算定率が低迷する栄養改善加算
デイサービスの算定率はわずか1%未満
2021年介護報酬改定では、高齢者の食事を改善し、生活機能の向上やコミュニケーションの回復などを図るため、口腔ケアや栄養関連項目の加算が見直されました。
その中で、在宅での療養生活を支援するため、デイサービスでの栄養改善加算の報酬がアップしました。
栄養改善加算とは、利用者に対して低栄養状態のリスクを把握したり、摂食嚥下機能のチェック、日頃の食事のアドバイスなどを行うことで得られる加算のことです。
しかし、日本デイサービス協会によると、デイサービス事業者における栄養改善加算の算定率は1%にも満たないと指摘。その原因は厳しい算定要件にあるとしています。
栄養改善加算の算定要件は以下の通りです。
- 事業所の従業者または外部との連携により、管理栄養士を1名以上配置していること
- 利用者の栄養状態を利用開始時に把握していること
- 管理栄養士等が共同して、利用者ごとの摂食・嚥下機能及び食形態にも配慮した栄養ケア計画を作成していること
- 利用者ごとの栄養ケア計画に従い、必要に応じて当該利用者の居宅を訪問し、管理栄養士等が栄養改善サービスを行うこと
- 利用者の栄養状態を定期的に記録していること
- 利用者ごとの栄養ケア計画の進捗状況を定期的に評価すること
- 定員超過利用・人員基準欠如に該当していないこと
特に、デイサービスの事業所では、新たに管理栄養士を雇用することが難しいうえに、外部連携の管理栄養士が利用者別に栄養ケア計画に従って訪問することは現実的ではないとし、算定要件の緩和を求めています。
介護施設を就職先に選ぶ管理栄養士は約1割
管理栄養士は国家資格であり、その合格率は65.1%。食や口腔ケアに関する専門的な知識をもったプロフェッショナルであり、決して簡単に取得できる資格ではありません。
毎年1万人程度の合格者がおり、現在110万人の管理栄養士がいるとされています。
管理栄養士の就職先は非常に幅が広く、病院や企業に進むのが一般的です。介護施設への就職者の割合は約1割程度。単純計算で毎年1,000人ほどが就職していると考えられます。
出典:『初めての就職ガイド』(日本栄養士会)を基に作成 2022年09月20日更新対して、デイサービスの事業所は地域密着型だけで約2万にも及びます。介護事業所の数に対して、管理栄養士が足りていないので、各事業所で雇用するのは非現実的です。外部連携で利用者ごとに訪問するにしても、圧倒的に数が不足しています。
高齢者の栄養について注目される理由
低栄養や認知機能低下の予防
高齢者は食欲の低下などによって低栄養の状態に陥りやすいとされています。低栄養になるとフレイルや認知症のリスクが高まることも判明しています。
東京都健康長寿医療センター研究所は、認知機能の低下に影響する赤血球数、HDL(善玉)コレステロール値、アルブミン値の3つの指標に着目し、それぞれの数値を「高い」「普通」「低い」に分けて、認知機能低下のリスクを調査しました。
それによると、3つの指標が「低い」グループは、「高い」グループに対して、認知機能低下のリスクが約2~3倍になるとわかりました。

こうした調査結果を受け、政府は要介護状態を防ぐために高齢者の栄養状態の向上を図っているのです。特にデイサービスは要介護度2以下、要支援者などの利用者が多いため、栄養改善サービスを提供することで、重度化防止を図ることにつながります。
デイサービスでの栄養改善加算の推進は、比較的健康的な高齢者に低栄養リスクを軽減し、在宅生活を支えるために必要なのです。
栄養改善サービスの実例
岡山県栄養士会は、県内の事業所と提携して栄養改善サービスの提供を実施し、その取り組みの結果を公表しています。
【事例:要介護度2 Aさん 女性 87歳】Aさんは、アルツハイマー型認知症と大腸がんを患っており、長男夫婦と同居しています。基本的に食事は長男の妻が用意しますが、ひとりで食べていることが多いそうです。
骨折によって入院したことで、体重が減少していました。低栄養のリスク判定では「中リスク」と診断。
そこで、自宅とデイサービス事業所で栄養補助食品を使用。家族にはエネルギー量を増やす献立を提供し、訪問看護師が自宅で食事量を記録するなどの支援を行いました。
その結果、食事摂取量の増加に伴い、体重が3キロ増加。体力向上がみられ、10mを歩行する時間が、当初より3秒縮まったそうです。
また、兵庫県のデイサービス事業所では、低栄養と診断された高齢者の便秘改善や食事の提供を行った結果半年で7.1kgも増加。このように、管理栄養士などが介入することで、高齢者の健康状態は大きく改善されるのです。
課題解決に必要なのは双方の理解とICT活用
事業者も管理栄養士への理解が必要
栄養改善加算の算定率を向上するためにも、算定要件の緩和は不可欠でしょう。しかし、事業所サイドも管理栄養士に対する理解度を高める必要がありそうです。先述の岡山県栄養士会は、その取り組みから次の3つの課題を挙げています。
医療情報が少ない デイサービス施設であるために、血液検査データや服薬状況、入院時の食事に関する情報が不十分。血液検査データに関しては、栄養状態を反映する血清アルブミン値の記載のないものがほとんどで、目に見えない低栄養状態を発見することが難しい。 施設の管理栄養士に対する理解度が低い デイサービス施設における栄養改善の取り組み事例が少なく、管理栄養士という職種に対して理解も十分ではない。そのため「栄養士が自宅で食事を用意してくれる」「食事をつくってくれる人」と認識している利用者も多い。 管理栄養士の介入に対する家族の負担 管理栄養士が自宅に来ると、精神的負担を感じる家族が多い。理由は、自宅の食事バランスが悪いと言われているように感じるため。栄養改善サービスを提供するためには、要件を緩和するだけでなく、現場ならではの課題をひとつずつ解決することも大切です。デイサービス事業所と地域の栄養士会などが協力して事例を積み上げていく必要があります。
ICT活用で外部連携を強化する
管理栄養士をすべての事業所に配置するのは、ほぼ不可能です。そのために外部連携という手段がありますが、管理栄養士とのコミュニケーションの取り方や、どうやってサービスを提供したらいいのかわからないといったことからあまり進んでいません。
そこで、カギを握るのはICTの活用です。例えば、デイサービス事業所には利用者の医療情報が不足しているため、サービス提供の障壁となっていますが、日頃からコミュニケーションツールなどを導入して、医療と連携していれば、この課題は解決されます。
また、ICTツールを活用すれば、管理栄養士と事業所とのやりとりをスムーズに行うこともできます。
高齢者の健康維持や重度化防止のために、栄養管理は非常に重要な項目です。デイサービスで広げていけば、より予防効果を高めることができるでしょう。今後は、これまでの事例から課題を明らかにして、その一つひとつを解決することが大切です。