来年度介護報酬改定に向け同一建物減算がより厳しく
第239回社会保障審議会・介護保険部会で議論
来年度の介護報酬改定に向けて、社保審の介護保険部会での議論が大詰めを迎えています。そんな中1月22日の会議では、老人ホームに併設している介護サービス提供事業所に対する報酬見直しが議論されました。
今回対象となったのは併設型の居宅介護支援と訪問介護です。
居宅介護支援については、これまでは外部の事業者、併設する事業者ともに報酬額は同じでした。しかし次年度からは、併設型は報酬ダウンとなります。
訪問介護については、「事業所と同一の敷地・または隣接する敷地にある建物の居住者へのサービス提供の割合」という新しい基準が導入。具体的には、提供するサービスの9割以上が同じ敷地または隣接する敷地に住んでいる人を対象とする場合、報酬額が減額されるルールが追加されます。
併設する事業所に生じる同一建物減算
介護サービス提供事業所とその利用者が居住している建物・敷地が同じである場合に、介護サービスの報酬額が減算されることを「同一建物減算」といいます。
例えば、住宅型有料老人ホームの1階部分に訪問介護事業所がある場合、「併設型」の事業所と呼ばれます。その事業者が、同じ建物に住む入居者にサービス提供した場合、同一建物減算が適用されるわけです。
同一建物減算が導入された理由は、「同一建物・敷地に住む利用者へのサービス提供」と「地域内に幅広く行うサービス提供」との公平性を保つためです。同じ建物にあるほうが少ない移動負担で効率的にサービスを提供できるので、報酬額を同じにすると、公平とは言えなくなります。
例えば訪問介護であれば、併設型だとヘルパーは事業所から利用者のいる居室まで、館内を歩いて移動するだけで到着できます。一方、民家で在宅介護を受けている要介護者を利用対象とした独立型の介護事業所の場合、車や自転車で時間をかけて利用者の場所まで移動します。外部の方が移動の手間・コストがかかっているので、報酬面で有利としているわけです。
居宅介護支援、訪問介護で同一建物減算がどのくらい増える?
併設型の居宅介護支援事業所に5%の減算が発生
併設事業所の報酬を下げる同一建物減算は、これまで訪問介護、夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、通所介護、地域密着型通所介護、通所リハビリなどに適用されています。在宅介護サービスのほとんどに適用されているわけです。
一方、利用者負担がなく全額介護給付費で報酬が賄われる居宅介護支援については、例外とされていました。併設型も外部型も報酬は同じとされていたわけです。
しかし2024年度からは同一建物減算が導入され、報酬額は所定単位数の95%とされます。具体的には以下の利用者にサービスを提供する場合に適用されます。
- 居宅介護支援事業所の所在する建物と、「同一の敷地」「隣接する敷地内の建物」に利用者が居住している場合。
- 居宅介護支援事業所の1ヵ月当たりの利用者が、同一の建物に20人以上居住する建物(上記を除いたもの)に居住する利用者。
この新制度施行により、併設型居宅介護支援事業所は端的に報酬減となります。
訪問介護では、入居者の9割以上の利用で12%の減算に
訪問介護は先述の通り、現行制度でも同一建物減算があります。内容は以下の通りです。
以上の3点に、2024年4月以降に以下の点が追加されます。
- 正当な理由なく、過去6カ月間に提供したサービスの提供件数のうち、同一敷地内にある建物もしくは隣接する敷地内にある建物に居住する人に提供された割合が、100分の90以上である場合・・・12%の減算
つまり、当該訪問介護事業所が提供する総サービスのうち、同じ敷地または隣接する敷地に住んでいる人に提供された割合が9割以上の場合に12%の減算とされます。
老人ホームに併設されている事業所であっても、地域に住んでいる要介護者に広くサービス提供している場合もあります。そのようなケースと、提供するサービスの9割以上を同じ敷地・隣接する敷地に住んでいる人に提供しているケースを、報酬面で区別しているわけです。
背景にある囲い込み事業者への対策の必要性
囲い込みとは
囲い込みとは、住宅型有料老人ホームやサ高住などに併設する介護事業者が、介護報酬増の目的で過剰な介護サービスを提供することです。
老人ホームに入居していて、かつそのホームに介護事業所が併設していれば、外部の事業者を利用すると契約に手間も時間もかかるので、入居者としては併設型の事業所を利用することが多いです。
また、併設型の介護事業所は老人ホームと運営元が同じであることも少なくありません。つまり、併設型の介護事業所の介護報酬は、老人ホームを含む運営元全体の収益につながるケースが多いわけです。
老人ホームと併設型介護事業所の両方を運営している事業者としては、老人ホームからの収益だけでなく、併設する事業所からの収益も上げたいと考えます。

しかし収益向上への意識が強くなりすぎて、要介護度別に制度上規定されている利用限度額ぎりぎりまで、必要も無いのに入居者に介護サービス利用をしてもらって、より多くの報酬を得ようとする事業者もいます。こうした、過剰なサービスを提供して不当に利益を上げる行為は、「囲い込み」と呼ばれています。
同一建物減算を厳格化することは、こうした囲い込みを減らすことにつながります。囲い込みによるサービス提供には同一建物減算が発生するので、それを厳格化・強化して減算額が増えれば、囲い込みをして得られる収益が減るからです。より公正なサービス利用を促すという点は、同一建物減算厳格化の大きな理由と言えます。
併設型事業所が悪質な囲い込みをしているかどうかの見極めも重要か
囲い込みは、過剰なサービス利用をさせて不当に収益を得ることなので、問題行為であることは間違いありません。
なお、今回の同一建物減算の厳格化に関する社保審・介護給付費分科会の議論では、利用者負担の無い居宅介護支援が対象とされています。この点は利用者保護というより、純粋に介護給付費抑制が目的といえます。つまり、併設型の居宅介護支援の報酬額を減らすことで、介護保険財源の負担を減らそうとしているわけです。
訪問介護については、利用者自己負担が1~3割あるので、同一建物減算の厳格化は利用者保護(自己負担を減らす)にもつながる施策と言えます。
ただし、居宅介護支援、訪問介護の介護事業所が併設することには、利用者側のメリットもあります。
外部の事業者をいちいち探して連絡しなくても良いので、契約・利用に手間がかかりません。また、事業所が近くにあるので、すぐに介護職などが駆けつけることができ、特に介護度が高めの方にとっては便利です。
併設型の介護事業所であっても、入居者に対して過剰な介護サービスを提供しない優良事業者もいます。優良事業者であれば、利用者は事業所が併設することで得られるメリットのみを享受でき、介護保険財源を不当に圧迫することもないでしょう。
以上の状況を踏まえると、同じ併設型でも、囲い込みをやろうとする事業者とそうでない事業者とを見極める仕組み・方法を検討することも重要かもしれません。
今回は居宅介護支援、訪問介護の同一建物減算が厳格化されるニュースについて考えてきました。