【信用取引入門】第24回:信用取り組みと株価の傾向について(...の画像はこちら >>


【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第23回:信用取り組みについて(東証全体)

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いよいよこのコラムも最終回となりました。そこで今回は、信用取引の取り組みと株価の傾向について、実際のデータを基に解説していきたいと思います。



前回、2024年の取り組み(信用倍率)が2月22日の3.77倍から8月2日の8.72倍まで上昇したことを紹介しましたが、このように3倍台後半の取り組みから8倍台後半まで上昇すると、株価にどのような変化が起こったのでしょうか。

実際、8月2日申し込み時点のように8.72倍まで取り組みが悪化したということは、2月22日時点より買い残高が増加したか、売り残高が減少したことになり、将来の買い要因が減少する反面、売り要因が増加したと解釈されます。

実際に確認してみると、2月22日の売り残高は1兆614億円、買い残高は4兆50億円でしたが、8月2日申し込み時点の売り残高は5,586億円、買い残高は4兆8,720億円と、売り残高が減少する一方で買い残高が増加するという、まさに信用取引における取り組みの悪化(=需給の悪化)が起こっていたのです。

実際の株価についても、8月2日と言えば、もうお分かりだと思いますが、過去最大の下げ幅が発生した8月5日の前営業日です。このように取り組みが悪化する中で、米国景気の下振れ懸念といった悪材料が伝わったことで売り圧力が強まり、通常でも買い注文が入りづらいなか、売り残高が少ないために買い戻しも少なくなり、株価下落時のブレーキ(下支え)にならなかったばかりか、積み上がった買い残高のロスカット(損切り)が大量に出て、下げを加速させてしまう要因の1つになってしまったのではないかと考えられるのです。

一方で、取り組みが改善(=低下)している状態のときの株価はどのように動いていたのでしょうか。2024年の取り組みで最低水準は2月22日の3.77倍と紹介しましたが、他にも3倍台だったのが、1月12日(3.95倍)、1月19日(3.85倍)、2月16日(3.86倍)、3月22日(3.86倍)の各申し込み時点でした。

これらの時点での株価水準を見ますと、年始の33,000円台から最初に4万円をつけるまでとなっており、この期間に集中していることが分かります。実際、3月22日につけた3.86倍を最後に、その後一度も3倍台に低下していません。

こうした状況から、2024年は信用取引の取り組みが3倍台で推移していた間、株価の上昇傾向が続いていたと考えることができそうです。また、今後取り組みが3倍台に低下するような状況になると、需給の改善によって株価の上昇や上放れにつながることになるかもしれません。

いかがだったでしょうか。

信用取引の取り組みの状況が株価に影響を与えていたり、また株価動向を読み解くカギになったりするということがお分かりいただけたのではないかと思います。

では最後に、取り組みをチェックする際のポイントを紹介して終わりにしたいと思います。そのポイントとは、信用取引の取り組みを、水準に加え時系列で追いかけることです。

水準では、2024年の傾向として、取り組みが3倍台に低下すると株価の上昇傾向がみられましたが、一方で9倍近くまで上昇すると、きっかけ次第では大幅安につながる状況もみられました。また他にも、残高の水準についても同様のことが言えましたね。もちろん、相場は様々な要因で変動するため一概には言えませんが、信用倍率が高まると警戒が必要と言えそうです。

ただ、ここで示した事例のように結果だけを見てしまうと後追いになってしまい、先に行動を起こすことができません。そこで実践したいのが、時系列で信用取引の取り組みを追いかけることです。

市場全体の取り組みが、時間が経過するごとに低下傾向で改善しているのか、あるいは上昇して取り組みが悪化しているのか、毎週取り組みをチェックすることで、今回紹介したような目安を見つけ出すことができます。また、改善や悪化傾向が分かれば、売買タイミングを計るのにも活用することができると思われます。

さらに今回紹介した目安が2025年でも同様な傾向を示すと考えた場合、これらの水準に達して、取り組みが改善したり、悪化したりした場合、売買判断に役立てることができるのではないでしょうか。

特に市場全体の取り組みを知ることは、信用取引を行っていない投資家にも相場の先行きを判断するための材料になると思われますので、是非皆さんの周りの投資家とも信用取引情報を共有、また活用していただき、負けない投資家になってほしいと思います。



皆さんの投資の成功を祈念しております。

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