【信用取引入門】第23回:信用取り組みについて(東証全体)の画像はこちら >>


【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第22回:東証の買い残高と売り残高の推移から見られる傾向について(市場全体)

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信用取引の買い残高と売り残高は、その推移だけでなく、買い残高と売り残高の割合からも株価動向を探る重要なヒントを教えてくれます。
そこで今回は、買い残高と売り残高の比率から市場全体の方向性を読み解くポイントについて解説します。



突然ですが、皆さんは、「取り組み(とりくみ)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

この「取り組み」という言葉ですが、そう、相撲でよく聞く言葉ですね。相撲の取り組みは試合の組み合わせのことを指しますが、信用取引でいうところの「取り組み」とは、買い残高と売り残高の比率のことを言います。
因みに、買い残高と売り残高の比率のことを、信用倍率と呼びますが、信用倍率のことを「取り組み(とりくみ)」とも呼んでいるのです。

ではまたここで質問です。買い残高と売り残高の比率(売買代金ベース)は、何倍くらいだと思いますか?

前回、12月6日申し込み時点の買い残高と売り残高を紹介しましたが、紹介した数字を使えばすぐ算出できます。ただ、買い残高と売り残高のどちらを主体として考えるのかによって答えが変わってきますので注意が必要です。

普段使われている信用取引の取り組みを算出する場合は、買い残高÷売り残高となります。売り残高に対して何倍の買い残高があるのかを示すものになります。

そこで、12月6日時点の買い残高(4兆2,423億円)と売り残高(7,045億円)を使って実際に計算してみると、

信用倍率=4兆2,423億円÷7,045億円=6.02倍

となりました。ここでまた質問です。この倍率は高いのでしょうか。また低いのでしょうか。



そこで今回も2024年12月6日申し込み時点から1月12日申し込み時点まで遡って調べてみました。すると、平均値はおよそ5.95倍、最大値は8月2日申し込み時点の8.72倍、最小値は2月22日の3.77倍といった結果でした。12月6日時点の信用倍率6.02倍は平均値よりも高いことになりますが、8.72倍まで上昇していたことを考えますと、それほど高水準とは言えない状況です。

一方で、2024年の取り組み(信用倍率)が2月22日の3.77倍から8月2日の8.72倍と、およそ2.3倍にまで膨らんでいることを指して、専門的には「取り組みが悪化した」などと表現し、株価の上値が重たくなるサインとされています。

理由として挙げられるのが、買い残高と売り残高のバランスの悪化です。バランスの悪化が上値の重たさを示すサインとされるのは、買い残高の増加や売り残高の減少が発生している状態だからです。

買い残高が増加すると、制度信用取引では6カ月以内に返済しなければなりません。そうした返済期限付きの買い残高だけが増加したり、逆に売り残高だけが減少したりした場合、株価を押し上げるエネルギーが乏しくなると共に売り圧力を吸収できなくなることが考えられるため、信用倍率が上昇して取り組みが悪化した場合、悪材料が出ると市場全体の売り圧力が上昇して株価の下落要因になると考えられているのです。

一方で信用倍率が低下すると、逆に「取り組みが良くなった」であるとか、「取り組みが改善した」などといって、需給関係から見た株価の下支えや押し上げ材料と考えられています。

理由は、取り組みの改善は、買い残高の減少か、売り残高の増加を意味し、将来の売り要因が減少するとともに将来の買い要因が増加して、需給が好転する兆しと捉えられているからです。

こうした理由から市場全体の取り組みが改善しているのか、あるいは悪化しているのかを毎週確認して、その傾向を知ることができれば、需給バランスから見た株価予測につなげることができ、高値掴みや安値で売ってしまうことを避けることにも役立つことが考えられるため、残高の推移とともに信用取引の取り組みとその傾向を把握できるようになりましょう。

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