2024年度介護報酬改定で処遇改善加算が変わる?
3つの処遇改善加算
介護人材確保のため、毎年のように課題として挙げられる賃金アップ。これまで政府は3つの処遇改善加算を柱にして、介護職員の給与アップを支援してきました。
①介護職員処遇改善加算(処遇改善加算) キャリアアップの仕組みや職場環境の改善などを要件に、介護職員に支払うための報酬を得られる最も基本的な処遇改善の制度 ②介護職員等特定処遇改善加算(特定処遇改善加算) 経験・技能のある職員に対して重点的に報酬を上乗せする制度。しかし、こうした処遇改善加算は、現場サイドから「事務負担が大きい」という声が多く上がっていました。そこで、これらの事務手続や添付書類の簡素化を進めるとともに、加算制度の一本化について検討を進めるため、現在厚生労働省で議論が交わされています。
一本化が議論される背景
この議題について、分科会に参加した専門家から「3つある処遇改善加算を一本化すべき」という意見が数多く上がりました。
たとえば、処遇改善加算が各施設が設けている賃金テーブルの改善につながっていないと指摘されています。賃金テーブルとは、賃金や給与を決める基準になる表のことです。おもに従業員から幹部レベルまで等級に振り分け、その等級を基準にして給料を決める仕組みになっています。
しかし、現状では処遇改善加算で各施設に給付された報酬は、基本給ではなく手当として支給されるケースが多くを占めています。ボーナスなどは基本給によって計算されることが多く、基本給が低いままだとボーナスもそれに応じて多くなりません。
一方で、処遇改善加算が基本給に組み込まれた場合、利用者負担や保険料負担が増加するリスクも指摘されています。介護職員と利用者の立場からメリットが異なるため、仮に一本化するとしたら慎重な制度設計が求められます。
現在の処遇改善加算が与えた影響
ベースアップ等支援加算で基本給がアップ
処遇改善加算と特定処遇改善だけの頃は、職員から「適切に給与に反映されていないのではないか」という指摘もありました。これは職員側の誤解ですが、処遇改善加算で得られた報酬は、必ず職員の給与に反映しなくてはなりません。
しかし、人員配置基準より多くの職員を採用している施設の場合、加算で得られる報酬を人数分で割らなくてはならないため、相対的に昇給額が小さくなるという問題がありました。
また、上記2つの加算は基本給や毎月支払われる手当などの制限がなく、ボーナスの一部に組み込まれたりすることもあったため、職員が賃金アップを実感できないケースもあったのです。
こうした状況を打開したのがベースアップ等支援加算でした。厚生労働省がまとめた資料によれば、ベースアップ等支援加算を取得している施設・事業所における介護職員の基本給を、同加算の取得前(2021年12月)と取得後(2022年12月)で比較すると1万60円増(+4.4%)となり、平均給与は1万7,490円増えていることがわかりました。
このように、3つの処遇改善加算を併用することで、着実に介護職員の給与はアップしているのです。
取得状況は各加算で差がある
これら3つの処遇改善加算ですが、それぞれ取得率には差があります。
2023年4月時点で、処遇改善加算は92.1%、特定処遇改善加算は77%、ベースアップ等支援加算は93.8%でした。
特定処遇改善加算が低くなっているのは、介護福祉士などの有資格者を対象としており、事業所内で複数の取り組みを行わなければいけないなど、要件を満たすことが困難だからだと考えられます。
加算を算定できない施設は、少ないとはいえ約1~2割程度存在しているのは事実。当然ながら1つも算定していない事業所で働く職員の給与はなかなか上がりません。
厚生労働省でも、できるだけすべての事業所が算定することが望ましいとしていますが、一部の職員には国の支援が行き届いていないのが現実です。
一本化のメリットとは?
事務作業の簡素化
現在、3つの処遇改善加算については、簡素化を行い、事業所の負担軽減が図られています。
処遇改善加算を取得するための事務作業には大きく分けて4つのプロセスがあります。
このなかで、改善前はおもに次のような作業が必要でした。
- 事前計画書と実績報告書に同様の情報(賃金額等)を記載
- 加算以外の部分で賃金を前年度から減額していないことが必要
- 介護報酬として事業所に支払われる額よりも、実際に事業所が従業員に支払う額の方が多いこと
- 複数の事業所を運営している場合、事業所ごとに内訳(賃金額等)を記載
そこで、現在は計画書の段階では賃金を前年度から減額しないことを義務づけるのではなく、誓約するだけでOKになっています。また、実績報告書は、事業所全体の賃金総額と、3つの加算の支払総額を確認するよう簡素化しました。
しかし、それでも事務作業に対応できない施設があるようです。
算定要件をどう考えるか
現在、3つの加算はそれぞれ算定要件が異なります。特に特定処遇改善加算は相対的に低くなる傾向があります。
これらを一本化すれば、算定要件が複雑化する可能性もあります。基準をどこに合わせるかによっては、算定率が低くなってしまうリスクもあり、本末転倒となる可能性もあります。
そのため、どのような仕組みで一本化するのか現場サイドの意見も取り入れながら、慎重に考える必要がありそうです。
また、利用者が減少すると、事業収入が減少し、職員の給与を減額せざるを得ないこともあります。そうなると処遇改善加算を取得できなくなり、さらに給与が下がるという悪循環も考えられます。こうした事業者はあくまで一部ではありますが、介護業界から人材が流出してしまうリスクもはらんでいます。
こうした事業所に対して、何らかの指導や支援を行えるような仕組みも必要ではないでしょうか。