物価高騰が直撃!増え続ける介護施設のコスト
介護施設の約99%が物価高騰の影響を受ける
世界的な物価上昇が続く昨今、さまざまな業種が影響を受けています。もちろん介護業界も例外ではありません。
特に電気やガス、水道によるコスト高は顕著に表れています。
福祉医療機構の調査によると、原油価格や物価高騰による影響を受けたと回答した社会福祉法人は98.7%。特に水道光熱費が増加したと回答したのは96.8%に上りました。
そのうち、昨年度の光熱費が前年度比で20%以上増加したと答えた施設は、実に64.6%。30%以上増加したという施設も39.1%と、およそ4割に上っています。
経営の大原則は、コストと利益のバランスをいかに保つかという点にあります。そのため、食品業界などではコスト高を受けて、商品の価格を上げているのです。
一方で、介護サービスは報酬が定められており、経営判断で価格を変更することができません。そのため、コストが増加した分だけ利益幅を狭めます。このままコスト高が続けば、介護事業者が得られる利益は減少を続けることになりかねません。
介護施設のコスト削減には初期費用がかかる
水道光熱費などのコストを抑える最大の方法は、省エネ対策です。
東京都では地球温暖化対策をふまえて、介護施設のコスト削減に向けた省エネ対策を提言しています。
たとえば、LED照明の導入。東京都が提案して、LED照明を導入した施設では平均で年に84万円の電気代削減に成功しました(2021年時点)。
そのほか、次のような設備で省エネ対策を取ることが有効だとしています。
高効率給湯器の導入 入浴は電気やガス、水を使うため、コストが高くなりやすい業務の1つです。近年はエネルギー消費量を約30%減少させるタイプのものも開発されています。 節水機器の採用 蛇口やシャワーヘッドを最新式の節水タイプに変えるだけで約30~50%の節水になると報告されています。 空調設備のメンテナンス エアコンなどの空調設備はフィルターのメンテナンスをするだけで約5%の省エネになるとされています。また、省エネタイプにすると約27%のコスト削減につながります。いずれも効果が実証された対策ですが、基本的に設備投資などの初期費用がかかります。しかし、現状で既に高いコストを支払わなければならない状況であるため、事業者が積極的に設備投資に資金を投入できるかどうかには疑問が残ります。
介護人材確保にも悪影響か?
賃上げに歯止めがかかる可能性も
現在、介護事業所は職員の賃金アップや労働環境の改善、ICT設備の導入や活用を求められています。
なかでも、2022年に岸田政権がエッセンシャルワーカーの処遇改善を掲げたことは記憶に新しいでしょう。
こうした取り組みは徐々に成果を出しつつあります。介護職員の賃金は上昇傾向にあり、これが介護職の新たな魅力につながり、人材不足を解消する一つの手段だと考えられています。
しかし、物価高騰によって、利益が減少すれば人材に支払う資金も乏しくなります。
前述の福祉医療機構の調査によれば、2022年度のサービス活動収益の実績は、前年度(2021年度)比で増加した施設が15.7%なのに対し、減少した施設は27%でした。
また、サービス活動増減差額※は、増加した施設が22.5%、減少した施設が44.8%。。このように、多くの施設はコスト高などの影響を受けて、減収を強いられており、賃金アップが困難になる可能性も否めません。
※福祉・介護サービスだけの収益を表す
他産業に人材が流出するリスクが高まる
厚生労働省は、介護人材確保に向けて、他産業からの流入や中高年採用などを1つの柱としてきました。
『令和3年度労働実態調査』によると、介護人材の75.7%が中途採用で、前職は介護や福祉以外の仕事をしていた人が63.1%と最多となっています。
一方、ポストコロナに向けて他産業も賃上げを実施し、30年ぶりの高い賃金上昇が見込まれています。
そのため、各介護事業所で賃上げの動きが弱まれば、介護業界に流入する人材の流れも弱まるともされています。
また、他産業の賃金が上がっていけば、現在従事している介護職が他産業へと流れるリスクもあります。これまで高まっていた介護人材の定着に、コスト高が水を差すかもしれません。
人材確保に向けた対策
現在就業している職員の満足度を高める
前述の介護労働実態調査によると、現在就業している介護職員の約5割が現在の仕事にやりがいを感じており、約7割が働き続けたいと回答しています。
さらに、離職率は年々低下し、介護職員の満足度も徐々に高まりつつあります。つまり、現在就業している介護職員の多くは、就業意欲を高く保っているともいえるでしょう。
一方で、約4人に1人は賃金に対して不満を抱いているのも事実。コスト高によって賃金アップが見込めない今、できる限り介護職の仕事に対する満足感を高めていくことが大切ではないでしょうか。
そのために有効だと考えられているのは、介護職のキャリアパスです。キャリアパスとは、キャリアを段階的に積んでいける仕組みのことで、主に役職が上がるごとにどのように賃金が上がっていくのかなどを明確に見える化したものを指します。
各事業所での取り組みが大切になりますが、行政でも介護職のキャリアに応じた支援などを行っています。
たとえば、東京都では「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」を設けて、キャリアの段位が上がるごとに手当が支払われるなどの優遇措置を設けています。
このように、職員のレベルアップに対して、具体的な報酬アップなどを明示することで、やる気を継続して就業を継続する意欲につながるとされています。
若手人材への配慮も必要か
他産業からの流入が多いということは、逆にいえば新卒採用などの人材がなかなか定着していないことを意味しています。今後、介護事業所では若手人材をいかに定着させるかがポイントになるでしょう。
浜銀総合研究所は、独自のアンケート調査を行い、「労働時間・休日等の労働条件が悪かった」を理由に介護職を辞めた人は、16~29歳の男女で比較的高くなっていると指摘しています。
一方、帯広大谷短期大学の研究報告では、離職する若手の多くが、介護系の大学や専門研修期間を出ていない点に注目しています。この報告によれば、まったくの未経験者や介護職員初任者研修といった短期間の学習期間しか経ていない者は、不規則な勤務や一人夜勤といった夜勤体制、夜勤回数などの負担が大きくなりやすいとしています。
つまり、十分なフォローができないままタイトな勤務体制が慢性化していると、若手人材は離職しやすい傾向があるのです。
若手人材に対しては、いきなり夜勤などを任せるのではなく、キャリアパスを明確にしたうえで、徐々に職場環境に慣れさせていく工夫が必要なのかもしれません。
