注目度が高まりつつある電動アシスト歩行器
電動アシスト歩行器とは?
2022年9月21日、介護ロボットなどを開発しているR.T.ワークス株式会社が、ケアマネ向けのセミナーとして「電動アシスト歩行器に関するオンラインセミナー」を開催。介護業界において、電動アシスト歩行器に対する注目度が改めて高まりつつあります。
電動アシスト歩行器とは、車輪付きの歩行器に電動のアシスト機能がついた歩行器のことで、上り坂だとアシストが働いて楽に上ることが可能で、下り坂では自動でブレーキが利いて安全に歩行できます。
上り坂、下り坂でも強い力は必要がないので、通常の車輪付き歩行器よりも歩行時に求められる筋力・体力が少ないです。また、より長時間、長い距離を歩くことも可能となり、行動範囲を広げる効果もあります。
現在、日本では介護分野におけるロボット技術の導入に注目が集まっていますが、この電動アシスト歩行器もその一つです。この機器が普及することで、高齢者がより長い間、自立に近い状態で地域内にて生活できるようになる効果が期待できます。
2016年度から介護保険適用でレンタルが可能
介護保険サービスの福祉用具貸与の対象となる歩行器は、大きくわけて「車輪のないタイプ」と「車輪のあるタイプ(歩行車)」に分類可能です。
車輪のないタイプは、地面に付くフレームの先に滑り止めのゴムが付いていて、左右のフレームを交互に動かせるものと、固定されているものとがあります。移動する際は、左右のフレームを持ち上げなければなりません。
一方、車輪のあるタイプは、地面に付くフレームの先に車輪がついていて、体を支えるフレームを持ち上げなくても移動できます。ただし、押す力は必要で、坂道では歩行器を押す力、下り坂ではつかんで止める力が不可欠です。
この後者の車輪のあるタイプの歩行器の中に、2016年度から電動アシスト歩行器が追加されました。そのため現在、電動アシスト歩行器は保険適用にて福祉用具貸与事業者からレンタルが可能です。
福祉用具貸与における歩行器の利用者は年々増え続けています。
2016年から福祉用具貸与の対象となった電動アシスト歩行器に対するニーズも、歩行器全体への需要の伸びに合わせて高まりつつあると考えられます。
電動アシスト歩行器の利用者層と使用目的
介護度が高い人も多く利用している
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)が平成30年度に行った調査結果を基に発表した「電動アシスト歩行器の導入運用支援マニュアル(案)」では、電動アシスト歩行器の効果に関する実証調査結果が掲載されています。
調査結果によると、通常の歩行器やシルバーカーは日常生活動作(ADL)の機能が高く、介護度が低め~中度の人が主な利用者なのに対して、電動アシスト歩行器はADLの機能が低い人、介護度が高めの人も多く利用しているとの検証結果が報告されています。
厚生労働省のデータ(2021年4月分)によれば、歩行器のうち車輪付きの「歩行車」の要介護度別の給付割合は、要支援1が11.1%、要支援2が22.6%、要介護1が23.0%、要介護2が24.9%、要介護3が11.9%、要介護4が5.3%、要介護5が1.2%です。

電動アシスト歩行器の使用目的と期待される効果
AMEDの「電動アシスト歩行器の導入運用支援マニュアル(案)」によると、電動アシスト歩行器の利用対象者として想定しているのは、「地域で生活している方」「歩行について専門職の指導や支援を受けている方」の2種類です。
「地域で生活している方」については、現在すでに歩行器を使用しているものの、電動アシスト歩行器の活用により、さらに行動範囲を広げることを目的として利用できる、と考えられています。
特に、自宅の近くに坂道がある場合、買い物に行く店が少し遠くにあって荷物が重くなりやすい場合に、電動アシスト歩行器の使用により、外出・買い物時の負担軽減効果が期待できます。
「歩行について専門職の指導・支援を受けている方」は、下肢筋力が低下している方、病院や施設から在宅に復帰する方、病気・外傷により歩行困難となった方などが想定されています。
例えば、大腿骨骨折などにより歩行補助具を必要とする方、脳卒中により麻痺や失調症状のある方、疾患・外傷により歩行障害のある方、廃用症候群の方、パーキンソン病患者の方、下肢筋力が低下している方、変形性膝関節省・腰痛症のある方、がん患者の方などです。
後者の場合は、電動アシスト歩行器により歩きやすい環境を確保することで、身体機能維持、歩行機能維持の効果が期待されています。
電動アシスト歩行器を利用する際に留意すべきこと
電動アシスト歩行器利用による効果の実証データ
AMEDの「電動アシスト歩行器の導入運用支援マニュアル(案)」には、電動アシスト歩行器を使用したことで得られた効果の数値データが記載されています。調査方法は、3カ月利用した人に対して、体組成計(体重計のように上に乗ることで、体組成を測定できる機器)の「Inbody」にて筋肉量を測定するというものです。
それによると、障害があり日常生活自立度B1~2相当の方の場合、電動アシスト歩行器を使用した結果、筋力量は開始時に右足5.41、左足5.52だったのに対し、3カ月後は右足5.88、左足5.98まで増えていました。
なお、日常生活自立度B1~2とは、屋内での生活に介助が必要で、日中もベッドでの生活が中心であるものの、座位姿勢は可能な状態を指します。

また、転倒による骨折で入院し、回復期リハビリテーション病棟を退院後に電動アシスト歩行器を使用した方の場合、筋力量は使用開始時に右足4.66、左足4.71でしたが、3カ月後は右足6.23、左足6.46まで増えていました。
電動アシスト付きなので楽に移動できるため、筋肉があまりつかないのではともイメージされますが、楽だからこそ移動する意欲がわきやすく、結果として生活範囲・移動量が増えて筋力が付くのです。
電動アシスト歩行器を使用する際の注意点
便利で身体機能改善効果も期待できる電動アシスト歩行器ですが、実際に使用する際には、いくつか注意すべき点があります。ケアマネがケアプランに盛り込む際にも、これらの点は留意することが必要です。
まずは、下肢の筋力低下がある、片麻痺がある、歩行機能障害がある、上肢下肢、膝、腰の痛みが強い、認知機能が低下している、などの人は、転倒のリスクがあるので使用が難しいです。
電動アシスト機能のない歩行器に比べると体への負担は少ないですが、それでも使用できるだけの筋力・体力が求められます。その点に問題がないか、十分に吟味することが不可欠です。
また、利用者が一人暮らしの場合、本人が一人で使用、保守管理できるのかどうかもチェックが必要。ほとんど使わないままになってしまう恐れがないか、雨ざらしなど故障しやすい環境で保管されることにならないか、事前の確認が求められます。
さらに日常生活の動線、スロープの有無なども要確認事項です。電動アシスト歩行器は車いすと同じく、階段や大きな段差を乗り越えることができないので、日常生活の動線にそうした障害はないか、スロープが設置されているかどうかを確かめる必要があります。
他にも、使用前にバッテリーのチェックが必要など、機器利用時の注意事項も多いです。
今回は、現在注目度が高まっている電動アシスト歩行器について考えてきました。便利であることに加えて、身体機能改善の効果も期待できる有用性の高い機器であることは間違いありません。
今後普及がさらに進んでいくかどうか、引き続き注目していきたいです。