厚生労働省が複合型サービスへの参入意図を調査

訪問系、通所系事業所の多くが参入に前向き

2024年度の介護保険制度改正において、「通所介護+訪問介護」など複数の在宅サービスを組み合わせて提供できる複合型サービスが創設されます。

導入が半年後に迫った現在、昨年に厚生労働省の補助金により三菱総合研究所が実施した「複合型サービスが導入された場合に、参入するかどうか」を調べた調査結果(「地域の特性に応じた訪問介護サービスの提供体制のあり方に関する調査研究事業報告書」)に注目が集まっています。

調査結果によると、「複合型サービスが創設された場合、どのような条件であれば参入を検討したいと考えるか」の問いに対し、「参入を検討するつもりはない」との回答割合は、訪問系サービス事業所(n=2373)で25.2%(訪問介護事業所は24.5%)、通所系サービス事業所(n=1864)で17.2%(通所介護事業所は14.3%)でした。

つまり、訪問系、通所系ともに7~8割近くが参入に前向きであるという実態が分かったわけです。参入によって提供できるサービスが広がれば、事業所としての収入アップにつながります。できれば参入したい、と考えている事業所が多いようです。

しかし実際に参入するとなると、収入増が見込める一方で、現場の事業所では色々と課題・問題に直面するのも事実。その点も調査結果では触れられているので、その内容を吟味しながら複合型サービスのメリットや問題点について深掘りしてみましょう。

2024年度に導入される複合型サービスとは?

2024年度から始まる新サービスとしての複合型サービスとは、複数の在宅サービスを組み合わせて提供可能とするものです。例えば、デイサービス事業所が訪問介護を提供する、デイサービス事業所と訪問介護事業所が連携してサービスを提供したりするサービスなどを指します。

現行制度で複合型サービスというと、2012年度の介護保険制度改定で導入された「看護小規模多機能型居宅介護(2015年に名称変更)」が知られています。これは訪問看護と小規模多機能型居宅介護を合体させたサービスで、月額定額で手厚い介護、看護を受けられるというサービスです。

一方、2024年度からスタートする新サービスとしての複合型サービスは、主に「訪問介護」と「通所介護」を組み合わせたものが軸になります。つまり、訪問介護事業所が通所介護を、通所介護事業所が訪問介護を提供できるようにする、というわけです。

現行制度では、訪問介護事業所に地域内で屈指の経験・スキルを持つ介護人材がいても、勤務先の事業所が訪問介護事業所であれば、基本的に通所介護サービスには関われません。1つの事業所が複数のサービスに取り組めるようになれば、介護人材の有効活用にもつながるわけです。

介護分野ではマンパワーが足りない、と指摘されるようになって今や久しいです。「訪問介護+通所介護」の複合型サービスの導入により、地域内の介護人材が幅広く介護サービスに携われるようになり、人手不足を少しでも補おうというのが国側の意図と言えます。

現場の介護事業者が考える複合型サービスのメリットとは?

どのような条件であれば複合型サービスに参入を検討するか

先述の通り、複合型サービスに「参入を検討するつもりはない」と考える事業所は、訪問系で25.2%、通所系で17.2%でした。では残りの「検討するつもり」と考えている7~8割の事業所は、具体的にどんな条件であれば参入したいと考えているのでしょうか。

先述の調査結果(複数回答)によると、訪問系では「事業所の収入が増えるなら」(47.1%)、「職員が確保できれば」(46.5%)、「十分な利用者数が確保できる見込みがあれば」(33.9%)との回答が多く見られました。

通所系でも同様の結果になっていて、「事業所の収入が増えるなら」(56.0%)、「職員が確保できれば」(55.1%)、「十分な利用者数が確保できる見込みがあれば」(42.5%)が上位の回答でした。

訪問系、通所系ともに、「収入」「人員確保」「利用者数確保」を、参入するかどうかの検討において重要ポイントとみなしていることがわかります。特に突出して割合として多いのが「収入」と「人員確保」の2点。訪問系、通所系ともに、「利用者数確保」よりも10ポイント以上も高い数値となっています。

介護事業所が考える複合型サービスのメリット

では、訪問系サービスと通所系サービスを組み合わせた複合型サービスには、どんなメリットがあると各事業所は考えているのでしょうか。

先述の調査から、訪問系事業所と通所系事業所のそれぞれについて、割合の高い回答を提示しましょう(複数回答)。

  • 訪問系事業所・・・「本人の状況を踏まえた柔軟なサービス提供ができる」(59.8%)、「生活全般の把握とそれに基づくアセスメントができる」(54.9%)、「利用者の新たなニーズの把握ができるようになる」(48.6%)
  • 通所系事業所・・・「生活全般の把握とそれに基づくアセスメントができる」(63.3%)、「本人の状況を踏まえた柔軟なサービス提供ができる」(60.7%)、「利用者の新たなニーズの把握ができるようになる」(56.7%)

訪問系、通所系ともに、柔軟なサービス提供ができること、利用者の生活全般の把握がしやすくなること、新たなニーズが把握しやすくなることを上位回答として挙げています。

一方で、訪問系と通所系で大きな違いも見られます。「家族への介護方法の助言等ができる」との回答割合は、訪問系だと25.3%でしたが、通所系は47.4%と高い数値となっていました。

通所系サービス事業所は、利用者の自宅をスタッフが直接訪問しないサービス形態なので、家族とコミュニケーションを取る機会が少ないです。複合型サービスにより訪問系のサービスも行えるようになると、その点の問題を解消できると考えている通所系サービス事業所が多く見られます。

複合型サービスに参入する上での課題は?

訪問系、通所系とも、最多回答は「人材確保が難しい」

同じく先の調査結果では、複合型サービスに参入するにあたって、訪問系と通所系それぞれの事業所が考える課題についても調査が行われています。「訪問系と通所系サービスを組み合わせた複合型サービスの提供における課題(想定される課題)」を尋ねる質問の回答割合は、以下の通りです。

  • 訪問系事業所・・・「人材確保が難しい」(77.4%)、「人材教育・管理が難しい」(56.5%)、「業務時間管理・勤怠管理が難しい」(46.9%)
  • 通所系事業所・・・「人材確保が難しい」(74.8%)、「人材教育・管理が難しい」(58.6%)、「業務時間管理・勤怠管理が難しい」(54.0%)

訪問系、通所系ともに、数値こそ違いますが、上位3つの回答は同じです。「人材確保」「人材教育」「勤怠管理」の3点、つまり「人材」の面が課題として捉えられています。

特に「人材確保」は、訪問系と通所系ともに回答割合が7割以上と特に高い数値です。複合型サービスに参入できるかどうかは、人材を確保できるかどうかが大きく影響すると言えます。

来年度に創設される訪問・通所の複合型サービスに7~8割以上の...の画像はこちら >>

国側の意図と現場の実情との食い違い

来年度の制度改正における複合型サービス導入の国側の狙いは、1つの事業所で訪問・通所の両方のサービスを行えるようにすることで、限られている介護人材を有効活用しようという点にあります。訪問介護事業所の人材をデイサービスにも活用できるようにすることで、地域の介護ニーズを満たしていこうというわけです。

しかし現場の声としては、先のアンケート結果からも分かる通り、人材確保が最大の課題。

訪問系事業所が通所系サービスも行うとしても、もとの訪問サービスを提供している時点で人手が足りない状況だと、新たなサービスに進出することは難しいでしょう。現状では複合型サービスへの参入に前向きに検討していても、実際のところ明らかに人手が足りないことが判明したら、参入は取りやめるとも考えられます。

こうした状況を見ると、国側、現場の事業者側との間で、「介護人材が限られている」ことに対する見解のずれがあるようにも見受けられます。国側は介護人材が限られているので有効活用したいわけですが、現場の事業者側としては、介護人材が限られているので訪問系と通所系の両方に取り組む余裕がない、つまり有効活用できるほど余裕はない、という声も多いようです。

今回は2024年度から開始される複合型サービスについて考えてきました。制度改正後、実際にどの程度の介護事業者が複合型サービスに参入していくのか、引き続き注目していきたいです。

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