デイサービスでのオンライン診療が可能になる?

規制改革推進会議で通所介護事業所のオンライン診療が議題に

2022年5月27日、政府の規制改革推進会議は、オンライン診療の受診対象を広げるべく、ルールの見直しを含む答申をまとめました。

この中ではデイサービスでもオンライン診療を可能とすべき旨が盛り込まれており、政府はこの内容を受け、新たな仕組みづくりに向けた結論を2022年度内に出す見込みです。

オンライン診療とは、スマホやパソコン、タブレット型端末などを使って、医師の診察や薬の処方箋を受けることができる診療形式のこと。

外来での通院が難しい患者が自宅に居ながら医師の診療を受けることができ、外出手段の少ない高齢者にとっては便利なシステムと言えます。

しかし、保険適用となる疾患、受診条件には制限があり、現行制度ではデイサービスでの診療は認められていません。

要介護状態の方のみならず、介護予防の取り組みの場としても活用されているデイサービスは、多くの高齢者が集う場です。

「デイサービスでも診療できるようにすべき」との声は、以前から介護業界において高まっていました。今回あらためてそのことが規制改革推進会議の答申に盛り込まれた形です。

在宅介護の現場で重要な役割を果たすデイサービス

デイサービスとは、介護保険制度では「通所介護」と呼ばれるサービスで、自治体の総合事業において介護予防に取り組む場となっていることに加え、要介護1以上の認定を受けている方には食事・入浴・排せつの介助サービスを提供。

終日型だと、利用者は朝から夕方までデイサービスセンターにいるので、自宅で介護をしている家族はその間に休息を得ることもできます。

在宅介護の現場では、デイサービスを利用する人は多いです。

厚生労働省の「介護給付費等実態調査」によれば、令和2年度(2020年度)の在宅介護向けの「居宅サービス」(要介護1以上対象)の総受給者数は約406万人でしたが、そのうち通所介護の受給者数は約157万人にも上っています。

これは、ホームヘルパーからサービスを受ける訪問介護の受給者数よりも多いです。

オンライン診療の受診対象は広げられるのか。年内に結論が出る見...の画像はこちら >>
出典:『令和2年度介護給付費等実態統計』(厚生労働省)を基に作成 2022年07月05日更新

「地域密着型サービス」の年間受給者数においても、地域密着通所介護の利用者はそのうちの約5割に上っています。

介護サービスの中でもデイサービスは特に利用者が多く、医療依存度の高い要介護状態の高齢者にとって、それだけ身近な存在であるとも言えるわけです。

オンライン診療の内容と重要性が増した背景

オンライン診療のメリット

オンライン診療の場合、対面診療だと起こりやすい院内感染や二次感染の危険性がありません。また、病院に行くと受付や会計で長時間待たされることも多いですが、オンライン診療であればその時間を大幅に短縮できます。

さらに、院内処方の場合であれば、薬が自宅に届けられるので、薬局まで薬を取りに行く負担をなくすことも可能です。

オンライン診療を利用するには、スマートフォンやタブレットなどの通信機器、インターネット環境、さらに保有する通信機器に専用のオンライン診療アプリケーションをダウンロードする必要があります。

診療のプロセスは、「アプリの設定」→「初診(制度改定により、初診からのオンライン診療も認められています)」→「診察」→「会計」→「薬の受け取り(院内処方なら郵送も可)」となるのが一般的です。

アプリの設定は高齢者の方には難しい場合もあるため、必要に応じて家族や支援者などがサポートする必要もあるでしょう。

オンライン診療の重要性が高まった背景とその実態

現在、オンライン診療に注目が集まっている直接的な要因は、2020年から始まった新型コロナウイルスの蔓延です。

しかし、オンライン診療の議論自体は、医療分野では2005年頃からすでに活発化していました。その背景にあるのが、少子高齢化の進展と医師不足の深刻化です。

日本では現在急速に高齢化が進みつつあり、2020年10月1日時点での全人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は28.8%。今後2060年には高齢化率が約40%に達するとの試算もあります。

高齢化が深刻になると、それだけ医療ニーズも自ずと高まりますが、それをカバーするだけの医師を確保できていないのが現状です。

人口1,000人当たりの医師数(都市部)は、OECD16カ国の平均が4.3人であるのに対し、日本ではわずか2.4人と最低レベルの水準です。

医師不足が深刻化する中、診療を効率的に行うために採用すべきと考えられたのが、オンライン診療でした。コロナ禍とは関係なく、日本社会の構造的な理由により、オンライン診療の必要性は以前から叫ばれていたわけです。

ところが実際には、日本の医療機関ではオンライン診療を積極的に導入する傾向があまり見られません。

厚生労働省の調査によると、オンライン診療を実施できるとして登録された医療機関の割合は、2021年6月末時点で全医療機関の約15%のみです。

重要性は認識されつつあるものの、医療機関自体においてオンライン診療への取り組みは進んでいないのが現状なのです。

オンライン診療の受診対象は広げられるのか。年内に結論が出る見込みだが、法律的な壁も…
オンライン診療を実施できる医療機関の割合
出典:『第17回 オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会(2021年10月07日)資料1令和3年4月~6月の電話診療・オン. ライン診療の実績の検証の結果』(厚生労働省)を基に作成 2022年07月05日更新

デイサービスでのオンライン診療を実現する上での壁とは

デイサービスでのオンライン診療の実現に立ちはだかる「法の壁」

オンライン診療に対するケアマネ・介護現場からのニーズの高さを踏まえると、「介護予防や在宅介護の場で利用者が多いデイサービスでも受診できるようにすべき」との意見はもっともなことだと言えます。

しかし、デイサービスでオンライン診療を実現する上で、一つ大きな壁があります。それは「法の壁」です。

現在の医療法では、通所介護の施設は医師による診療を受けることが可能な場所として認められておらず、オンライン診療の実施も不可とされています。デイサービスでのオンライン診療を実現するには、まずは法制度改革が必要であるわけです。

患者が勤務する職場についてはオンライン診療の受診が認められ、受診の指針も制度上で明記されています。診療ニーズや衛生面など各種要件を考えてみても、診療場所として通所介護事業所が職場よりも劣っているとは考えにくいでしょう。

政府・厚生労働省には、デイサービスでのオンライン診療の実現に向けて、法改正も含めた動きを急ぎ進めて欲しいところです。

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