最先端の研究が終結する「福祉機器開発最前線」
10月5~7日に東京ビッグサイトで国際福祉機器展が行われた。毎年足を運んでいるが、今年も新しくて便利な福祉機器はないかと探しに行ってきた。
今回は「福祉機器開発最前線」というコーナーを中心に取材。
このコーナーには、現在各大学で研究や開発の真っ最中のものが集まる。大学発のベンチャー企業を立ち上げて商品化しているものだったり、現在進行形で商品化を進めているものもある。
新しい物を研究したりつくり出している人たちを、国際福祉機器展の主催者が招待して展示しているコーナーだ。
そこに、いつもお世話になっている東京大学先端科学技術研究センター・一般社団法人のデジタルステッキが招待され出展。
VR旅行やVR吹き矢などを福祉の世界でどう活用しているか、その可能性についてなどを紹介していたのだ。毎日数百人がそのブースにやってくるほどの大盛況だった。
この取り組みは、遠くに出歩けない高齢者たちのために、日本各地の360度映像を撮ってきてお見せするものだ。しかも、まだ出歩ける高齢者の人たちが360度の映像を撮ることもある。
ブースでは、そんなシステムを作っていることも紹介していた。
もちろん外出が難しい高齢者のリクエストに応えて、代表の登嶋さん自身もさまざまな地で撮影し続けている。
その映像を見るために、ゴーグルをかぶった世界では「ああ、ここ、ここ、後ろには桜の木もあったでしょ?」などと話をしながら後ろを振り向くと、そこには桜の木がある。
ビデオとは違って自分が向いた方向を見ることができる。気になるものがあれば確認できるし、ぐるっと見渡せる。
VR吹き矢というリハビリに活用されているVRアイテムも紹介。VR上に見える標的に向かってフッと吹くものだが、なかなか力一杯吹かないと標的に届かない。
リハビリなのだから少しは負荷がかからなければ意味がないし、いい運動になっていると思う。福祉施設で、場所やグッズを用意する必要もない。ダーツの旅のように、吹き矢が当たった土地をこれまたVR旅行で見られるなんてこともできるそうだ。
VRという最新機器も高齢者と相性がいいとボクは常に思っている。さらには、高齢者や福祉の世界でこれからもっと活躍するツールだとも思っている。
ボクがHMD(ヘッドマウントディスプレイ)でVRの世界を知ったのは、360度カメラでVR映像を見るようになったからだ。入院ばかりしていた頃、「どっかに行きたいなあ」そんなことを病院のベッドで呟いたとき、子供たちや登嶋さんが病院に世界中の映像を運んできてくれた。
「ああ、またここに行きたい」そんな欲が出てきて「頑張らねば」そう思ったことを覚えている。
ボクの動かない体での気持ちを大きく変えたツールであることは間違いない。今は、そのツールを使って自らいろいろ試すまでに至っている。
多種多様なアプローチをする各団体
株式会社ジャパンディスプレイが展示していたのは、「透明ディスプレイモニタ Raelclear」。
テレビで紹介しているのを見たことがあった。透明な縦置きのボードに今まさにしゃべった言葉がその透明なボードに映し出される。
例えば、受付に置いてあれば聴覚に問題がある方々に瞬時に認識される。逆側にいる人もお客さんの言葉が映し出される機能もある。「ああ、我が家にあったら補聴器を嫌う父との会話もスムーズかもしれないなあと思った。
筑波大学 デジタルネイチャー研究室・×Diversity が披露していたのが「ワードクラウド・ミーティング」は、遠隔でミーティングなどができるシステムだと思われるが、関係者不在のためタイミングが合わず唯一取材できなかった。
株式会社マリス・国立大学法人九州工業大学・株式会社マクニカ・NTTコミニケーションズ株式会社が行っている取り組みが「視覚障がい者の歩行アシスト機器「seeker」」 大学時代からこの研究の発案をしたという方にお話を伺った。

「ホームで先端がわからず転落してしまう白杖の方。
視覚障がいのある方は本当に困る」夜になるとならなくなるなんて初耳だった。さぞ困るだろう。
そんな事例を解消するアプリを開発しているという。携帯に入れて音声や振動で案内することができるようになるといい。
さらには、杖のセンサーとホームの端に取り付けたセンサーを反応させて、転落の防止も図る。一緒に開発している会社の数を見てもわかるように注目度もかなり高い開発らしい。
発案者から話を聞くことができて本当によかった。それをどうして始めたか聞くことは本当に意義がある。彼の想いが届くといい。
株式会社ワントゥーテンの「CYBER BOCCIA S」は、オリンピック種目にもあったボッチャを映像を使い視覚的にもオシャレなものに作り上げた。
審判はAIがやってくれる。開発会社の方がおっしゃっていたが、デジタルダーツのように会社や施設の片隅にあったら楽しんでいただけるんじゃないかなと。
テレビの取材も入ってなかなか盛り上がっていたことでもわかるように、見栄えの良い目立つ商品だったことは間違いない。

シスネット株式会社 が開発しているのは「SAT(仮称)」。聴覚、視覚、発話刺激に対応した言語機能支援アプリだ。発語のリハビリなどに使われる有名なカードや、よく使う挨拶、短い文が内蔵されていて、画面に映し出される人が喋る言葉を聞く。
次はその人と一緒に声を出してみる、そして一人でその言葉を言ってみる。最後には録音されている自分が話した言葉を聞いてみる。そんな訓練がスムーズにできるようにプログラミングができているのだ。
同じようなもので言語聴覚士の方と使って訓練したこともあるが、ここの特徴とするのは言語訓練のための有名なツールであるカードが全て網羅されていること。
ハードも一体化していること。
システムデザイン・ラボと北陸大学 服部研究室が出展していたのは「筋電位電動車いすコントローラーWH1」。こめかみの筋肉の動きをセンサーが感知して、電動車いすのコントローラーになる。
よく見るとおでこの辺りに5センチぐらいの幅の輪っかがぐるっと回っているが、ぱっと見、手も何も使わず車いすがぐるぐると動いているように見える。
「ん?遠隔でリモコン?」と興味を持って近づいてみた。早速リモコンも試す。右の奥歯を噛み締めると車椅子は右に進み、左を噛みしめれば左に進む。もちろんバックもできるし、ぐるぐる回ることだってできる。
ボクは残念ながらスイスイと一回でできることがかなり少ないが、それでもできた。ボクが試してもすぐできたってことは誰にでもできるレベルに近い。まあ、ボクは視野狭窄もあるから実用は難しいのだけど。

なんか、こちらのブースの方々が毎日楽しそうにデモンストレーションしているのでこちらまで楽しくなってくる。
「なんで『こめかみ』でやろうと思ったのですか?よく聞くようにALSなどの方で目の動きや口やそんな部位の機能が最後まで残るからですか?」3日目にあった時聞いてみた。
「なんでこめかみなんだって聞いてきた方は本当に珍しいです。興味を持ってくださってありがとうございます。研究室では実は福祉や介護でいろいろ遊んじゃおうって方向で研究しているんです。そこでいろいろ試していた時の副産物です。でもこうして実際ほとんど体が動かない彼(写真の方)やそのともだちが実際使ってくれてかなり使い勝手がいいんです。これ使えるんじゃないかって。おっしゃる通り顔の筋肉は最後まで機能として使えることが多いので、こめかみで筋電位を取ったことはさらにいい結果だったわけです。あと付けですけど。」とのこと。
何と正直な。「楽しみながら福祉。ご批判もあるでしょうけれど真面目に楽しんでます」ああ、いい研究者だなあ、開発協力者だなあとしみじみ思ったブースだった。ボクの遊ぶ車椅子もぜひ開発してほしいなんて思っている。
最後は、Qolo株式会社が開発している「Qolo」という起立モビリティモデル、起立リハビリモデルだ。筑波大学発のベンチャーで、開発研究者の彼のおばあちゃんが骨折で歩けなくなったことが起業のきっかけだったそう。

「あんなに趣味がたくさんあって料理も大好きだったおばあちゃんなのに、歩けなくなって立ち上がれなくなってあっという間に認知が進んだ。
立つということがどんなに大切なことかわかったんです。なので機械の力を借りで立ち上がれるものを作ったらと、そう思ったんです。」
初号機は立った状態で家事や本棚の本を取ったり、立ち上がりがスムーズでない人の補佐をする。立った状態の車椅子といった感じのもので、リハビリも済んである程度元気になった方が車椅子のように家の中を移動できるよう立ち上がりを補助する。
椅子から立った状態にするための動力には電力などを使っていない。なのにスムーズだ。
開発のエビデンスを取るのにつくばの医学部などとも共同で意見交換などし始めたそう。そこで「これ、リハビリにも使えるんじゃない?」と言われて、ボクのように全く立つことができない患者さんでも繰り返し立ち上がりの訓練ができるものも作っているという。
ボクもリハビリ用の車いすを試してみたところ、機械はあるけれど久々に立った。足の裏を両足つけて自分で立つということが、ボクにとってかなり特別な、そして素晴らしいことか。見える景色が違うのだ。

この感動を開発者の彼にもっと伝えればよかったと思う。彼の実家は農家だったため、いらなくなった農機具などの機械を分解してはいろいろなものをつくってみたり、父親が家のリフォームする時には中学生だった彼が設計図を書いたり、子どもの頃からものづくりが大好きだったそうだ。天性だなあ。そう思った。
そして自分のつくりたいものを形にして、もしかしたら売り出せるかもしれないというところまでやってきた。ぜひ数年後の福祉機器展でメーカーのブースでお目にかかりたいと思っている。彼の熱意と真摯な態度にはかなり好感を持った。
国際福祉機器展では開発者の話を聞ける絶好のチャンスだ。その話を聞くのは毎年楽しみである。今回は、注目すべき未来の福祉機器をじっくり見ることができた。