介護業界におけるペーパーレス化の現状とは?
民間企業が介護業界のペーパーレス化の実態を調査
クラウド型サービスを展開するペーパーロジック株式会社が先日、介護業界のペーパーレス化の実態を示す調査結果を発表しました。調査が行われたのは2022年12月、対象となったのは介護業界に関わる103名です。
この調査結果によると、「介護業界でペーパーレス化の推進は重要か」の問いに対し、「非常にそう思う」「ややそう思う」の合計は76.7%に上りました。
一方、「自社のペーパーレス化は十分に進められているか」との質問に、「非常にそう思う」「ややそう思う」の割合は合計で19.4%。わずか2割程度にとどまっています。ペーパーレス化の重要性は認識しながらも、実際の現場では取り組みが進んでいないのが現状です。
現在国を挙げて進められているペーパーレス化ですが、なぜ介護業界では取り組みが進んでいないのでしょうか。深掘りすると介護制度の課題・問題も見えてくるので、以下で詳しくご紹介します。
国が進める介護業界におけるペーパーレス化
現在政府は、産業分野に関わらず社会のペーパーレス化を推進。領収書・レシートをスマホで撮影すれば紙の原本を不要にしても良いなど(2017年改正)、紙利用を減らし、業務の効率化、生産性向上につながる制度改定を進めています。ペーパーレス化は、まさに国を挙げての取り組みであるわけです。
介護業界でも同様の法整備の動きが続いています。2021年に実施された介護報酬改定では、利用者・家族への説明・同意、記録の保存および交付などは、電子データでやり取りすることが可能となりました。ペーパーレス化に向けた制度的枠組みが整えられつつあります。
現在、介護業界は慢性的な人手不足に陥り、現状のままだと、少子高齢化が進む中でさらに問題の深刻度が増していくのは確実。
実際、介護職は介護現場でケアを行う専門職ではありますが、全業務のうち約2割は書類の作成業務であるとも言われています。ペーパーレス化によって業務効率がアップすれば、その分、よりケアに回せる時間を増やせるでしょう。
介護業界でペーパーレス化が進まない要因とは?
ペーパーレス化で期待される効果
介護業界でペーパーレス化を進めることには、一般的に以下のような効果が期待されています。
- 業務の効率化:ペーパーレス化による最大のメリット。紙を使わずに、パソコン・タブレット・スマホ上で書類のやり取りができるので、鉛筆・ペンで書く手間が省ける。
- コスト削減:ペーパーレス化を実現できれば、紙、印刷にかかる費用(印刷機のリース代、インク代など)、郵送費、郵送のための交通費といった費用が不要となります。郵送には送付物を郵便局・ポストまで届ける必要があり、その時間コストも大きいです。
- 書類の保管場所が不必要:紙の場合、書類をまとめたファイルを保管するための棚・スペースを確保する必要があります。しかしペーパーレス化により、データはすべてPC内・クラウド上で保管できるので、書類を保管するための物理的な場所が不要となります。
- 情報共有を瞬時に行える:紙の情報だといちいち現物の紙に目を通す必要があります。ペーパーレス化で情報が電子化されれば、タブレット・スマホでいつでも情報をチェックできます。情報の共有を同時・瞬時に行うことが可能です。
介護業界でペーパーレス化が進まない理由は?
では、介護業界でペーパーレス化が進まない要因は何でしょうか?
先のペーパーロジックの調査結果によると、「ペーパーレス化を進める上で課題となっているもの」として「現状の業務で手一杯になっており、ペーパーレス化を進める余裕がない」が回答の5割を占めて最多回答となっていました。

ペーパーレス化は実現ができれば一定の業務効率化を図れますが、実現するためには別途スタッフが介護業務以外の時間を設けて、新システムの導入・習熟に取り組む必要があります。人手不足が続く中、そのような時間を確保できないのが介護現場の実情と言えるでしょう。
また、以下のような回答も多いです。
- 「予算がない」(30.6%)
- 「どう進めればよいかわからない」(27.4%)
- 「現場からの理解・協力が得られない」(27.4%)
- 「年配のお客様が多く、説明が難しそう」(27.4%)
ペーパーレス化に向けての資金、知識・ノウハウが不足している現状も結果から読み取れます。さらに書類の内容を利用者に説明するとき、ペーパーレス化後はタブレット端末などの画面を見てもらうことになりますが、「その方法できちんと説明ができるのか」という点に不安を感じている介護職も多いようです。
介護現場ではペーパーレス化と共に「業務削減」が重要
介護現場での業務の負担は減らせない
「株式会社てづくり介護」の代表取締役高木亨氏によると、介護現場の仕事のうち、書類の作成・記録にあたる仕事については、ペーパーレス化により業務削減効果は期待できるものの、それだけでは負担軽減の実感は得にくいと指摘されています。
先述の通り、介護業務全体のうち書類の作成・記録業務は約2割程度。しかも実際には事務仕事の多くは管理者・事務員が担当しており、現場でケアを担う介護職員にとっては、ペーパーレス化が行われても、負担が軽くなると感じにくい面があるわけです。
介護現場の人材不足感や業務量の多さは、もっぱら「介護現場での作業」に関わる部分。ペーパーレス化を進めたとしても、「現場」での業務量の多さは変わりません。
つまり、介護業界におけるペーパーレス化の実現による効果は大きいとは言えず、「わざわざ時間と手間をかけてペーパーレス化に取り組まなくても良いのでは」とも感じられるわけです。
介護現場の「負担を減らす」ために必要なこと
もちろんペーパーレス化による効果はゼロではなく、その実現により先述のメリットをある程度は享受できるでしょう。
しかし介護業界での書類作成業務に関わる本質的な問題は、記録業務の多さです。
ペーパーレス化されても、その「記録の作成業務」が大量にあることには変わりません。こうしたことは加算要件が増えるたびに増加していきます。
つまり書類作成業務の負担感が大きくなる最大の要因は、紙で作業していることではなく、度重なる報酬改定によって増え続ける記録業務の仕組みにあるとも言えるわけです。
介護報酬のチェック=予算管理・削減を目的とした国が定める記録業務のあり方自体を見直さないと、ペーパーレス化を進めても、書類に関わる負担の軽減化・業務効率化の効果は限られるとも考えられます。
今回は介護業界のペーパーレス化の現状について考えてきました。介護という特殊な分野においてペーパーレス化は今後どのように進められていくのか、今後も引き続き注目していきたいです。