厚生労働省が「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」の活用を呼びかける
「介護保険最新情報Vol.1087」を通して自治体に活用を促す
2022年7月4日、厚生労働省は「介護保険最新情報Vol.1087」を発出し、介護職員の能力を「見える化」する制度である「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」(以下、介護キャリア段位制度)を活用するよう自治体に呼びかけを行いました。
通知の中では、今年1~3月にかけて行われた一般社団法人シルバーサービス振興会による調査結果も記載されています。
それによると、都道府県自治体に介護キャリア段位制度の導入状況について尋ねる質問では、「今後も本制度を介護職員の人材育成策として反映する予定はない」との回答が42.6%を占めて最多となっていました。
また、「本制度(介護キャリア段位制度)についてあまり知らなかったため、今後、介護職員の人材育成施策として検討したい」との回答も29.8%に上っています。「すでに施策として反映している」は27.7%のみでした。
都道府県自治体の約7割が介護キャリア段位制度の導入を進めていないのが現状。厚生労働省は今回の通知による呼びかけを通して、この状況を変えたいと考えているわけです。
出典:『介護事業者(介護職)の現場での課題対応力強化に向けた調査研究事業報告書【概要版】』(一般社団法人シルバーサービス振興会)を基に作成 2022年08月09日更新介護キャリア段位制度とは?
介護キャリア段位制度とは、介護職員の職業能力を客観的に評価することで、処遇の改善や社会的地位の向上を図ることを目的とした制度です。2012年に内閣府が創設し、2015年からは厚生労働省が管轄しています。
段位は7段階あり、最も低い「レベル1」はエントリーレベルで、介護職員初任者研修の資格を取得したばかりの人が対象。最高位の「レベル7」は、トップ・プロフェッショナルで介護のスキル・知識・経験とも十分の人が認定されます。
レベル4~レベル7がプロレベルとされ、「チーム内でのリーダーシップ」、「部下に対する指示、指導」を行う役割が求められます。
キャリア段位の認定方法は、施設・事業所内でまず「アセッサー(評価者)」を選任し、アセッサーが該当職員について所定の評価基準を満たしていると判断した場合、一般社団法人シルバーサービス振興会に段位申請をする、という手順です。
評価の基準は、「基本介護技術の評価」「利用者視点での評価」「地域包括ケアシステム&リーダーシップ」の3項目が定められています。
なお、アセッサーは誰でもなれるわけではなく、キャリア段位のレベルが4以上の人で、アセッサー講習を修了した人のみが選任対象です。
アセッサー講習を受講できるのは、介護福祉士として3年以上実務経験があり、介護福祉士実習指導者講習会を修了した人とされています。
介護キャリア段位制度の現状と普及しない要因
介護キャリア段位制度の現状は
介護キャリア段位制度は2012年からスタートしましたが、導入を義務化するといった強い内容ではありません。
開始から10年経過した現在でも、先述の調査結果からも明らかなように、導入への意欲がない都道府県が多く、現場ではほとんど普及していないのが実情です。
シルバーサービス振興会によると、2016年時点でのレベル認定者数は1,245名、2022年6月1日時点でのレベル認定見込み者数は4,598名です。ここ6年の間で、3,000名以上増えてはいます。
しかし、日本全体の介護職員数は、不足していると言われながらも2020年時点でおよそ200万人。つまり、現状において、レベル認定者の割合は介護職員全体の1%にも満たないわけです。
介護現場の視点からみると、普及はまったく進んでいないと言っても過言ではありません。

なぜ介護キャリア段位制度の活用が進まないのか?
介護現場で介護キャリア段位制度が普及しないのは、冒頭のアンケートでご紹介した通り、そもそも自治体が乗り気でないからです。
シルバーサービス振興会の調査結果では、アンケートに対して「今後も介護キャリア段位制度を介護職員の人材育成施策として反映する予定はない」と回答した都道府県自治体の担当者に、その理由を尋ねています。以下でいくつかご紹介しましょう。
- 埼玉県・・・事業者からの要望等がない。
- 神奈川県・・・介護人材確保に向けた協議において、現場からのニーズがない。
- 大阪府・・・人材確保策として取捨選択のうえ事業を実施している。
- 和歌山県・・・介護職員の資質向上のための支援を別途実施している。
- 広島県・・・過去に実施していたが,繁忙さから段位取得後の育成につながらず,事業整理により廃止となった。
- 愛媛県・・・介護技術の「見える化」により介護サービスの向上につながると考えられるが、既存資格との関係性や、明確な位置付けが必要ではないか。
- 高知県・・・体系的な研修のほか、独自のノーリフティングケアのリーダー養成研修などによる人材育成を行っている。また、業界団体の意向には、導入自治体における実績・効果を見極め、人材育成全体を検討する必要がある。
- 宮崎県・・・制度について知らなかった。
以上は一部ですが、「そもそも現場からの要望がない」「別の人材育成事業をすでに行っている」「事業として行っていたが、育成につながらないので廃止した」「制度を知らなかった」などの意見が目立っていました。
制度を普及させるには?
制度を導入した事業所では有益な効果も
一般社団法人シルバーサービス振興会の調査は、都道府県だけでなく施設・事業所を対象としても行われています。
アンケートの回答があった施設・事業所のうち、キャリア段位制度を導入し、レベル認定者とアセッサーのどちらも在籍している割合は、特別養護老人ホームが9.6%、介護老人保健施設が21.2%、訪問介護事業所が5.4%、デイサービスが2.8%でした。
これら介護キャリア段位制度を導入している施設・事業所に対して、その効果を尋ねるアンケートを行ったところ(複数回答)、「介護職員の介護技術について再認識ができた」(77.5%)、「自ら介護の内容を振り返り、気づきにつなげるようになった」(53.3%)、「根拠(エビデンス)に基づく指導や助言ができるようになった」(51.7%)などの回答が得られています。

アンケート結果を見る限り、実際に導入を行っている現場の施設・事業所では、一定の効果があることがわかります。
制度を普及させるポイントは?
介護キャリア段位制度を普及させる上では、まずは制度を導入することで、介護現場で一定の効果が出ている事実を各自治体に認識してもらうことが第一です。今回の介護保険最新情報通知だけでなく、さらなる促進策を継続する必要があるでしょう。
ただし、一度取り組んだが人材育成につながらないので廃止した(広島県)、別の施策を行っているので不要(和歌山県など)といった都道府県もあり、この点を踏まえた促進策を取ることが国・厚生労働省には求められます。
また、「現場からの要望がない」(埼玉県など)との意見もあることから、介護施設・事業所に対して、介護キャリア段位制度を導入した施設の成功モデルや、具体的な導入方法などについて周知することも必要でしょう。
さらに、一般社団法人シルバーサービス振興会の調査では、施設・事業所を対象としてキャリア段位制度の認知度を調べる調査を行ったところ、「知っているが、レベル認定者やアセッサーがいない」(53.9%)との回答が多くみられました。
そのため、アセッサーの育成体制や評価方法などにも改善点があるといえます。現行制度では、評価にばらつきが出ないように、外部の第三者の評価委員会を設置して、アセッサーの評価の妥当性や信頼性をチェックすることが規定されています。
この点に見直しを行い、官民連携などにより、チェック体制の質・内容をさらに向上・改善させることも必要ではないでしょうか。