賃貸住宅入居を希望する高齢者の増加
単身高齢者、高齢夫婦世帯が増えている
2019年現在、内閣府が公表する65歳以上の高齢者のいる世帯についてみると、その数は2,558万4千世帯となっています。これは、全世帯5,178万5千世帯の49.4%を占めており、約半数の家庭に高齢者がいることになります。
また、ひとり暮らしの高齢者は男女ともに増加傾向にあり、65歳以上の人口に占める割合でみると、1980年は男性が4.3%、女性が11.2%だったのに対し、2015年には男性が13.3%、女性が21.1%となっています。
「配偶者と死別した」「子どもが離れて暮らしているため頼る人が近くにいない」などがひとり暮らしの高齢者が増えている理由として挙げられます。
超高齢社会が進む日本において、単身高齢者は、今後ますます増加するであろうと推測されています。
出典:内閣府『令和3年度高齢社会白書』を基に作成 2022年03月09日更新持ち家か賃貸か?高齢者の住居事情
高齢者の住宅の状況について、総務省が公表する「平成30年住宅・土地統計調査」によると、高齢者世帯では、持ち家が82.1%、借家が17.8%で、高齢単身世帯では、持ち家が66.2%、借家が33.5%となっています。
現段階では高齢者世帯、高齢単身世帯のどちらとも持ち家率が高い結果となっていますが、持ち家は庭の手入れや掃除など管理が大変だったり、階段や段差などがあって危険という理由で、老後持ち家を売却し、賃貸住宅などへ住み替えを検討する高齢者も増えてきているようです。
しかし、高齢者が民間賃貸住宅へ入居することは、ハードルが高い場合があるのも事実です。
内閣府の「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」によると、「住まいに関して不安と感じていることがあるか」という問いについて、36.5%の賃貸住宅層が不安が「ある」と回答しています。
具体的にどのような不安があるかというと、「高齢期の賃貸を断られる」が19.5%となっており、実際に、高齢者の4人に1人が賃貸の入居拒否をされた経験があるという調査結果もあるほどなのです。

賃貸住宅への入居が難しい高齢者
半数以上の賃貸者が高齢者に部屋を貸すのは難しいと考えている
日本賃貸住宅管理協会が公表する「家賃債務保証会社の実態調査」のアンケートによると、賃貸人の約6割が高齢者の入居に対して拒否感を抱いていることがわかります。
さらにその中でも、単身の高齢者(60歳以上)に対して11.9%、高齢者のみの世帯に対しては8.9%の割合で、入居拒否という制限をかけている賃貸人がいることがわかりました。
入居制限をする理由には、「賃貸の支払いに対する不安」や「居室内での死亡事故等に対する不安」が挙げられます。
年代別の審査状況をみても、20代未満の未成年を除くと、60歳を境に審査が通りにくくなっていることがわかります。
これは、定年退職を迎え、収入が不安定になることと、高齢による健康面での不安が審査を通りにくくすることが要因だと考えられます。

深刻な問題は単身高齢者の孤独死
前段で述べた通り、ひとり暮らしの高齢者は増加傾向にあり、今後も増え続けることが推測されています。
また内閣府が行った「ひとり暮らし高齢者に関する意識調査」では、「このままひとり暮らしでよい」と回答した人が2014年では76.3%もいました。2002年にも同様の調査が行われていましたが、この当時「このままひとり暮らしでよい」と答えた人は、71%。
この調査結果からも、ひとり暮らしをする高齢者は今後も増えていくことが読み取れます。
高齢期のひとり暮らしは不便なことはあるものの、人間関係や他者とのコミュニケーションに悩む必要がないため、気が楽と考える人が多いのかもしれません。
その一方で、賃貸主が入居制限をする理由に「居室内での死亡事故等に対する不安」が挙げられているように、高齢者、特にひとり暮らしの高齢者の「孤独死」が深刻な社会問題となっています。
賃貸住宅で暮らすひとり暮らしの高齢者が「孤独死」をしてしまうと、その部屋は事故物件扱いとなってしまうだけでなく、死亡後発見が遅れてしまった場合は、修繕に通常以上の時間と費用が必要になったり、その後賃料を下げなければ借り手が見つからないなど、賃貸主としては経営上の問題も生じてしまうのです。
賃貸人の不安を軽減するための取り組み
国交相ガイドラインを公表
宅地建物取引業法では、「宅地建物業者は契約の判断に影響を及ぼすような重要な事実を報告する義務がある」と定められています。
「契約の判断に影響を及ぼすような重要な事実」とは、その出来事に部屋を借りようとしている人が嫌悪感を抱くかということが焦点となっており、そこに「孤独死」が該当するのかどうか、不動産業界では長い間議論されてきました。
こうした経緯から、国土交通省は2021年10月「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定し、公表しました。
ガイドラインでは、以下が原則として提示されています。
売買・賃貸ともに、孤独死を含む自然死や日常生活の中での不慮の死などの場合は告知不要。 賃貸の契約において、人が死亡し長期に渡って放置され、特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は、発生から3年程度経過したら告知不要。 売買・賃貸ともに、隣接する住居や通常使用しない集合住宅の共用部分は告知の対象外。ただし、事件性、周知性、社会に与えた影響などが高い場合は例外とされ、告知すべきとしています。
このようにガイドラインを設け、国が一定の基準を示すことで、賃貸人の不安を軽減し、高齢者の受け入れに前向きになることが期待されます。
自治体による住居支援制度
政府の取り組み以外にも、最近では高齢者に向けた住居支援制度を行う自治体が増えています。
東京都中野区「あんしんすまいパック」 すでに区内の民間賃貸住宅に居住している単身者、又は区内の民間賃貸住宅に居住する予定の単身者で、固定電話か携帯電話、スマートフォンを持っていて、指定連絡先が確保できる人が対象です。 初回登録料11,000円~、月額1,650円~で週2回の継続的な安否確認と、死亡後の葬儀費用や部屋の現状回復費用など100万円までを補償します。希望者は区に申請し、区から物件を紹介してもらえます。 京都府京都市「京都市すこやか住宅ネット」 国が定める「住宅セーフティネット法」に基づき、官民協働で住宅と福祉の両方の観点から高齢者が民間の賃貸住宅にスムーズに入居できる環境整備を進めています。 高齢であることを理由に入居を拒まない賃貸住宅の登録を確保したり、社会福祉法人のスタッフが週に一度程度、高齢者の見守りを実施しています。 福岡県福岡市「住まいサポートふくおか」 不動産業者と民間企業やNPOなどの支援団体と連携して、65歳以上の住居の住み替えで困っている人を対象に、住まい探しだけでなく、入居後の見守りや緊急事態時の対応など、生活支援サービスをトータルサポートしています。他にも、自治体が独自に行っている高齢者向けの住居支援制度の取り組みが広がっています。
超高齢化社会の中で、ひとり暮らしの高齢者はさらに増えていくと予想されています。その中で高齢者が賃貸への入居を拒否されるということは大きな問題です。
この問題の解決には、地域の高齢者を見守る仕組みが不可欠です。
高齢者が希望の家で暮らすために、さらに政府や自治体が協力し、高齢者を孤独にさせないための取り組みを強化することが重要です。