電動車椅子、介護ベッドの事故は毎年必ず一定数発生
独立行政法人製品評価技術基盤機構が最新の調査結果を発表
8月31日、独立行政法人製品評価技術基盤機構(通称NITE(ナイト))が、電動車椅子と介護ベッドによって生じた事故に関する調査結果を発表しました。
報告書によると、2013年から2023年7月末までの約10年間に、通知のあった事故件数は電動車椅子が52件、介護ベッドが49件の合計101件。そのうち死亡事故は49件で、約半数に上っています。
2023年は電動車椅子の事故が例年よりも多く発生しています。7月末までの間に電動車椅子の事故は8件(うち死亡事故は6件)発生しましたが、2022年は年間での発生件数は4件だったので、上半期だけでそれを2倍近上回っているペースです。
高齢者の電動車椅子、介護ベッドによる事故は、使用者本人が気をつけるだけでなく、周りの人が気を配ることも大事です。施設利用者が使用していることも多いので、介護職も事故を防ぐための知識は身に付けておく必要があるでしょう。
電動車椅子、介護ベッドの種類と特徴
電動車椅子とは、電動モーターにより自走できる車椅子のことです。手元にあるレバーで操作でき、利用にあたって特に免許や届け出などは必要ありません。
電動なので一般的な車椅子よりも高価ですが、介護保険適用によりレンタルできます。本来の貸与費用の1~3割(利用者の所得により変化)でレンタルできますが、保険適用となるのは要介護認定で「要介護2」以上の認定を受けた人です。要支援1~2、要介護1の人は、例外を除き原則として対象外です。
電動車椅子は手でこぐ必要がないので、握力・腕力が弱い人でも楽に利用できる点が大きな特徴です。また、介護する側にとっても、手で押さなくてもよいので介護負担を減らせるという利点があります。
一方、介護ベッドとは「特殊寝台」とも呼ばれ、利用者の動作を補助してくれる機能を持つベッドです。
1つのベッドが何個の機能を持っているかは、搭載されているモーターの数によって異なります。1モーターベッドの場合だと背上げ機能または高さ調節機能のみを持ちますが、3モーターベッドは背上げ、高さ調節、膝上げの機能すべてを持つ多機能型です。さらに寝返りも補助できる比較的新しいタイプの4モーターベッドもあります。
介護ベッドを利用することで、寝たきりの人も起き上がりや膝上げ、寝返りなどができ、体を自力で動かせなくても体の血流を良くし、長時間同じ姿勢のままになってしまうのを防げます。介護する側にとっても、体を起こしたり、膝を曲げたりすることを手作業でする必要がなくなり、負担軽減が可能です。
電動車椅子、介護ベッドで起こりやすい事故とは?
電動車椅子は転倒・転落が多く、電車と接触する事故も多数発生
NITEの報告書によると、2013年から2023年7月末までの間に電動車椅子によって生じた事故(合計52件)の被害内容は以下の通りです。
- 側溝や川などに転落・・・17件
- 踏切で電車と接触・・・15件
- 下り坂や段差などで転倒・・・12件
- 火災・・・3件
- その他・・・5件
転落・転倒による事故が合計29件発生しています。側溝や川での転落事故は柵などが設置されていれば防げますが、田んぼの用水路などもある地域では、無い所も少なくありません。柵のない側溝・川沿いを通行中に操作ミスをすると転落します。転倒するケースとして多いのは、下り坂の走行時。下り坂を走っているときに急に操作スティックを動かしてしまい、バランスを崩して横転するのです。
また、踏切で電車と接触するケースも多いです。
介護ベッドでは「隙間に挟まる」が圧倒的に多い
介護ベッドにより2013年~2023年7月末までの間に生じた事故の原因は以下の通りです。
- 隙間に挟まり・・・22件
- 転倒・・・7件
- 火災・・・6件
- ベッド下に挟まり・・・4件
「挟まる」事故だけで29件に上り、全体の過半数を占めています。介護ベッドでの「挟まる」事故は、ベッドの脇に設置され、寝返りを打っても横に落ちないようにしたり、手すりの役割を果たしたりする「サイドレール」で起こりやすいです。サイドレールに頭や手を挟み、それが事故につながります。介護ベッドの高さ調節をする際の操作ミスなどにより、ベッドと床の間に挟まれるという事故も多いです。
また、モーターの過熱、電源コード・プラグの異常により、介護ベッドが火災の原因になるケースもあります。モーターから異常な音がする、モーターが異常に熱くなっている、電源コードや電源プラグが折れ曲がったり破損していたりする、といった事態が生じていると、火災発生のリスクが高まります。
事故を防ぐために介護職として意識すべきことは
電動車椅子の利用において注意すべきこと
介護職は利用者が電動車椅子・介護ベッドによる事故が生じないように、最大限の注意を払う必要があります。
利用者が電動車椅子を使用する場合、使い慣れていないときは同行を申し出て見守り、支援を行います。また、電動車椅子で外出する場合は、周辺の道路状況を事前に調べ、道路標識・交通ルール、安全な道などを確認することも大事です。
さらに電動車椅子は道交法では歩行車扱いなので、車道は走れません。この点も注意喚起が必要です。踏切を通るときは、車輪の向きを踏切内の溝に対して垂直で進むように気を付けます。
移動中に方向転換や曲がるときは、急ハンドルを切らないことも重要です。電動車椅子はハンドル部分がスティック状になっていることが多く、楽に動かせる反面、急に力を入れて横に倒すと急ハンドルになります。利用者が操作ミスを生じさせないように、適宜見守り・注意喚起をする必要があるでしょう。
介護ベッドでの事故をなくすには
介護ベッドに取り付けられるサイドレールの隙間は、2009年のJIS規制改正により小さくなったものの、事故の発生状況を見ると依然として危険であるのは間違いありません。
1つポイントとして、設立年が古い老人ホームなどでは、2009年以前に導入した介護ベッドを現在も設置し、より隙間の大きいサイドレールをそのまま使用している可能性がある、という点を指摘できます。介護職の方は、自分の勤務先の施設・事業所のベッドの制作年度などを確認してみると良いでしょう。
実際に介護ベッドの操作をする場合は、スイッチのボタンを押す前に必ず入居者の手足の状態を確認します。また、ベッドの周りに物が置かれていないかをチェックすることも重要です。ベッド周りが散らかっていると、つまずいたり、物の上に足を乗せて滑ったりして転倒の原因となります。
さらにベッドの高さの調節に問題がないかのチェックも重要です。
今回はNITEによって報告された電動車椅子と介護ベッドの事故状況をもとに、起こりやすい事故の原因とその対策について考えてきました。介護関連の危機は活用すると便利ですが、使い方を誤ったり注意を怠ったりすると、命に関わる大事故にもつながるので注意が必要です。