「将来的に介護保険の保険料を40歳未満に」が論点に
介護保険料の被保険者範囲について議題に
2022年10月31日、社会保障審議会・介護保険部会の場で、将来的な介護保険制度改正における議論のテーマとして、被保険者範囲の40歳未満への拡大が取り上げられました。
改正に向けての議論というわけではなく、有識者が集まっている場で改めて考えを問うという趣旨です。集まった有識者からは賛否両論の意見が出ています。
賛成の意見としては、「40歳未満でも介護保険サービスを利用できるようになり、若くして在宅介護をしている家庭の場合、家族負担を減らせる効果が期待できる」「介護は高齢者に限られたニーズではない」などがありました。
一方、反対の意見としては、「介護保険サービスへのニーズが若い世代に拡大しているとはいえない」「勤労世帯への負担の配慮があるべき」などが出されています。
具体的な制度改正のためではないとはいえ、社会保障審議会・介護保険部会という公的な場で議論が行われている以上、近い将来、被保険者範囲の拡大が本格的に進められる可能性もあります。
若年世代の家計負担に直結する内容でもあることから、今後も引き続き注目を集めるテーマとなりそうです。
現行制度における介護保険の被保険者範囲
介護保険制度は市区町村が保険者として運営を担い、現行制度では40歳以上の日本人全員が加入を義務付けられている公的社会保険制度です。
被保険者は大きく分けて2種類。65歳以上が対象となる「第1号被保険者」、40~64歳の医療保険加入者が対象となる「第2号被保険者」です。40歳を迎えると、特別加入手続きなどなく自動的に加入する形となり、介護保険料の負担が発生します。
厚生労働省の資料によると、介護保険制度が始まった2000年当時、65歳以上の第1号被保険者の人口数は約2,204万人、40~64歳の第2号被保険者の人口数は4,371万人でした。
しかし、その後少子高齢化が進展し、65歳以上の人口数が急増する一方で40~64歳の人口が減少。2025年には第1号被保険者の人口数が3,657万人、第2号被保険者が4,112万人となると予想されています。
出典:『介護保険制度の最近の動向について~地域包括ケアの構築に向けて~』(厚生労働省)を基に作成 2022年12月08日更新現行制度では被保険者となるのは40歳以上なので、介護保険料の支払いが発生するのも40歳以上からです。40歳未満まで被保険者の範囲を拡大するとは、40歳未満にも保険料の支払いを求めることを意味します。
背景にある介護給付費の増加と財源の圧迫
要介護者数の増加に伴い、介護給付費が年々増加
今回、社会保障審議会・介護保険部会にて介護保険における被保険者の拡大が議論された背景要因の一つが、介護給付費の増大化です。
厚生労働省によれば、要介護認定者数は介護保険制度が始まった2000年度末では256万人だったのに対し、2019年度末には669万人まで増えています。
要介護認定者の増加は、介護保険適用で介護保険サービスを利用する人の増加を意味するので、財源を使用しての介護給付費(1~3割の利用者負担以外の7~9割の部分)も増加せざるを得ません。
同省によると日本における介護給付費用の総額は、2000年度当時は3.2兆円でしたが、2019年には10.0兆円まで増加しています。約20年の間に、3倍近くも増えているのです。

こうした要介護認定者数の増加に伴う介護給付費の上昇は、介護保険の財源への圧迫に直結します。
介護保険制度の財源への圧迫増加
介護給付費の財源は、50%が国・都道府県・市区町村の公費(税金)、残り50%は被保険者が支払う保険料です。保険料は被保険者が負担することになるため、現行制度では40歳以上から支払いが発生します。
そのため介護給付費が増えていくと、国・都道府県・市区町村それぞれの負担増につながり、特に財源の50%を担う被保険者にとっては、介護保険料の増加を招かざるを得ません。
保険料の増加については、現行制度では被保険者である40歳以上の国民に対する集中的な負担増となります。39歳までは被保険者ではないので、支払の負担がなく、まったく無関係というのが現状です。
40~64歳の第2号被保険者は、現役世代という点では18~39歳までの世代と何ら変わりませんが、40~64歳のみが負担増に直面しているわけです。
冒頭で被保険者範囲の40歳未満への拡大をめぐる議論を紹介しましたが、この考えに賛成の立場の有識者からは、「40歳以上だけではなく、より幅広い世代で負担を分かち合うべき」との意見が出されています。
40歳未満まで被保険者を拡大することのメリット、デメリット
現役世代全体に負担を分散できる
40歳未満にまで介護保険の被保険者範囲を拡大することのメリットの一つが、40歳以上の保険料負担を減らせる点です。
高齢化が進み、要介護認定者が増え続けている現在、40歳以上が負担できる保険料には限界があるのも事実。
厚生労働省によると、介護保険料(月額)の全国平均は、2000年当時は第1号被保険者が2,911円、第2号被保険者が2,075円でしたが、2022年度には第1号被保険者が6,014円、第2号被保険者が6,829円(見込み額)となっています。
介護保険制度が始まって以来、第1号、第2号ともに、保険料額は3倍以上も増えているわけです。

40歳未満も負担をすることで増加幅を抑えることができ、40歳未満の人にとっても、40歳を迎えたときに急に大きな負担発生を防ぐことにつながります。
また、40歳未満であっても指定難病になることがあり、その場合に介護保険サービスを利用できるようになる点も、被保険者範囲拡大のメリットです。
介護保険サービスを利用できるのは原則として65歳以上からですが、国が指定する難病(末期がんや若年性認知症など16種類)に罹った場合は、40~64歳でも利用できます。
しかし、介護保険サービスの利用対象はあくまで被保険者のみなので、現行制度では39歳未満は利用できません。被保険者範囲を拡大すると、39歳未満でも難病を発症した際に介護保険サービスを利用できるようになります。
出生率の低下を招く恐れも
一方で、40歳未満に保険料負担を要求することには、デメリットもあります。
一つは、30代以下の子育て世代の負担増を招き、結婚・出産の意欲を低下させる恐れがある点です。
40歳未満は結婚・出産を迎える人が多い世代。非正規の働き方も拡大する中、この世代の負担を増やすと、結婚・出産を望む人が減り、出生率を低下させる恐れがあります。
現状、すでに日本の少子化が社会問題視されていますが、それをさらに加速させる可能性があるわけです。
また、事業者の保険料負担を増やすことにもつながります。現在、第2号被保険者の介護保険料は、健康保険加入者の場合だと原則として2分の1が事業主負担です。
40歳未満まで被保険者を拡大した場合、端的に事業者の負担増をもたらします。事業者の経済活動を圧迫させてしまうわけです。
今回は社会保障審議会・介護保険部会の場で取り上げられた「介護保険の被保険者範囲の40歳未満への拡大」について考えてきました。
すぐに制度に盛り込まれることはないものの、今後どのように議論が進められていくのか、引き続き注目を集めそうです。