介護の葛藤を綴ったブログが入賞

くらたま

コンテストの応募に至るまでにどんな経緯があったのですか?

あまの

両親の病気に悩んでいた頃、気持ちを落ち着けるために、自分の状況を文章に書いていました。友達には、家族の話は重すぎるので話せないでいました。その、誰にも言えなかった思いをメモに書き溜めていたんです。

くらたま

もともとは、自分の心を整理するためでもあったのですね。その文章はいつ頃noteに投稿したんですか?

あまの

母が亡くなって半年ほど経った2019年の6月頃です。最初は匿名で投稿していたんですが、途中で思い切って実名を出しました。

ちょうどこの頃、noteが「#コミックエッセイ大賞」の応募作品を募集していたんです。

くらたま

なるほど。ちなみに絵はんこは何がきっかけで始められたのですか?

あまの

会社員時代、仕事のつらさを癒すために始めたのがきっかけです。最初はなかなか上手くいかなったんですが、思いのほか好評をいただけたんです。

そして、似顔絵や名前が入ったオーダーはんことして、注文を受け始めたんです。徐々に版画のイラストをつくる仕事も増えていき、イラストレーターのようになっていきました。

元々、漫画を描くのは好きでしたが、イラストを描くのがすごく得意だったわけではありません。中学生のときは、美術の成績がとても悪かったとこともあります。そこから絵に対して自信をなくしてしまい、しばらく書いていませんでした。

はんこは社会人になってから何の気なしに始めたんです。

くらたま

まさに怪我の功名。結果的に良いものに出会えましたよね。

あまの

そうですね。思いがけず好きで続けられるものに出会えて嬉しいです。

父が認知症になり、変わっていく家族

くらたま

ご本の中のお話ですが、お父さまの若年性認知症は、いつ頃わかったのですか?

あまの

父の行動がおかしいと思い始めてしばらく経ってからです。最初は致命的な記憶障害ではありませんでした。てんかんの重積発作を起こしたことがあるので、その後遺症ではないかと言われていたんです。

くらたま

あまのさんの年齢でお父さんの介護というのは、本当に早いと思います。でも起こらないわけではないからね。

社会的処方というものを、若い頃に知っておく必要がありますよね。

地域住民をつなぐ活動にやりがいを実感

くらたま

今、あまのさんは岩手に住んでいるんですよね。移住してどれぐらいですか?

あまの

ちょうど1年ぐらいです。友人に声をかけられて岩手に来ました。

車でも電車でも盛岡から20分ぐらいの紫波町という地域です。

くらたま

地縁がないのに岩手を選ぶのは珍しいですよね。

あまの

そうですね。後先を考えないタイプで、直感的にこの地を選びました。生き生きしている地域の人たちが素敵で「ここで働くんだったらこの人たちのそばにいられていいな」と思ったんです。環境もいいし、不便はあまり感じないですね。

くらたま

岩手では「地域おこし協力隊」もされているんですよね。地域の魅力を伝えるような活動ですか?

あまの

そうですね。地元の人にとっては当たり前になっている魅力を見つけて伝えることにやりがいを見出しています。ものづくりをする人たちの取材や、地元の高校などで講演をすることもありますね。

くらたま

楽しそうですね。あまのさんのお気に入りの場所はできました?

あまのさくや「30代での介護。あえて”父と距離をとる”という...の画像はこちら >>
あまの

紫波町図書館です。

この図書館では「町での立ち話からも貴重な情報が入る」と捉えていて、町の人の声を企画展示に反映したり、普段図書館に来ない人の元に図書館が出張して出向いたりもしています。

地域住民と司書さんのコミュニケーションが温かいし、BGMがかかっていたり、飲食OKのスペースがあったりもする。お喋りも禁止ではありません。

赤ちゃんが泣いていても、「静かにして」と注意して終わりではなく、読み聞かせをしてくれることも。理想的な社会の縮図のような場所です。

くらたま

素敵ですね。コミュニティの大切さが見直されていますが、図書館がその場所になる可能性を感じます。社会的処方のお話もそうですが、やはり地域でのつながりをつくることは今の時代大きいですね。

あまのさんが、介護の悩みに向き合う人に伝えたいことって何ですか?

あまの

あんまり自分を犠牲にしないでほしいということですね。

くらたま

本の帯にも載っていましたね。自分の人生も諦めたくないって!これは大事なことよ。ましてや30代…あきらめたらダメです。

あまの

そう言っていただいて、安心しました。

くらたま

あまのさんが30代でお父さんと離れる選択をすっとできたことは、とてもいいと思います。それに、そういう子どもの選択のために、施設ってあると思う。自分の歩みたい道で納得のいく人生を築いてください。

  • 撮影:丸山剛史
あまのさくや「30代での介護。あえて”父と距離をとる”という選択をして良かった」
倉田真由美イラスト

あまのさくや

1985年、カリフォルニア州生まれの東京育ち。青山学院大学卒業後、会社員時代を経て絵はんこ作家になる。認知症の父と末期がんの母との日常を綴ったブログ『時をかける父と、母と』が幻冬舎×テレビ東京×noteコミックエッセイ大賞にて準グランプリを受賞。現在は岩手県・紫波町に移住し、絵はんこやエッセイの創作のかたわら「地域おこし協力隊」として活動している。チェコ親善アンバサダーも務め、チェコ共和国の魅力をはんことことばで伝えることをライフワークにしている。5月に旅行記エッセイ『チェコに学ぶ「作る」の魔力』(かもがわ出版)を刊行予定。

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