介護人材確保を支援する自治体の取り組み
東京都で行われる奨学金補助制度
全国の自治体では、介護人材の確保に向けた支援事業が展開されています。
東京都では、介護職員の確保・育成・定着を図るため、2018年度から「介護職員奨学金返済・育成支援事業」を実施。この事業では、都内の介護施設などが、介護職員を常勤(有期雇用を除く)として採用した際、大学や専門学校に在学していた方の奨学金返済のため、年間で最大60万円を補助します。
この補助金を事業所が受け取るためには、介護職員の育成計画を定める必要があり、ほかにも以下のような要件が定められています。
- 介護職員処遇改善加算Ⅰを取得していること
- 職員に対する資格取得支援制度を設けていること
また、補助対象者は1年以内に介護職員初任者研修を修了、3年以内に実務者研修を修了、4・5年目に介護福祉士試験を受験する(合否は問わない)ことなどが条件とされています。
つまり、採用した職員と事業所が計画的にキャリアアップを目指すことが補助を受けるポイントになります。
各都道府県で進む独自の支援策
東京都だけでなく、そのほかの都道府県でも介護職員のキャリアを支援する事業を展開しています。
たとえば、神奈川県では介護サービスの質向上や人材育成、待遇改善などに積極的に取り組む事業所に奨励金100万円を交付する「かながわベスト介護セレクト20」を2016年から行っています。
この事業では、事前にエントリーした介護施設の中から特に優秀だと認定された事業所を20施設選出し、奨励金とともに「かながわ認証」が授与されます。
一方、埼玉県では介護職員の給与体系を作成するよう事業所に促すため、各施設の給与モデル表を公表する事業を実施。給与モデル表とは、大卒初任給16万9,500円、主任手当は1ヵ月あたり10,000円、介護福祉士手当は1ヵ月あたり15,000円などの細かな給与の規定を明確にしたものです。
この情報が公表されることで、作成していない施設がわかりやすくなるので、これから介護施設に就職しようとする際の参考情報になります。
これまでの調査で給与モデル表がある事業所は、昇格した場合の報酬や年収の目安を把握できるようになるため、長期の雇用勤続や仕事へのモチベーションアップにつながることが報告されています。
このように、各自治体が独自の取り組みを行う背景には、介護報酬制度のミスマッチがあるからです。現在の制度では、利用者の要介護度が改善するにつれて介護報酬が減るケースが多いため、事業所が取り組みをしづらい環境にありました。
特に人材育成については、各事業所の取り組みに対する補助などが少なく、何をしたらいいかわからない施設も少なくありません。そこで、各自治体が報奨金や情報公開制度などを設け、介護職員の採用・育成について積極的に取り組めるように後押ししているのです。
介護人材確保に向けた課題
離職率は横ばいだが、採用はパートが多い
では、介護職員の現状をみてみましょう。
介護労働安定センターによる「介護労働実態調査」によると、介護職員の採用率は16.2%、離職率は14.4%となりました。
ここ10年で離職率は低下傾向でしたが、ここ2年は横ばいの傾向が続いており、底打ちのような状況になっています。
また、採用率と離職率の比較でみると、離職率よりも採用率が高い傾向があります。双方の差を示す増加率は1.8%。採用率・離職率を常勤雇用とパート・アルバイトの比較でみると、常勤よりもパート・アルバイトのほうが高い傾向があり、常勤では採用率14.3%、離職率13.6%であるのに対し、パート・アルバイトでは採用率21.6%、離職率18.3%でした。
このことから常勤の正社員雇用は相対的に低く、パート・アルバイトの職員たちで何とかまかなっている現状が浮かびます。
離職する理由の多くは賃金ではなく環境
介護職員の離職理由については、賃金ではなく労働環境にあるとされています。
まず勤労意欲については、「今の勤務先で働き続けたい」と回答した割合が58.2%と半数を超えています。
一方、労働者の労働条件・仕事の負担に関する悩み等については、「人手が足りない」が52.1%で最多。次いで「仕事内容のわりに賃金が低い」が41.4%。労働条件に関する悩みは「賃金が低い」ことよりも「人手が足りない」ことのほうが10ポイント以上、上回っていました。
さらに、離職理由を尋ねてみると、全体では、「職場の人間関係に問題があったため」が27.5%で最も多く、次いで「法人や施設・事業所の理念や運営の在り方に不満があったため」の22.8%、「他に良い仕事・職場があったため」が19%、「収入が少なかったため」18.6%、「自分の将来の見込みが立たなかったため」15%となっています。
中でも男性は「法人や施設・事業所の理念や運営の在り方に不満があったため」が30.3%、女性は「職場の人間関係に問題があったため」が26.9%で最も多くなっていました。
この結果から、男女ともに労働環境に関する悩みが離職につながりやすいと考えられます。
自治体の支援を活用する方法
まずは要件をチェックしよう
介護人材を確保するうえで、労働環境の整備は非常に重要です。そのため、各自治体の補助金も育成面などの取り組み強化を条件にしているのです。
そのため、介護報酬制度と同様にさまざまな要件が定められています。ただし、いずれも介護報酬制度と比較すると、要件のハードルは高くありません。
一方、こうした支援によって得られた報酬は使途を明確にして報告しなければならないこともあります。他の用途に使用することができない補助制度の場合は、事業所に何が不足しているのかを明確にして、適切に活用することが求められます。
人材を補充するのではなく育てるマインドが大切
現状、介護業界はパート・アルバイトの人材で支えられています。なかには十数年にわたり、パート・アルバイトとして勤務する人も少なくありません。
こうした人材の多くは女性で、家庭との両立をかねて勤務しています。長く勤務しているパート女性を正規雇用につなげることが望ましいですが、103万円・130万円の壁などのハードルによって敬遠されがちです。
これら扶養控除の壁については、現在政府でも対策が検討されていますが、事業所としても家庭との両立を実践できるような時短勤務やフレックス制などを導入するなど、さまざまな対策が考えられます。
パート・アルバイトは不足する人材を補うという考え方で採用されることがほとんどですが、今後はパート・アルバイトで入った人材のキャリアアップを支援し、事業所内での雇用の安定化を図ることができるのではないでしょうか。