皆さんは旅行や外出は好きですか?
「世代別比較くらしとお金に関する調査2018(日本FP協会)」によると、老後の生きがいとして楽しみにしていることの1位に旅行・レジャーが挙げられており、いくつになっても旅行や外出を楽しみたいという希望があることが考えられます。
しかし、一方で介護が必要になると旅行をあきらめてしまう現状があります。
旅行頻度が減少した理由は明記されていませんが、金銭的な面や介護負担、旅行に関する情報の不足などが要因として考えられます。
そこで本記事では、介護付き旅行会社で働いていた理学療法士の立場から、家族だけで要介護者と旅行や外出をするときのポイントや注意点をお伝えします。
要介護者と旅行や外出をする時のポイント
要介護者と旅行や外出を行うには、大きく3つのポイントをおさえておくと良いでしょう。
①時間にゆとりを持った旅行プラン
疲労感や移動に時間がかかることを考え、あまり予定を詰め込み過ぎず、ゆとりを持って旅行を楽しみましょう。
②目的地のバリアフリー情報を収集する
快適に旅行や外出を行うには、事前の情報収集が大切です。特に車椅子を使われている方は、バリアフリーについての情報を集めることを意識しましょう。
③人手があるとできることが増える
例えば、車椅子を使っている状態で段差や階段がある場所に行っても、人手があると乗り越えられることが多々あります。レストランなどで入り口に段差があっても、店員さんが手伝ってくれることがあります。
旅行や外出の流れ
実際に旅行や外出に行こうと思っても、どこから手をつけて良いかわからないと思います。そこで旅行や外出をする際の大まかな流れを説明します。
①旅行や外出ができる状態か専門職に確認する
吸引や点滴、褥瘡の管理などが必要だったり、体力が著しく低下していたりと、その方によって体の状態はさまざまです。まずは、医師やケアマネージャーなどに旅行や外出に行ける状態か確認をとりましょう。専門職からの回答を聞き、行くことをあきらめそうになってしまうかもしれませんが、逆にどのような対策を取れば旅行や外出に行けるか、前向きに話を聞く姿勢が大切です。
②行く場所を決める
行きたい場所を目的地に設定することが一番ですが、本人の体の状態や介護者の介護力によっては目的地を変更することも重要です。
特に久しぶりの旅行では出かけることへのハードルを高く感じてしまうケースが多いため、まずは近場に外出することから始めても良いと思います。外出に慣れてきたら宿泊旅行に行くなど、ステップアップする意識も大切です。高齢の方は、観光地だけではなく生まれ故郷に行く旅行もおすすめです。
③旅行プランを立てる
ゆったりとした旅行プランを立てることをおすすめします。車椅子を利用している場合、エレベーターや多目的トイレの場所を見つけるのに時間がかかったり、人混みの中の移動に時間がかかったりします。また忙しいタイムスケジュールは疲労感や気持ちが焦りを生み、事故につながる可能性もあります。
④目的地の情報を調べる
車椅子を使う方、トイレに介助が必要な方、食形態に配慮が必要な方などは目的地の情報を事前に調べておくと安心です。例えば、階段の有無、多目的トイレの有無、レストランの食形態の対応の有無などがあります。ただ、これらの情報は調べ方が難しかったり、時間がかかったりします。どうしても不安が強い場合は、バリアフリー情報の収集だけでも専門の業者に依頼しましょう。
⑤目的までの移動手段を考える
移動手段には自家用車、介護タクシー、新幹線、飛行機などがあります。費用、目的地までの距離、車椅子使用の有無などから移動手段を考えましょう。
新幹線には、車椅子の停車スペースが設けられている車いす対応座席やベッド・コンセントが備え付けられている多目的室と呼ばれる個室があり、みどりの窓口などで予約が可能です。
また、飛行機も車椅子のまま搭乗が可能です。各航空会社の専用ダイヤルで問い合わせることもできますし、当日窓口でサポートも受けられます。
⑥宿泊先の情報を調べる
宿泊を伴う旅行の場合、宿泊先のバリアフリー情報を調べるとより安心です。特に車椅子を利用している場合、車椅子で入れる廊下幅であること、広くて手すりのあるトイレがあること、部屋の中に段差がないことを確認できると良いです。宿泊先のホームページや電話で確認ができます。バリアフリールーム、アクセシブルルームなどと記載があります。
⑦準備をする
リハビリパンツや普段使っている自助具の食器など、旅先で必要なものを準備しましょう。準備が整えばいざ出発です。
知っておくと旅行や外出がしやすくなる情報
完全とは言えませんが、要介護者が旅行や外出を楽しめる環境が少しずつ整ってきています。しかし、情報を知らなければ活かすことはできません。ここでは、知っておくと良い情報を簡単にまとめます。
①飛行機
ANA・JALをはじめとして、何かしらのサポートが必要な方に対応する専用窓口が各航空会社にはあります。例えば、以下のようにそのまま飛行機に乗ることが難しい場合。
- 在宅酸素を使っている
- 車椅子を使っている
- インシュリンを打っている
こんなときは、まず専用窓口に連絡をしてみましょう。LCCと呼ばれる格安航空会社でも対応してくれることがあります。

②電車・新幹線
電車とホームの間に段差やすきまがある場合、駅員に声をかければスロープを用意してくれます。その際、降車駅を伝えておくことで降りる際にもサポートを受けられます。
一部の列車と新幹線には、ベッドで横になることができる多目的室、座席が一席空いていたり車椅子のまま乗車できる車椅子対応座席、車いすスペースなどがあります。加えて、手すり付きの広いトイレも備え付けられていることがあります。詳しくは、各JRや私鉄のホームページなどでご確認ください。
③バリアフリーツアーセンター
現地のバリアフリー情報や旅を快適にする情報を発信しているバリアフリーツアーセンターが全国各地にあります。センターによっては、入浴介助サービスや車椅子の貸出しサービスを提供しているところもあります。
認知症の方との旅行や外出時のポイント
認知症のある方とは思い出の場所を巡る旅行や外出がおすすめです。私の経験上ではありますが、思い出の場所に行くことで、その方の過去の記憶が鮮明に蘇ることがありました。
もちろん、新しい場所も楽しみがあって良いですが、その人らしさが感じられる旅行や外出はご家族にとっても素敵な思い出になると思います。普段は食が細い方でも、旅先ではたくさん食事を召し上がれることもあり、旅行や外出の力を感じる瞬間も多々ありました。
一方で、刺激が多すぎることによる疲労感には注意が必要です。適度に休憩をはさみながら旅行や外出を楽しみましょう。
私が介護付き旅行会社で働いているとき、旅行や外出ができないと思い込んでいる高齢者やそのご家族にたくさん出会いました。
そして、旅行や外出はQOLを高めるだけでなくリハビリにもつながります。例えば、旅行に行くために体力をつけよう、温泉に入るために浴槽の出入りを練習しよう、など目的を持ったリハビリは本人のモチベーションにもつながります。今回の記事が皆さんの外出のきっかけになってくれたら幸いです。