一般企業が介護業界への参入に意欲

フランチャイズ事業として注目を浴びる

2015年頃から、大手企業が介護業界に参入するケースが増えています。ソニーや長谷工コーポレーションなど、日本を代表する企業が次々と参入し、グループ会社が介護事業を展開しています。

こうした動きを受けて、各企業も介護事業への関心を高めており、手軽に参入しやすいフランチャイズに注目が集まっています。

障がい者の就労支援事業などを展開する株式会社ジョブタスが、企業経営者に対して行ったアンケート調査によると、「今後フランチャイズ事業を行いたい業種」として、その32.7%が「福祉事業」と回答しました。

さらに、福祉事業に注目している理由を尋ねると「社会貢献性が高い」が87.5%、「行政のサポートが受けられる」50.0%、「ビジネスチャンスがある」が43.8%となったそうです。

近年は、消費者からSDGsや持続可能性などといった社会貢献性も重視されるようになり、各企業は福祉事業に目を向けるようになっているようです。

介護事業のフランチャイズとは?

フランチャイズといえば、コンビニエンスストアやハンバーガーショップなどを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、介護業界にもさまざまなフランチャイズがあります。

そもそもフランチャイズとは、本部が事業経営のノウハウや商標などを加盟店に与えて、そのロイヤリティを加盟店が本部に支払うシステムのことを指します。

その事業に対する経験がなくても比較的簡単に開業できるというメリットがある反面、独自性が出しにくいというデメリットがあります。

介護事業では、デイサービスや訪問系サービスなどでフランチャイズ展開している事業所が多いようです。いずれもそれまでに培った企業ノウハウなどを活用できるほか、商標を利用できるので利用者からの信頼感を得やすいといったメリットがあるとされています。

一方で利用者獲得のためには、本部ではなく各事業所の取り組みが重要になるため、いくらフランチャイズといっても、常にサービスの質向上に取り組む必要があります。

介護業界に人気が集まる理由

介護業界の市場規模は10兆円超え

超高齢化社会と呼ばれる日本において、介護事業は成長産業とする見方が強まっています。

矢野経済研究所によれば、2019年度の介護業界の市場規模は、10兆7,812億円に達しているとされています。そのうち、フランチャイズ展開している事業所が多い「通所介護」は1兆2,851億円、「訪問介護」は1兆28億円となり、非常に大きな市場になっています。

それに伴って関連企業の市場も活性化しています。

富士経済グループによると、介護関連製品業界の市場は、2020年の見込み額で7,996億円ですが、2030年には1兆944億円に達すると見込まれています。

特にリハビリ関連は今後10年で約800億円、フレイル関連は約300億円ほど市場が大きくなるとしています。

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このように、介護業界は高齢者人口の増加とともに市場拡大が続くとみられるため、他業種からの参入も活発になっているのだと考えられます。

政府が大規模化を推進

介護法人がフランチャイズ化することでもたらされるメリットとして考えられるのは、介護事業所の大規模化です。そもそも経営規模を大きくしていくためには、「利益幅を拡大するか」「コストを削減するか」の2択しかないとされています。

一般企業であれば、商品単価を上げて利益を増やすことができますが、介護保険が適用される事業については、制度によって報酬が定められているため、経営判断で利益を拡大することができません。

そのため、小規模の介護事業所の場合はコストカットを選択しがちですが、介護業務の多くは人による対面サービスが必須となるため、人件費を削ることはなかなかできません。

仮に人件費を削減して、人材の離職が進めば提供できるサービス量が減少して、得られる報酬も少なくなってしまいます。

こうした悪循環を断ち切るためにも、厚生労働省は「介護事業所の大規模化」を促進しています。

これまでの実証事業で、介護事業所の大規模化はサービスの質向上、業務の効率化、利用者の増加など、さまざまなメリットがあるとの結果が得られており、2023年の医療・介護の「総合確保方針」にも、大規模化を目指すことが明記されました。

MS&ADインターリスク総研は大規模化に舵を切った事業所への聞き取り調査を実施。それによると、トップダウンの経営時よりも人材の育成が進み、自主的な取り組みが増加して離職率も低下したという報告もされています。

各企業がフランチャイズ化を狙う!?今、介護業界が注目を集める理由
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フランチャイズ化の課題

事業所当たりの規模が小さくなるリスクも

しかし、フランチャイズ化によって、大規模化どころか各事業所が小さくなるリスクもはらんでいます。

たとえば、訪問介護事業所は人材配置基準などの参入障壁が低く、これまでさまざまな異業種からの参入が進みました。しかし、参入が進んだことで人材の確保が難しくなり、現状ではほとんどの事業所が拡大を図れていません。

日本総研によれば、訪問介護の一事業所あたりの平均利用者数は33人で、職員が20人以下の規模の小規模事業者が半数以上を占めていることが指摘されています。

利用者が少ないと、必然的に経営は不安定になります。東京都では毎年150ヵ所の事業者が入れ替わりを余儀なくされているそうです。

こうした現象は、コンビニや飲食のフランチャイズチェーンで起きている課題と似ており、今後介護のフランチャイズチェーンが増加して競争が激しくなれば、これまでの訪問介護と同様の事態を招きかねません。

フランチャイズ特有の問題を解消できるかがカギ

政府の方針や介護業界の市場規模から考えれば、今後大手企業によるフランチャイズ化が進む可能性は高いと考えられます。

しかし、フランチャイズ化した事業所が細分化され、地域内での競争が激しくなれば、事業所は大規模化どころか小規模事業者が乱立するリスクもあります。

また、飲食やコンビニのフランチャイズ店では、人材不足によって経営者による長時間労働などが問題視されています。もし介護フランチャイズでも同様のことが起きれば、介護サービスの質がより低下する可能性も否めません。

介護は利用者の命にかかわることでもあり、こうした労働環境などの問題が起きないように注視する必要があります。大手事業者による業務改善や、サービスの質向上への取り組みがうまく現場に活きるようなフランチャイズ化が求められるでしょう。

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