介護支援専門員協会が実践知の言語化に取り組むと宣言

6月末の日本介護支援専門員協会の社員総会で明言

2022年6月末、日本介護支援専門員協会は社員総会の場で、今年度からケアマネージャーの「実践知」の言語化に取り組むプロジェクトを発表しました。

ここでいう実践知とは、知識や経験、技術、思考フローのことです。これを言語化して「見える化」することで、内容を誰でもわかりやすく共有できるようにし、個々のスキルアップに役立てようというわけです。

特にここで想定されているのは、後進の育成です。日本介護支援専門員協会の副会長は、ベテランのケアマネージャーの知識や経験、スキルを集結させ、そうした「実践知」を若い人などに伝承していく仕組みを作りたいとの説明をしています。

居宅介護支援の現場では、若手の教育は一部のベテランの勘や経験に頼るような形になることも多い状況です。

実践知の言語化により、より普遍性のある教育・研修体制の構築につなげたいというのが、今回のプロジェクトの目的であるといえます。

日本介護支援専門員協会としては、このプロジェクトを2023年度も続けていく方針。細かい部分については今後さらに詰めていく形になりますが、同協会の新しい試みに、介護業界全体が注目しています。

ケアマネージャーとは?

ケアマネージャーとは正式名称を「介護支援専門員」といい、介護保険法介護保険法に基づいて、要介護認定を受けた方にケアマネジメントを行う専門職です。略して「ケアマネ」と呼ばれています。

ケアマネジメントとは、日常生活において介護・サポートを必要とする方がより自立した生活送る上で必要なサービス(ニーズ)と、事業所・介護施設が提供している各種の介護サービス(社会資源)とを結びつけることです。

具体的な業務としては、介護サービスの利用計画書であるケアプランを利用者とその家族と相談しながら作成する、介護サービスが適切に行われているかをモニタリングする、介護事業者との連絡・調整役となる、などが挙げられます。

厚生労働省の「令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況」によれば、居宅介護支援事業所の数は、2020年時点で3万9,284。訪問介護事業所の3万5,075、デイサービスの2万4,087よりも多く、介護サービス事業所の中では最も数が多いです。

ケアマネージャーの「実践知」を言語化。介護支援専門員協会の新...の画像はこちら >>
出典:『令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況』(厚生労働省)を基に作成 2022年08月18日更新

ケアプランの作成を担うという役割の重大さ、さらに事業所数の多さから見ても、ケアマネージャーは介護保険制度における中核的存在であるとも言えます。

ケアマネの実践知を言語化するとは?

どのようにして実践知を言語化するのか

では、このようなケアマネージャー業務に関する「実践知」を、言語化するとは具体的に何をするのでしょうか。

日本介護支援専門員協会の副会長によれば、実践知の言語化作業の手始めとして、インテーク、アセスメント、プランニング、サービス担当者会議、モニタリングに関する実践知を集めることから開始するとしています。

インテークとは、日常生活を送る上で問題のある人およびその家族をサポートするために行う初回面談のことです。ケアマネージャーが適切なケアプランを作成できるように、本人・家族から情報を集めるために行います。

アセスメントは、ケアプランの作成・見直しを目的として、利用者が直面している生活上の課題を明確化すること。プランニングは介護サービスの利用計画を考えてケアプランを作ることです。

サービス担当者会議は利用者に介護サービスを提供している担当者が集まって、サービスについて検討する会議のことで、ケアマネージャーが招集をかけます。モニタリングは、介護サービスの効果を確認する作業のことです。

同協会は、これらケアマネが担う業務の実践知を言語化するために、100名ほどの熟練ケアマネの協力を得るとのこと。

熟練ケアマネが持つ実践知を、一つひとつ伝承可能な形で言語化していくというわけです。目的が実践知の伝承、共有であるため、最終的にはテキスト・マニュアルのようなものになるとも考えられます。

背景にあるケアマネの高齢化と若手育成の必要性

日本介護支援専門員協会は実践知の言語化の狙いとして、実践知を若い人などに確実に伝承していける仕組みを作ることにあるとしていますが、実はケアマネは、介護職の中でも特に高年齢化が進んでいる職種です。

公益財団法人介護労働安定センター「令和2年度介護労働実態調査結果」によると、従業員に占める65歳以上の労働者の割合は、ケアマネが9.3%。訪問介護員は25.6%、介護職員も9.4%なので、高齢世代の労働者の割合だけを見ると、訪問介護員が突出して高いです。

ところが、平均年齢でみるとケアマネは52.1歳で、訪問介護員は50.9歳。高齢者の割合が多い訪問介護員よりも、ケアマネの方が平均年齢は高いのです。

訪問介護員は高齢の労働者が多い一方で、30代、40代などの世代もそれなりに多いものと推測されます。しかし、ケアマネは資格取得に一定の経験年数が必要なこともありますが、全体としての高年齢化が生じているのが実情なのです。

ケアマネージャーの「実践知」を言語化。介護支援専門員協会の新たな試みに注目
介護職の平均年齢
出典:『令和2年度介護労働実態調査介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書』(介護労働安定センター)を基に作成 2022年08月18日更新

若い世代の参入を促していき、若返りを図っていくためには、若手育成を効率的に行う必要があります。実践知を言語化して伝承・共有しやすくすることは、そのための有効な手段となるわけです。

ケアマネの「実践知を言語化すること」における課題

実践知の中で言語化の効果が大きいのは?

ケアマネが行うケアマネジメントは、利用者とその家族とのコミュニケーションを取りながら行うのが基本です。しかし、実際の現場ではこの点がうまくいかないことが多いようです。

日進市が同市のケアマネを対象に行ったアンケート調査によると、「ケアプラン作成時に困っていること」を尋ねたところ(複数回答)、最多回答となったのが「利用者本人と家族との意見が異なるときの調整に手間取ること」(38.3%)でした。

2番目に多かったのが「家族の協力が得られないこと」(36.7%)、3番目に多かったのが「利用者本人、家族から必要以上にサービス提供を求められること」(31.7%)となっています。

いずれの回答も、利用者とその家族とのコミュニケーションに関する事項です。

ケアマネージャーの「実践知」を言語化。介護支援専門員協会の新たな試みに注目
ケアプラン作成時に困っていること
出典:『介護支援専門員に関するアンケート調査 調査結果報告書』(日進市)を基に作成 2022年08月18日更新

この調査結果を踏まえると、利用者とその家族とコミュニケーションを取るための実践知を言語化し、伝承・共有できるようにすることは、有効性が高いとも考えられます。

「実践知を言語化する」取り組みを進める上での課題

実はケアマネージャーのケアマネジメントの手法を体系化し、共有可能な形にしようとする取り組みは、すでに厚生労働省が「適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進」施策として、民間の調査機関と協力しながら進めています。

そのため日本介護支援専門員協会としては、自分たちが行おうとしている「実践知の言語化」と、国が進めている取り組みはどこが違うのか、という点を明確にする必要があるでしょう。

また、国が行っている施策との関係性もはっきりさせることも重要です。補完関係にあるのか、まったく別の新しい取り組みとするのか、同協会の位置づけを取り決めて置く必要もあるでしょう。

これらの点について、言語化された実践知を実際に普及させ、活用されるようにするという意味においても、何より現場のケアマネに理解してもらうことが大事です。

実践知を言語化するとはどのようなことなのか、具体的に何が出来上がるのかについての情報を、全国のケアマネに丁寧に発信・周知していくことも重要となるでしょう。

今回はケアマネの実践知を言語化するという日本介護支援専門員協会の新たな取り組みについて取り上げ、考えてきました。同協会がどのようにプロジェクトを進めていくのか、今後も注目を集めそうです。

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