2人の祖父が女形。人を笑わせることが好きだった

くらたま

『みんな、本当はおひとりさま』読みました。

久本さんは、おじいさまが女形をされていたとか。ご先祖も人を楽しませるのがお好きだったのですね。

久本

そうなんですよー。それがわかったのは、2016年、NHKの『ファミリーヒストリー』という番組に出演したときです。そこで父方と母方の両方の祖父が女形だったことを初めて知りました。

祖父が2人とも女形で立っている写真まで出てきて笑いましたね。

実は幼い頃から、母方の祖父の話を聞いていたんです。踊りの美しさが格別で、住所がわからなくても名前だけ書けば手紙が届くほど、村では有名だったようです。

父方の祖父は舞台だけではなく普段から村の人たちを笑わせることが好きだったことを番組の中で知りました。“血”ってあるんだなぁと思いましたね。

くらたま

間違いなくあると思います!

久本

倉田さんのご両親、絵がうまいですか?

くらたま

うまいですね。なぜそんな性質が遺伝するかなぁと思うようなことが遺伝してますよね。

不思議。久本さんも、「人を喜ばせたい」というおじいさんたちのDNAですよね。

久本

そうですね。今の自分がいるのは本当に血であり、私の一つの使命かもしれない。お客さんの前で何かパフォーマンスして、喜んでくださることが一番元気になるんですよね。

久本雅美「いくつになっても適齢期は訪れる。結婚という形式にこ...の画像はこちら >>

くらたま

なるほど。舞台ってお客さんの反応がダイレクトにくるじゃないですか。あれは相当こちら側に響きますよね。

久本

はい。お客さんを喜ばせることができたことも、喜ばせることができなかったこともわかってしまう。緊張しますが、やりがいはありますね。正解がないものに対しての戦いなので追いかけてしまうところがあるのかもしれません。

くらたま

舞台をされている方は、ライフワークのように生涯続けられる方が多いですよね。舞台にそれほどの魅力があるんでしょうね。

久本

確かにね。でも、変な話ですけどここ何年かですよ。やっぱり舞台は面白いなぁってしみじみ思うのは。

年齢を経ることで、いろいろな役に対しての説得力が出てきたように気がするんです。

くらたま

年を重ねる中で今まで8ぐらい好きだったのが10好きになる経験ってすごく良いですよね。年を取ると、いろいろなことが下がっていく一方だという思いにもなりますからね。

久本

私は、次の舞台どうしたら面白くなるだろうと考えるのが楽しくてしょうがないです。自分の代表作のような舞台をつくりたいという意欲は60歳過ぎてから湧いてきましたね。代表作がつくれたら、早く死んじゃうかもしれない(笑)。人生100年時代って言われてるけど、寿命なんか誰にもわからないからね。

いよいよ自分の中の総仕上げに来ているというのは感じますね。

若手劇団員のお芝居に感動しスランプを脱出

くらたま

久本さんはスランプに陥ったことなどはなかったのですか?

久本

あります。若い頃、テレビのお仕事がすごく忙しくなって、少し舞台を休もうかなと思った時期がありました。

当時はレギュラーもたくさんあったし、若さで何でもこなしていたんです。でも舞台のクオリティが落ちてきていると感じてました。稽古期間や物事を考える時間が少なくなっていましたからね。

それに当時の私は「テレビも舞台も両方面白いと言われなきゃ嫌だ」というプライドがあったんです。

そんなとき、うちの劇団の若手の子たちの舞台を見に行きました。そこには、不器用ながらもお客さんに笑ってもらいたい一心でお芝居をする彼ら・彼女たちの姿があった。そして、それを見たお客さんもすごく喜んでいらっしゃった。もう、感動して涙が止まらなくなりましたね。

やりたいことができている。そのことへの感謝を忘れて、かっこをつけて逃げようとしていた自分に気づいたんです。

そして、どんなに忙しくてもテレビとお芝居の両方に挑戦し続けることを決めました。今でもそのときの思いが、原動力になっています。

くらたま

素晴らしいですね。有名になることで悩みが生まれることもあると思います。どんなときも久本さんを支え続けた信念ってあったんですか?

久本雅美「いくつになっても適齢期は訪れる。結婚という形式にこだわるより生き抜いたと思える人生を」

久本

私は人に対しても自分に対しても常に誠実でありたいと思って生きてきましたね。それに、どんなことでも全力投球しないと気が済まない性格です。稽古場の掃除も全力でやっていました。

久本

私は友達以上の家族未満みたいなスタンスだとラクかなとか思っちゃうんです。『聞かざる恋には理由があって』の影響です。夏川結衣さんが演じる女性が、本当に困ったとき、離婚した旦那さんに頼れる関係になっていく様子を見て、こんな関係性がいいなと思いました。

くらたま

友達以上家族未満か。新鮮さを失わずにちょうどいい距離感かもしれませんね。

いくつになっても適齢期は訪れる

くらたま

今は人生100年時代で価値観も多様になっているから、年齢を重ねて結婚する人がもっと増えてくるかもしれないですよね。

久本

結婚の“とき”っていうのは人それぞれだし、今は特に男女ともに独身が多い。いくつが適齢期というのはまったくなくなりましたよね。

くらたま

そうですよね。中年同士はもちろん、老年どうしで結婚というのも素敵だと思います。

久本雅美「いくつになっても適齢期は訪れる。結婚という形式にこだわるより生き抜いたと思える人生を」

久本

全然いい!『みんな、本当はおひとりさま』の巻末で対談している高橋ひとみさんも50歳を過ぎてから素敵な旦那さんに巡り合ったと聞きました。すごくかっこいい旦那さんなの!出会って2カ月、付き合ってから2週間のスピード結婚です。

くらたま

とんとん拍子に進んだんですね。独身の時期が長いとパートナーに求めるものも、研ぎ澄まされていくということもあるかもしれないですね。

久本

そうですね。本当に結婚って人それぞれだと思います。それに寄り添う人がほしいと思うのも、当たり前の感情だと思います。私もその思いに対して嘘をつかずに生きていたい。

結婚したり、パートナーをもったりすることに対して、夢を忘れないでおきたいなと思います。

くらたま

素敵です。

久本

でもこればっかりは縁だしね。

くらたま

そうそう。出会わないと…ですよね。

久本

そうですね。それに結婚したら幸せ、結婚しないから幸せじゃないということはあり得ないと思います。

独身で仕事ややりたいことにエネルギーをかけることが幸せな人もいれば、焦って結婚したあと家族に悩まされる人もいます。逆に家族と過ごす時間をかけがえなく幸せに思う人もいるわけです。

いくつになっても適齢期だと思っていれば、結婚はいくらでもできると思います。

死は頑張った人生の休憩のとき。生き抜いたと思える人生を

くらたま

いくつになっても適齢期、すごくいい言葉ですね!久本さんはご本の中に、死ぬことを恐れて生きるよりも生き抜いたいと思える人生を歩みたいというお話を書かれていましたよね。

久本

そうです。芸人の先輩である海原しおりさんが58歳で亡くなられたとき、相方のさおりさんはこうおっしゃっていました。「しおりさんは亡くなったんじゃない。生き抜いたんだ」と。その言葉に感動して、私もそんな生き方がしたいと思うようになったんです。

人は絶対死にます。死というものは、頑張り抜いた人生のあとの休憩の時間だと思います。次の世界への出発なので何も怖いことはないと思っているんです。だからこそ生きているうちに自分の器をできるだけ大きくしたい。

くらたま

素晴らしいです。そんなふうに生きられたら、最期に人生を振り返って見えてくる景色も変わりそうです。

久本

何ができたかよりも、何をしなかったかを振り返る方が、これからの人生は大きいんじゃないでしょうか。

やりたいことも身近なところからでいいと思うんです。例えば編み物が好きだったけど、この頃やってないなあとか、卓球好きだったから卓球行ってみようかなとか。

くらたま

そこから新たな楽しみが見つかることもありますよね。いろいろな理由でやりたかったことを心の奥にしまうしかなかった人って多いと思います。仕事が忙しかったり子育てで精一杯だったりして。

人生100年時代で寿命が延びた分、本当にやりたいことに時間を使う人が増えたらもっと素敵な世の中になりそうです。

  • 撮影:丸山剛史
久本雅美「いくつになっても適齢期は訪れる。結婚という形式にこだわるより生き抜いたと思える人生を」
倉田真由美イラスト

久本 雅美

1958年生まれ。大阪府出身。短大卒業後に親の反対を受けながら上京し、佐藤B作の主宰する劇団東京ヴォードヴィルショーに入団。その後1984年に喰始、柴田理恵らと劇団『WAHAHA本舗』を結成。軽妙なトークで人気を博す。フジテレビ『森田一義アワー 笑っていいとも!』では、女性では歴代最長の17年半に渡りレギュラーを務めた。現在は、『秘密のケンミンSHOW極』『ヒルナンデス!』(ともに日本テレビ系)など数多くのバラエティ番組やドラマに出演。

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