
米国精神医学会(APA)が発行している「精神障害の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」では、せん妄の診断基準を以下のように定めています。
- 注意の障がいがある
- 短時間(数時間~数日)のうちに出現し、1日のなかで重症度が変動する傾向がある
- 認知の障がいを伴う
- 他の既存の神経認知障がいによるものではなく、昏睡のように著しく意識レベルが低下した状況で起こるものではない
- 他の医学的疾患、物質中毒・離脱、または毒物への暴露※、または複数の病院による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある
※ここでいう暴露とは、毒物が体に入ってきたことを意味します。
せん妄と認知症の代表的な違い
せん妄と認知症の鑑別は簡単ではありませんが、せん妄による認知機能低下は原因の改善が生活の質の向上にもつながることが多く、早い段階で見分ける必要があります。
せん妄と認知症の違い せん妄 認知症 発症 時期が明確で急性 時期不明確で進行がゆるやか 経過 一過性が多い 慢性進行性が多い 持続時間 数時間~数日 年単位 症状の変化 日内変動あり 変動が少ないせん妄の発症には、さまざまな要因が関連しています。発症しやすい人の特徴は以下の通りです。
せん妄を引き越しやすい因子 発症しやすい人- 高齢者
- 認知症の方
- 脳疾患(脳出血や脳梗塞など)の既往がある方
- 身体的苦痛(身体拘束、便秘、疼痛、尿閉、脱水など)
- 精神的苦痛(不安、抑うつなど)
- 環境変化(入院、騒音など)
- 睡眠障がい
- 脳に作用する薬
- 物質の使用(薬、アルコール、依存物質など)
- 手術
- 身体疾患
せん妄を引き起こす薬
せん妄を引き起こす原因となりうる薬は、精神疾患の治療に使用する薬が多いですが、それだけではありません。
例えば、胃薬のシメチジンやファモチジンはせん妄を引き起こす可能性が高い薬として知られています。高齢者は腎機能や肝機能が低下しているため、薬の代謝が悪くなっていることも影響しています。
これらの胃薬を急に中止すると、胃の痛みが再発してしまうかもしれません。せん妄を引き起こす可能性の低い胃薬に変更するなどで対応することもできますので、医師と相談してみましょう。
また、イブプロフェン、インドメタシン、モルヒネ、オキシコドンなどの鎮痛薬もせん妄を引き起こす可能性が高い薬ですが、これらを中止して痛みが増すと、今度は痛みによってせん妄が引き起こされる可能性が出てくるため注意が必要です。
催眠、鎮静、抗不安などの目的で長期にわたりベンゾジアゼピン系の薬を使用している人は、急に服用を中止すると離脱症状が現れる可能性があるため、医師に症状を評価してもらいながら減量や薬の変更をしてもらう必要があります。
これらの薬は、自己判断での服薬中止は危険なのでしないように注意してください。
鎮痛薬、胃薬、血圧の薬のような身体疾患の治療に用いられている薬も含まれており、これらをすべて避けて治療を継続するのは現実的ではありません。
せん妄を引き起こしたとき、原因となる薬を一律に減量や中止することができれば良いのですが、薬によっては急な中止により離脱症状が現れる可能性もあるため、医師と相談しながら治療を考える必要があります。
せん妄を早期発見するポイント
介護者の方々に状態の変化を注意深く観察していただくことが、薬が原因のせん妄の早期発見につながります。
薬が原因のせん妄は、せん妄発生の直前に開始、増量した薬であることが多いです。
もし新たに薬の追加や増量をしたときにせん妄の症状が現れた場合には、その薬を疑う必要があります。

しかし、以前から使用していた薬でも、身体疾患の悪化や環境の変化によってもせん妄の症状を誘発することがあるため、薬と同時に体調や環境にも目を配るようにしましょう。
せん妄は症状を引き起こす原因は多様ですが、早期に原因を突き止めることで症状緩和も期待できます。
介護をしていて「いつもと違うな」と違和感を感じたら、かかりつけの医師や薬剤師に相談しましょう。