6月13日に東京都北区の高齢者施設で集団食中毒が発生したとの報道がありました。
55人が下痢や腹痛などの症状を訴え、うち6人からウェルシュ菌が検出されたとのことです。
ニュースでは病原菌と感染人数の情報しか報道されませんが、集団食中毒が起きた施設ではどのような対応がなされているのでしょうか。
特養勤務経験のある編集部クラウチが解説します。
高齢者の食中毒は重症化しやすい
食中毒の多くは、細菌やウイルスによって起こります。実は、細菌は保菌しても皆同じように発症するとは限りません。
しかし病気や高齢のため免疫が落ちていれば、発症や重症化、合併症や後遺症の危険が高まります。
たとえば、激しい下痢や嘔吐から脱水を起こし、意識を失うことも。
「広めない」ことの重要性
病院や高齢者施設は「生活の場」であるため、二次感染が起こりやすくなります。お風呂やトイレ、食卓などを共有していれば、細菌やウイルスを含んだ吐物や便に近付く危険性が高まります。
また、認知症や体の機能低下の影響で、失禁してしまう方、お部屋でおむつ交換している方、食事介助が必要な方などもいらっしゃいます。
そのため、介助する職員の手を介して病原体がうつる可能性が高いのです。
今回のウェルシュ菌は、夏に増える細菌による食中毒。多くが肉や魚などの食品由来です。二次感染は少ないと言われています。
しかし、高齢者施設で感染者が出た際、トレイ内からウェルシュ菌が検出された事例はあります。
検査や診察が行われるより前に、常に最悪の事態を想定して「広めない」行動をとっていきます。
現場での対応負担も膨大に
食中毒が発生したとき、現場の職員は、具体的にはどう対応するのでしょうか。たとえば、排泄介助では普段以上に手指やトイレ内の洗浄、消毒を徹底します。
また下痢で汚れたズボンを着替えていただくなど介助工程が増えることも。職員が感染し、媒介者にならないよう気を張る場面です。
食事については、食中毒の場合、施設内の調理室が業務停止になるでしょう。また、私のいた特養では、感染症の発生時は、各利用者様に個室で食事を提供しました。
しかし誤嚥や窒息のリスクがあるため、各部屋をこまめに巡回する必要があります。
また、施設や病院で同時多発的に発症すると、職員の負担も増えてしまいます。たとえば、新型コロナウイルスの場合は、感染拡大リスクを下げるため、防護ガウンを着用していました。熱がこもるため、夏は職員が熱中症になりそうな状況でした。
また、「感染者対応」の職員とそれ以外の職員が分けられ、行き来できなくなることも。心身の余裕がなく、人手も足りなくなると、利用者様の思わぬ事故や怪我につながります。
医療、行政、現場 一体となって対応
介護士は、医師ではないので診断はできません。まずは誰が、いつ、どんな症状なのかを把握して医療職に報告します。
看護師や医師が職員としている施設、看護師のみ常駐の施設、日中だけいる施設など様々です。
私がいた特養では、日中は看護師がおり、医師は嘱託医師(地元の医師)が週一回の回診でした。夜間はオンコールと言って、帰宅した看護師に電話して指示を仰ぐことができました。
医療職は「感染症かもしれないから、共用トイレは使用中止にしよう」など、現場に対応を指示します。そして、食中毒や感染症が疑われる場合は保健所に速やかに連絡します。
保健所の指示で、施設内の食事提供を中止するのか、面会を制限するのかなどの決定をします。ある施設では、新型コロナウイルスでクラスターが発生し、系列施設からスタッフを補充したそうです。私のいた施設でも、他フロアやデイサービスの職員をヘルプで呼ぶなど、施設一体となって対応していました。
まとめ
今回の件は他人事ではありません。