外出時に一番困るのはオムツのこと
ああ、またいいものに出会ってしまった。今度こそ、ボクの今の悩みを解消してくれる一品になるんじゃないかと期待を寄せている。
ボクの悩みのいくつかをこの場でもお伝えしてきたが、なんと言っても「排泄」はかなり大きなウエイトを占める問題だ。
介護される側も介護する側も、いつでも頭の片隅にある問題だと言っても過言ではない。
ボクやボクを介護してくれる人たちは、オムツメーカーの方からたくさんレクチャーを受け、正しいオムツの当て方についてはかなり勉強してきた。オムツはそう、漏れるからって大きいものにすればいいわけじゃない。
もう数年前になるか、ボクのオムツがどうしても漏れてしまうことがあった。
そのとき「サイズが小さいんじゃないですか?Lを用意してください」そう言ってきた事業所があった。テープ式のおむつをLにして欲しいとの要望だ。そう言われたのでLを用意するが妻としては「あんなにオムツマイスターに考えてもらったサイズがMで、大きくてもMLだったのに本当に小さいのかなあ」半信半疑である。でも、漏れることは確かだ。
レクチャーによれば、股間(足の付け根)に隙間がないようにギャザーを合わせて上を被せる。「とにかく隙間ができないように。」そう習ったと同時に「MLサイズでは大きすぎるかも」と言われてきた。
サイズが大きすぎると余分な隙間が生まれる。先ほどもそんな説明をしたが、事業所の方も介護のプロだ。
オムツっていうのは厄介なもので、その他にもパットを別に用意してその「隙間」ができないように工夫する。相手は水ものだ。流れを堰き止めるにも体のいろんな起伏や曲線にうまくマッチしないこともあるんだろう。逆に多くのパットが漏れを誘発してしまうことだってある。
オムツの困りごとは、外出時に多く生じる。昔は、オムツをしている人なんてあまり外出しなかったのかもしれない。最近はようやく少しずつ改善されてきたが、外のトイレでボクがオムツ替えができる場所はほとんどない。
空港や、大きな駅のトイレ、高速道路のパーキングエリアでは見かけるようになったベッド付きのトイレ。
さらに、外泊となれば防水のパッドを持参したり、大量の新品おむつ、処理用のビニール袋だって持参する。大荷物だ。紙オムツという素晴らしい発明品のおかげで、ボクも介護する側もずいぶん楽に過ごしているが、もし、これがあったら…と思うものを紹介してもらった。
排尿問題が大きく変わるかも
その名も「拡張ボディTime Shift」(イントロン・スペース株式会社)。文字通り、膀胱を外部に拡張させたようなものだ。
以前から類似したものは知っていた。コンドームを装着したようなサックの先にカテーテル(管)がついていて、それを車椅子脇に備えつけられた袋に流すもの。またはその管を自分のふくらはぎあたりに袋を装着させて上からズボンを描く。おむつ替えの心配がなくなるので、飛行機などの長距離移動時の心配もなくなる。
サックは大、中、小のサイズはあるものの、装着に慣れるまではかなり漏れる。
それが、拡張ボディ(外付け人口膀胱)は、直接陰茎の上に被せる。正確にいえば陰茎の上に滑り止めのためのリングを装着し、その上からつける。あとは専用のパンツを履くだけ。
さらにはスライムのような柔らかい手触りで硬さを感じない。人体のどこよりも柔らかく、伸びる素材なのだ。装着した違和感もなかった。尿が出れば、その拡張ボディに溜まる。オムツやパットのように吸収型でもなく、尿を管で集める集尿型とも違う。感覚としては体の一部のようなのだ。
尿失禁に悩んでいる人だけでなく、長時間トイレに行けない環境の人やイベントなどでトイレに行きにくい時など、さまざまな用途に利用されることを想定している。宇宙飛行士も近い将来これを使っているかもしれない。
尿が出た後は自分のタイミングでトイレに行って、拡張ボディ内の尿を流せばいい。ごく普通の排尿の姿勢でトイレに流せる。車椅子のボクは一度トイレに座った状態で排尿するようにそれを流した。
オムツがなければ、ベッド付きのバリアフリートイレを探す必要もない。これが実際使えれば、今までの排尿問題も大きく変わっていくだろう。ただ、まだ寝たきりの方用に完全にできていないのでこれからの改良が楽しみである。これから女性用も開発されていくという。
あったらいいながどんどん現実に
ボクが一番この商品に惹かれたのは、今まで漏れと戦ってきた黒歴史もあるのだけど、一番は「尊厳」だ。誰もオムツで過ごしているなんて言いたくない。大袈裟な器具でもない。自分の体の一部としてパンツを履き、用をたせることだ。
今まで拡張ボディという研究を色々な場所で見てきた。失った手や足を脳の力で動かすロボットや、話ができない自分の昔の声を再現したり、自分の力以上の力を補えるロボットだったり。すごい勢いで未来にこういうものがあったらいいな、が現実の世界にやってきている。
大学の研究室で取材したパワースーツは商品化され、我が家にもやってきた。妻がボクを介護するときに装着したら腰を痛めない商品だ。実際普通より力が入らないらしい。研究室で見ていたときは、天井から大きなパイプで空気を送ってパワーに変えていた大掛かりな装置だったが、実用化されたそれは実にコンパクト、軽いし使いやすいものになっていた。電気すらいらない。
このように、大学やベンチャー企業が斬新な商品を次々世の中に生み出している。この拡張ボディも東京工業大学発ベンチャーの企業で研究された品物だ。
イントロン・スペース株式会社の社長さんは、トイレメーカー出身の筋金入り。話を聞いていると大体ボクのトイレ問題は把握されていた。わかっている人が作ってくれなければ意味がない。
笑い話としてよく友人と話すのだが、「バリアフリートイレ入ったら車椅子で届かない位置に棚があったりさあ、子供を座らせておく椅子がドアの鍵にちょうど触れる位置でさあ、トイレしている間中子供がいつ鍵を開けるか気が気じゃなかった」なんてこと。きっと車椅子に乗ったことがない人や子供のことを知らない人が設計したんだろう。使う人のことを考えて作ったのか?って思うことが結構ある。
本当は笑い話どころの問題ではない。どんなことで困っているか、またどんな人でも使えるものを作ってくれたらどんなに良いか。期待は大だ。
これからも進化する拡張ボディを応援したいと思っている。
