介護施設で導入されているアニマルセラピーとは?
介護施設で期待されるアニマルセラピー
現在、多くの介護施設では犬や猫などの愛玩動物が飼育され、入居者に可愛がられています。
動物が飼われる理由は、「アニマルセラピー」の効果を得ることが主な目的です。アニマルセラピーとは、動物と触れ合うことで心身を癒し、健康増進を図る療法のこと。
動物に直接触れる、話しかける、「ちゃんとご飯は食べたのか」などと関心を寄せる、などの行為を通して、心が穏やかになったり笑顔になる回数が増えるなどの効果が期待できます。
アニマルセラピーで使用される動物は、施設で直接飼うのではなく、外部機関の協力を得るケースも多いです。例えば宮崎市の動物保護団体の「セラピーパートナーズ」は、保護猫を高齢者・障がい者向けのアニマルセラピーの動物として活用。セラピー用の動物となるのはしつけやすい犬が主流ですが、猫が活躍しているということで、現在注目を集めています。
介護施設におけるアニマルセラピーの目的
アニマルセラピーには、目的に応じて主に3種類があります。
- 動物介在活動・・・生活の質を高めることを目的に、動物と触れ合う機会を提供。レクリエーションの一環として楽しい時間を過ごすのが主な活動内容
- 動物介在療法・・・医療従事者が治療を目的として動物と触れ合う機会を提供。認知症ケア、緩和ケア、リハビリの一環として行われるのが通例
- 動物介在教育・・・人格形成や学習意欲を高めることを目的として、動物と触れ合う機会を提供。動物の子どもを飼育し、大人になるまで育てていくなどの方法が多い
介護施設の場合、基本的に動物介在活動、動物介在療法を目的としてアニマルセラピーが導入されています。施設内で一緒に共同生活を送る、もしくはアニマルセラピーを提供する外部機関・ボランティアの人を招き、レクリエーション・イベントの一環として動物に触れる機会を設ける、などの方法で実施。一緒に散歩をする、ご飯やおやつをあげる、おもちゃを投げて遊ばせる、名前を呼ぶなどの活動を動物と行います。
介護施設でアニマルセラピーを行うことのメリット
言語・非言語コミュニケーションが活発に
日本動物病院福祉協会が行っている「人と動物との触れ合い運動(CAPP)」では、高齢者が動物と触れ合うことでどのような効果が生じているかの調査を実施しています。のべ107人の高齢者施設で生活する方を40分間ビデオで撮影。
その調査によると、「笑顔になる回数」は、動物がいるときは4.45回、動物がいないときは0.88回。「アイコンタクトの回数」は、動物がいるときは2.86回、動物がいないときは0.31回。「短い会話の回数」は動物がいるときは4.18回、動物がいないときは2.00回で。これらの行為は、明らかに動物がいるときの方が回数は多くなっていました。
笑顔、アイコンタクトは非言語コミュニケーション、短い会話は言語コミュニケーションに該当します。つまり動物がそばにいるだけで、非言語・言語のどちらにおいても意思疎通への意欲が高まるわけです。
また、調査では動物がいるときの方がスタッフやボランティアの言葉がけに応えやすくなり、自発的に話すことも多くなることも分かりました。社会性を高めるという点で、動物が側にいることは大きな効果があるといえます。
心身機能の改善効果も大きい
コミュニケーションが増えること以外にも、アニマルセラピーを導入することには多大な効果があります。
- 情緒の安定・・・孤独感がやわらぎ、ストレスが解消され、精神疾患・認知症の改善効果も期待できます。動物に「おはよう」などと声かけをする、体に触れたり撫でたりする、名前を呼んで近くに来させる、などの行為を通して得られる効果です。
- 身体機能の向上・・・動物と一緒に動いたり、遊んだりすることで、自然に運動ができます。犬の場合、セラピードッグと館内を歩いたり、散歩に出かけたりすることで、歩行の運動に直結。散歩に出かける意欲も高まります。
- 責任感が高まり、生活意欲が向上・・・「動物を世話しないといけない」との義務感・使命感を持つようになり、それに合わせて「自分がしっかりしないといけない」との意識も持つようになり、生活意欲が向上します。
介護施設でアニマルセラピーを行う上での注意点
利用者、スタッフの中に苦手な人がいないかに配慮
高齢者施設でアニマルセラピーを導入する場合、まず注意すべきポイントは、利用者やスタッフの中に動物が苦手な人がいないかのチェックです。
アニマルセラピーでは訓練しやすい犬が「セラピー犬」として活躍するケースが多く見られます。しかし、犬に対しては「昔かまれたことがある」など、心理的なトラウマを持つ人も少なくありません。無理に触れてもらおうとすると、多汗、パニックなどの反応を示す人もいるので注意が必要です。
さらに動物アレルギーの有無も要チェック事項です。特定の動物に対してアレルギーを持つ人は利用者、スタッフとも基本的にその動物でのアニマルセラピーには関われません。例えば猫によるアニマルセラピーを行う場合、「猫アレルギー」の人はけっこう多いので、事前の確認が不可欠です。
これらのポイントを踏まえると、利用者に対して無理に動物に触れることを勧めないことが重要。これは働くスタッフの側も同じです。実際にアニマルセラピーを行う場合、動物が苦手なスタッフが関わらずに済むように配慮が必要でしょう。
また、「万が一」に備えることも大事です。動物が利用者に突然危害を加えないか、逆に利用者が動物に虐待をしないか、常に見守る必要があります。
セラピー効果を得るための工夫
アニマルセラピーで活躍できる動物は犬・猫に限ったものではありません。うさぎやハムスターなどでも効果が期待できます。犬・猫が苦手なスタッフ・利用者がいる場合、全員が触れ合える動物を選択して行うのも1つの方法でしょう。

魚などの触れることができない動物の場合は、犬や猫などと同等の効果は得られないかもしれませんが、動物と一緒に生活するという視点で、水槽(アクアリウム)を設置することも有効です。話しかけたり、餌やりをしたりといった関わり方が可能です。
近年では、ぬいぐるみ、あるいは幼児のような形状を持つ「セラピーロボット」を介護施設で導入するケースも多いです。生物ではないものの、見た目が可愛いので心理的ないやし効果が得られます。
ただし、動物あるいはロボットをセラピー目的で導入する場合、対応するスタッフの負担増への配慮も必要です。特に動物は日常的に餌やり、糞尿の処理などの作業が発生するため、負担をうまく分散できるような体制作りも重要となるでしょう。
今回は介護施設で導入が進んでいるアニマルセラピーについて考えてきました。