年齢を重ねると「足元が不安定になってきた」「歩いていて転びそうになる」などの悩みや不安を感じる方が増えてきます。もしかすると、その原因はサルコペニアかもしれません。
サルコペニアは、筋肉の量が減少していく状態のことで、65歳以上の高齢者の約15%がサルコペニアになっていると言われています。筋肉量が減少すると、筋力低下を引き起こし、立ち上がりがしづらくなったり、歩いているときの転倒リスクが高くなることも。
そのため、サルコペニアの予防は安全に生活を送るためにとても重要だとされています。
この記事では、転倒リスクを高めるサルコペニアについて、特徴や転倒との関係性、予防法などについて理学療法士の視点で解説します。
サルコペニアとは?
厚生労働省によると、サルコペニアは、筋肉の量が減少していく老化現象を指し、筋繊維数と筋横断面積の減少が同時に進んでいく現象と定義しています。その進行は25~30歳頃から始まり、生涯を通じて進行すると言われていますが、そのメカニズムは完全には判明してません。
サルコペニアと似たような言葉に、フレイル(虚弱)やロコモティブシンドロームがあります。フレイルは要介護状態と健康の間の状態とされており、筋力低下などの身体の虚弱だけではなく、精神・心理的な虚弱、社会とのつながりの希薄化による虚弱も要素として含まれています。
対してロコモティブシンドロームは、骨や関節の病気、筋力の低下、バランス能力の低下によって介護が必要となる可能性が高い状態を指しています。
イメージとしては、身体的なフレイル(虚弱)を引き起こす原因にロコモティブシンドロームがあり、サルコペニアが進行するとロコモティブシンドロームになる、といった相互関係にあります。
サルコペニアの基準
以下の項目などからサルコペニアを診断します。
下腿周囲長(ふくらはぎの最も太い部分)- 男性:34センチ以下
- 女性:33センチ以下
- 男性:28kg以下
- 女性:18kg以下
- 12秒以上かかる
- 1.0m/秒より遅い
そのほかにも、両手の親指と人差し指で輪っかをつくり、ふくらはぎの太さを計る指輪っかテスト、片足立ちの保持時間を計る片足立ちテストでサルコペニアのリスクを確認できます。
サルコペニアと転倒の関係性
2019年国民生活基礎調査によると、次の原因で介護が必要になったという結果が出ており、高齢者は転倒をすると要介護状態になる可能性が高いことを示唆しています。
1位:認知症(24.3%)
2位:脳血管疾患(19.2%)
3位:骨折・転倒(12.0%)
サルコペニアは、背筋・腹筋・膝を伸ばす筋肉・お尻の筋肉群など、立つ姿勢に必要な筋肉に多くみられると言われており、サルコペニアが進行することで転倒の危険性が高まります。
特に、膝を伸ばす筋肉である「大腿四頭筋」は高齢者の転倒発生や歩行能力の低下と高い関連があることが知られています。
サルコペニアを予防する
サルコペニアを予防するには、運動と栄養摂取が非常に重要です。サルコペニアは筋肉量が減少している状態ですが、筋肉量はタンパク質の代謝によって決まります。
筋肉は日々、合成と分解を繰り返しており、合成が分解を上回ると筋肉量は増えていきますが、逆に分解が合成を上回ると筋肉量は減っていきます。
分解が合成を上回る状態が続くとサルコペニアになるため、その悪循環を断ち切る必要があります。そこで必要になるのが運動と栄養摂取です。
サルコペニアを予防する運動
サルコペニアの予防にはレジスタンス運動が有効だと言われています。レジスタンス運動とは抵抗運動のことで、体重を利用したり、ダンベルなどの重りを使ったりして、筋肉に抵抗を加える運動を指します。
運動は、週に2~3回程度の頻度で、10回程度を目安に行える運動負荷を2~3セット行うことが良いとされています。また、運動する部位としてはサルコペニアで筋肉量が低下しやすい、立つ姿勢に必要な筋肉を強化することが重要です。
ここでは、簡易的に行える体重を利用した運動方法をお伝えします。
①スクワット 立った姿勢で肩幅程度に足を広げ、つま先はやや外側を向けます。そこからお尻を後ろに引くように意識しながら膝をゆっくり曲げ、膝がつま先より前に出ないくらいまで腰を落とします。腰を落としたらゆっくり体を起こし、この動作を繰り返します。立つ姿勢が不安定な場合は、テーブルに手をついた状態で行いましょう。上記の運動に加え、片足立ちや座った状態で膝を伸ばす運動なども有効です。これまで運動習慣がない方は、まずは運動を継続できるように少ない回数でスタートしてみましょう。
また、レジスタンス運動ほど予防効果はありませんが、低い負荷で行う有酸素運動も推奨されています。ウォーキングやラジオ体操など、全身を動かす運動はおすすめです。
サルコペニアを予防する栄養
筋肉量を増加させ、サルコペニアを予防するにはタンパク質の摂取が必要です。タンパク質の摂取が少なくなると筋肉の分解が進むため、積極的にタンパク質を取ることが推奨されています。
特に高齢者は、タンパク質を摂取しても筋肉を合成する作用が弱い可能性があると言われており、適切な身体機能を維持するためには、1.2~1.5g(kg/日)の摂取が必要と言われています。

例えば、体重50kgの方だと1日60~75gのタンパク質を摂取することになります。ただし、腎機能障がいがある場合は、過剰なタンパク質の摂取により腎機能が悪化する危険性があるため注意が必要です。
サルコペニアを予防するその他の栄養素として、ロイシン、クレアチン、ビタミンDの摂取が推奨されています。
まとめ
サルコペニアになると筋肉量の減少から転倒リスクが増えます。継続的に適切な運動と栄養摂取を行いながら、サルコペニアを予防し、健康的な毎日を過ごせるようにしましょう。
そして、転倒リスクは体の状態だけではなく、環境面が影響することもあります。例えば、家の中でじゅうたんにつまずく、電源コードに引っかかるなど、転倒のリスクは至るところに潜んでいます。