実質賃金とは?名目賃金との違いや計算方法をわかりやすく解説の画像はこちら >>


実質賃金とは、名目賃金から物価変動の影響を除いた指標を指します。実質賃金が下落すると、モノやサービスを購入する際の負担が重くなることを意味します。



本記事では、実質賃金の計算方法や、下落・停滞する要因についても解説します。

実質賃金とは

実質賃金とは、労働者が実際に受け取る賃金から物価変動の影響を除いて算出した指標のことです。毎月、厚生労働省が「毎月勤労統計調査」の中で発表しています。

ここから、実質賃金と名目賃金の違いや、実質賃金からわかることについて解説します。

実質賃金と名目賃金の違い

実質賃金と名目賃金の違いとして、物価変動の影響を取り除いているかという点が挙げられます。

名目賃金とは、従業員に支給される給与のように、労働者が実際に受け取る賃金のことです。それに対して実質賃金は、名目賃金から消費者物価指数を基準に物価変動の影響を除いて計算する数値を指します。

例えば、名目賃金が5%上昇したとしても、物価も5%上昇しているのであれば、実質賃金は基本的に変動しません。

実質賃金からわかること

実質賃金を確認すれば、労働者の生活水準を把握できます。なぜなら、実質賃金は購買力を反映するためです。

仮にある年の名目賃金が月30万円と仮定します。翌年名目賃金が月35万円まで上昇した場合、一見するとより多くのモノを購入したり、サービスを利用したりできるように感じるでしょう。

しかし、物価も同じくらい上昇していれば、名目賃金が増えたからといって買えるモノや利用できるサービスは増えません。それに対して実質賃金は、名目賃金も物価も同じように上昇している場合に値が上昇しないため、購買力に変動がないと判断できます。

実質賃金を計算する方法

実質賃金は、名目賃金と消費者物価指数を用いて計算可能です。ここから、実質賃金の計算式や計算例を紹介します。



実質賃金の計算式

実質賃金は、以下のように名目賃金から消費者が日常的に購入する商品・サービスの価格がどれくらい変動したか示す「消費者物価指数(CPI)」を割って計算できます。

・実質賃金指数 =名目賃金指数 ÷ 消費者物価指数 × 100

消費者物価指数について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

「消費者物価指数で物価変動を確認!算出方法やアメリカとの違いも解説」

なお、厚生労働省が毎月勤労統計調査で発表する実質賃金指数は、基準年の平均を100として計算されています(2024年は2020年を基準年)。なぜなら、実質賃金指数に使われる名目賃金指数が、実数(名目賃金)を基準数値で割って100をかけることにより算出された値のためです。厚生労働省の発表する実質賃金指数が100超であれば2020年よりも実質賃金が上昇し、100未満であれば実質賃金が2020年よりも下落していることを意味します。

実質賃金の計算例

ここで、ある年の名目賃金が年420万円、基準年における名目賃金が年400万円で、消費者物価指数が105のケースで、ある年の実質賃金指数を計算してみましょう。

ある年の名目賃金指数は1.05で(420万円 ÷ 400万円)、実質賃金指数は1と計算できます(1.05 ÷ 105 × 100)。そのため、このケースでは対象年から賃金が20万円も増えているのにもかかわらず、実質賃金指数に変動がありません。

実質賃金・名目賃金のデータ

ここで、日本の実質賃金や名目賃金の推移を確認したうえで、海外の数値と比較してみましょう。

日本の実質賃金・名目賃金の推移(2017~2024年)

2017年から2023年までの日本における実質賃金指数・名目賃金指数の推移(事業書規模5人以上)を以下の表にまとめました。

実質賃金とは?名目賃金との違いや計算方法をわかりやすく解説


表から、2022年・2023年と名目賃金指数が上昇しているにもかかわらず、実質賃金指数は下落していることがわかります。賃金が上昇する一方で、物価もさらに上昇していることが要因と判断できるでしょう。

なお、速報ベースで2024年10~12月の実質賃金指数は114.3でした。また、2024年全体の実質賃金指数は99.4です。



G7各国の名目・実質賃金比較

少し前のデータではありますが、厚生労働省が「令和4年版 労働経済の分析」において、1991年を100とし、G7各国の2020年までの賃金推移を比較したデータを発表しています。そのうち、2020年部分をピックアップした表が以下の通りです。

実質賃金とは?名目賃金との違いや計算方法をわかりやすく解説


上記の表からは、イギリスやアメリカは実質賃金が1991年と比べて大幅に上昇しているのに対し、日本やイタリアは大きな変動がないことがわかります。

なお、G7がどのような集まりなのか知りたい場合は、以下の記事も参考にしてください。
G7とは?加盟国やG20との違いについてもわかりやすく解説

実質賃金が下落・停滞する要因

実質賃金が下落したり停滞したりする主な要因は、以下の通りです。

・インフレーションが続く
・企業が賃上げをためらう

ここから、各要因について解説します。

インフレーションが続く

インフレーション(インフレ)が続くと、実質賃金が下落したり停滞したりする要因になるでしょう。

インフレーションとは、モノの値段が全体的に上がることにより、お金の価値が下がることを指します。また、一般的に消費者物価指数が前年より上昇した率を意味する言葉が、物価上昇率・インフレ率です。

実質賃金は消費者物価指数を使って算出する指標のため、名目賃金の上昇率がインフレ率より低ければ、数値は下がります。

なお、景気が停滞しているにもかかわらず物価が上昇することを意味する言葉がスタグフレーションです。スタグフレーションについては、以下の記事を参考にしてください。

「スタグフレーションとは?原因・対策や過去の事例についても詳しく解説」

企業が賃上げをためらう

企業が賃上げをためらうことも、実質賃金が下落したり、停滞したりすることにつながります。

企業が賃金をためらっていると、名目賃金は上昇しません。実質賃金は名目賃金を消費者物価指数で割って求める指標のため、名目賃金が横ばいの場合は、消費者物価指数が下落しない限り基本的に実質賃金は下落か停滞することになります。

実質賃金の下落が家計に与える影響

実質賃金が低下すると、モノやサービスを購入する際の負担が重くなるため、生活が苦しくなる可能性があります。

実質賃金が下落するのは、消費者物価指数が下がらない状況で名目賃金が下落するか、名目賃金が上がらない状況で消費者物価指数が上昇する場合です。

給料が今までと変わらないのに食品の値段が上がる(実質賃金が下落する)ことをイメージすると、家計負担が重くなることが理解できるでしょう。

政府や企業が実質賃金下落を防ぐためにできること

政府が実質賃金の下落を防ぐためにできることは、主に以下の通りです。

・賃金・雇用に関する政策を実施する
・過度なインフレへの対策を講じる

また、企業も労働生産性を高めることにより実質賃金下落を防げる場合があります。それぞれ確認していきましょう。

賃金・雇用に関する政策を実施する【政府】

政府が賃金や雇用に関する政策を打ち出すことが、実質賃金の下落を防ぐ方法のひとつです。

例えば、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額を定めた「最低賃金」を上げると、名目賃金の上昇を通じて実質賃金の改善につながる可能性があります。また、雇用の安定を促す政策を実施することも、名目賃金の上昇につながることがあるでしょう。

過度なインフレへの対策を講じる【政府】

政府が過度なインフレへの対策を講じることも、実質賃金の下落を防ぐことになりえます。なぜなら、インフレへ対策を実施することにより消費者物価指数が上昇することを抑えられるためです。

具体例として、政府が高騰するエネルギー価格に対して補助を出す、中央銀行(日本銀行)が適切な金融政策を実施するなどの対策が挙げられます。

労働生産性を高める【企業】

労働生産性と実質賃金の伸び率には比例的な関係が見られるため、企業が労働生産性を高めることも、実質賃金下落を防ぐためにできることです。

労働生産性とは、労働者がどれくらいの成果を出したのかを示す指標です。労働生産性を上げる具体的な方法として、従業員教育などを通して業務の無駄を省いて質の高い結果を目指す、ITツールの導入や設備投資を進めるなどがあります。労働生産性の計算式などについては、以下を参考にしてください。

労働生産性の定義とは?計算式や向上させる方法をわかりやすく解説

実質賃金は名目賃金や消費者物価指数と関係がある

実質賃金は、名目賃金を消費者物価指数で割って計算する指標です。

実質賃金の推移を確認すれば、購買力や生活水準の変化がわかります。

一般的に、実質賃金が下落・停滞するのは、インフレーションが続いたり、企業が賃上げをためらったりするときです。また、実質賃金の下落・停滞を防ぐには、政府が各種政策を打ち出す方法や、企業が労働生産性を向上させる方法があります。

厚生労働省が実質賃金指数を発表しているので、家計への影響を把握するためにも毎月チェックしてみてはいかがでしょうか。

参考:厚生労働省「毎月勤労統計調査全国調査で作成している指数等の解説(令和4年1月部分入替え(ベンチマーク更新))」
参考:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年分結果速報」
参考:厚生労働省「コラム1-3-1図 G7各国の賃金(名目・実質)の推移」

ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。

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