かつて、多くの学校の図書室にあって、たくさんの子どもたちが涙した漫画『はだしのゲン』。原爆の悲惨さと、どんな困難にも負けずに力強く生きるゲンの姿は、私たちに平和の大切さを教えてくれる、まさに「平和教育のシンボル」でした。
でも、そんな『はだしのゲン』が、今、静かに教育の現場から姿を消しつつあるって知ってましたか?
「残酷すぎる」「内容が偏っている」…。そんな声に押されて、教科書から削除されたり、図書館で自由に読めなくなったりする動きが広がっているんです。
一体なぜなのでしょうか? これは単に漫画が古くなったから、という話だけじゃないみたい。その裏には、日本の「戦争の記憶」をめぐる、とっても深くて複雑な問題が隠されているんです。今日は、そのナゾを一緒に見ていきましょう!
そもそも『はだしのゲン』ってどんなお話?この物語は、作者の中沢啓治(なかざわ けいじ)さん自身の、壮絶な体験が元になっているんです。
6歳だった中沢さんは、広島で被爆し、目の前でお父さんや姉、弟を亡くしました。焼け跡の中で、たった一人で生き抜いたゲンの姿は、中沢さん自身の魂の叫びそのものだったんですね。
だから、このお話はただ「戦争はイヤだ」って言うだけじゃないんです。お父さんがゲンに遺した「踏まれても踏まれても、強い芽を出す麦になれ」という言葉のように、どんな逆境にも負けない生命の力強さが、一番のテーマになっています。
みんなの「必読書」になったワケ『はだしのゲン』が特別なのは、子どもたちに大人気の『週刊少年ジャンプ』で連載が始まったこと。これがきっかけで、戦争を知らない世代にも、原爆の恐ろしさがリアルに伝わったんです。
文字ばかりの教科書よりも、絵で直接心に訴えかける漫画の力は絶大でした。
平和の象徴だったはずの『ゲン』。でも、いつからか風向きが変わってしまいます。主に、次の3つの点が批判されるようになりました。
1. 「子どもには残酷すぎる!」という声
一番よく聞かれるのが、この意見です。原爆で焼けただれた人々の姿など、直接的な描写が「子どもにトラウマを与える」と言われるようになりました。
2013年には、島根県の松江市で、子どもたちが自由に読めないようにする「閲覧制限」がかけられ、全国的な大ニュースになったことも…。
もちろん、「このリアルさこそが、戦争の本当の姿を伝えるために必要だ」という反論もたくさんあります。
2. 「反日的な漫画だ!」という批判
次に、物語の内容が「日本を悪く描いている」「偏った歴史観だ」という批判です。
旧日本軍がアジアで行ったとされる残虐な行為の描写
「天皇にも戦争の責任がある」と叫ぶシーン
こういった部分が、一部の人たちから「自虐的だ」「反日的だ」と強く攻撃されるようになってしまいました。
これはもう、漫画そのものというより、日本の過去の戦争をどう捉えるかという、大きな”歴史をめぐる戦い”の一部になってしまっているんですね。
3. 舞台である「広島」でも教材から削除に…そして、一番ショッキングだったのが、2023年の出来事です。
理由は「漫画の一部だけでは、被爆の実相が伝わりにくい」などと説明されましたが、「過激な描写や政治的な部分を避けたかったのでは?」と考える人も少なくありません。
『ゲン』が消えたあと、私たちは何を学ぶの?『はだしのゲン』が遠ざけられる一方で、アニメ映画『この世界の片隅に』のように、戦争の中でも懸命に「日常」を生きた人々の姿を描く、より穏やかな作品が注目を集めるようにもなりました。
怒りや告発よりも、静かな悲しみや共感が、今の時代には受け入れやすいのかもしれません。
でも、『はだしのゲン』が持つ、魂を揺さぶるような”怒り”と”生命力”は、他のどんな作品にも代えがたい、特別な力を持っています。
公式の場から姿を消しても、この物語が持つ価値が消えるわけではありません。未来の私たちが、ゲンの力強い声をまだ聞くことができるかどうか…。それは、私たち一人ひとりが、過去とどう向き合っていくかにかかっているのかもしれませんね。
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