認知症サポート医制度が抱える課題
認知症サポート医の定義と現状
東京都は、2022年度の認知症施策の見直しを行いました。その中で、認知症サポート医へのフォローアップ研修は大きな柱として取り組まれる予定です。
認知症サポート医とは、認知症の人への対応や症状に精通し、患者のかかりつけ医への助言や支援、さらに専門機関や地域包括支援センターとの連携などの役割を担う医師のことです。
2005年から制度が開始され、特定の研修などを修了した医師が認知症サポート医として各都道府県にて登録されます。
国立長寿医療センターの調査によれば、2018年度末時点での研修修了者数は9,950人。政府は2025年までに1万6,000人まで増やすことを目標にしています。
出典:『認知症サポート医養成研修』(国立長寿医療センター)を基に作成 2022年04月1日更新東京都が認知症サポート医の役割を明確化
今回、東京都で認知症サポート医について見直しが行われた背景には、「位置付けや役割が明確でないため活用されていない」「具体的な活動につながるよう研修内容の見直しが必要」といった専門家の指摘がありました。
これまで国では認知症サポート医の役割として、次の3つを挙げていました。
- かかりつけ医を対象とした認知症対応力の向上を図るための研修の企画立案
- かかりつけ医の認知症診断等に関する相談役・アドバイザー
- 各地域医師会と地域包括支援センターとの連携づくりへの協力
しかし、これだけでは具体的にどのような行動をすべきかが読み取れません。
東京都が実施したアンケートでは、認知症サポート医に対して「継続して相談に応じてほしい」「受診困難な場合に同行訪問してほしい」「医師の視点からのアセスメントや今後の対応方法などの助言」「必要に応じて専門医療機関につないでほしい」などの意見が挙がっていました。
それに対して、東京都では、その役割や位置付けを明確化しました。東京都の「地域医療の中で行う支援と認知症サポート医の役割」によると、その項目として挙げられているのは次の通りです。
すべての認知症サポート医に共通する役割- 主治医として関わる患者について、本人や家族などを支えるチームの一員として継続して関わり、適時相談に応じて適切な助言と支援を行う
- 対応が難しい場合には適切な医療機関や専門医、必要な連携先を紹介してつなげる
- 認知症サポート医フォローアップ研修の受講などを通じて、認知症医療に関する自身のスキルアップを図る
- 主治医として関わる患者以外の方についても、本人や家族・介護者を支えるチームの一員として、ともに継続して関わり、適切な助言と支援を行う
- 区市町村が行う兼新事業や地域で行われる認知症カフェなどの地域活動への協力、住民向け講習会や専門職向け研修等の企画立案や講師として協力
さらに、東京都では「とうきょう認知症ナビ」で登録されている認知症サポート医の名簿を公開。区市町村などが相談や施策について協力の要請などを円滑に行えるように工夫しています。
構築が急がれる認知症地域医療体制
認知症サポート医の活躍が求められる認知症初期集中支援チーム
認知症サポート医の積極的な関わりが求められているのが、認知症初期集中支援チームです。
認知症初期集中支援チームとは、認知症が疑われる人や、すでに発症している人、その家族などを訪問してアセスメントを行い、家族支援などのサポートを行うチームを指します。
チームメンバーは、認知症の専門医や看護師、作業療法士、介護福祉士など多職種から構成されています。
地域包括支援センターなどに設置されており、まだ医療・介護サービスにかかっていなかったり、かかっていても対応に苦慮しているケースなどで介入します。
2013年に導入され、同年には全国14ヵ所でモデル事業が行われました。その結果、介護サービスを受けていなかったケースで、介入後のそのうちの65%が何らかの介護サービスを受けられるようになっています。
さらに、91%が介入後も在宅での生活を継続できていると報告されており、高い効果を発揮しています。
この認知症初期集中支援チームにおいて、専門的な知識を持ち、専門機関とのつながりを持つ認知症サポート医は中心的な役割を担うことが期待されています。
認知症サポート医の認知度はまだ低い
認知症支援において、認知症サポート医は重要視されるべき存在として位置づけられていますが、実際にはあまり活用につながっていないことがわかっています。
みずほリサーチ&テクノロジーズが医療機関を対象に、認知症が疑われる人や、その家族への対応状況を尋ねたところ、「診察時間中に医師が相談に応じている」が91.9%と最多となっており、「地域の認知症サポート医が所属する医療機関を紹介している」は10.1%にとどまりました。

かかりつけ医は地域の診療所やクリニックの医師が多く、認知症の確定診断をするのは難しく、専門医療機関を紹介することがほとんどです。
しかし、代表的な専門医療機関である認知症疾患医療センターは地域に1ヵ所しかない場合が多く、予約日が先になってしまい、早期治療につながりにくいなどの問題があります。
また、かかりつけ医が入院治療希望の紹介状を書いても、結局入院につながらないこともあり、専門医ではないかかりつけ医が対応に苦慮するケースもあります。
認知症サポート医は、こうした困難が起きやすいケースに初期段階から介入して早期治療に結びつけることが期待されていますが、まだ地域のクリニックなどでは知られていないことも多く、現状では活躍の場が限られています。
活動の幅を広げることが大切
認知症カフェや講演会などへの参加も求められる
認知症サポート医を広く普及するためには、まず認知度を高める必要があります。
そのために重要なのは地域活動への積極的な参加です。東京都の見直しでも挙げられているように、認知症カフェなどに参加したり、地域の講演会などで、その役割を改めて知ってもらうことが大切です。
認知症カフェは、認知症の人やその家族が、地域の人や専門家と相互に情報を共有し、お互いを理解し合う場として全国の市町村に設置されています。
現在ではその利用が進んでおり、地域独自の取り組みが行われています。こうした場で存在を知ってもらい、他の職種との連携を深める場として活用することが大切です。
医療・介護の連携を強化する役割を担う
また、医療と介護の連携における橋渡し役としての機能を強化していく必要があります。
特に、効果が高いとされる認知症初期集中支援チームを広く普及させることが大切です。
前述のみずほリサーチ&テクノロジーズの調査によると、「認知症初期集中支援チームに参加している」は19%、「認知症初期集中支援チームの発動を要請したことがある」は13.7%でした。一方で、「認知症初期集中支援チームを知らない」が48.3%に上っています。

このように、認知症の対応は、いまだかかりつけ医などの個々の判断に委ねられているケースが多く、認知症サポート医を中心とした支援体制づくりには課題を残しています。
東京都では認知症サポート医の利用を広めるための専用サイトが設けられていますが、このような取り組みはまだ全国的に広まっていません。
認知症サポート医は、超高齢社会の現代において重要な役割を担うことが期待されています。さらに利用を増やすためには、その効果や利用方法を広めていくことが大切です。